第124話 砦からの脱出を図る三人
「と、とったぞ、これで助けてくれるんだな!」
軍曹の語気が強くなった。そんな軍曹を冷めた目でメンヘルが見下ろす。
「私の目、見ようとしないのね」
「と、当然だ。狂うとわかっていて見て、た、たまるか。それより早く、薬かなにかがあるんだろう!」
ゲホッゲホッ、と咳き込み吐血しながらも軍曹は目は絶対に合わせようとしない。
だがメンヘルは特に気にもとめていないようだった。
「わかったわ。だけどそのために鏡がいるわ」
「は? か、鏡、だと?」
「そう。もしくは人をうつせる何かね」
「そ、それならこれで、いいか?」
軍曹が懐から小さな鏡を取り出した。目を合わせることもなく前に鏡を突き出す。
「へぇ、意外と身なりに気を使っていたのね」
くすっと笑いつつメンヘルが鏡を軍曹の手からとり自身の目をうつしだした。
「これで、た、助かる、の、か?」
「えぇ。楽になるって意味ならね」
軍曹にそう返した直後メンヘルの手がその頭を掴みぐしゃっと潰した。頭が砕け倒れた肉塊を眺めつつメンヘルがため息を吐く。
「スマートじゃないから本当はこの手、使いたくなかったけど仕方ないわね」
そうひとりごちた後、メンヘルが軍曹の鎧を砕いた。
「やっぱり自分にかけた後は制御が難しいわね」
両手で開け締めを繰り返した後、軍曹の体を探り見つけた薬を口に含んだ。
「くぉいつがもってれようかったうわ」
瓶を口に含んだままメンヘルが移動を開始する。
「うぉ! お前なぜ外に!」
「ふぁいふぁい」
兵士に見つかり仲間を呼ばれそうになるがメンヘルが視線を合わせたことで兵士が暴走を始めた。
そうやって砦の騎士や兵が狂化し暴れ出す。
そして扉を見つけた後は拳で扉を破壊し捕まっていたライアーを見つけた。
「――たく、もうちっと優しくしてぇな……」
「良かった薬の効果はあったようね」
ライアーの口に嵌められていた金具を砕いた後、瓶を噛み砕き薬を彼にぶっかけた。ライアーは酷い傷を負っていたが薬のおかげで軽口を叩ける程度には回復したようだ。
「薬じゃこの程度だけどそれなら能力が使えるでしょう?」
「ばかいえ。この程度わいもガルも、大したこと、あらへんで……」
「えぇそうね」
メンヘルがうなずくと途端にライアーの傷が治りガバッと起き上がった。
「やれやれ、助かったわ。しかしわいの力を知っていてなお信じて見せるなんて器用やなあんはんは」
「相手の嘘に付き合うのも時には大事よ。さ、あとはあの脳筋ね」
ライアーと二人ガルを探そうと部屋を出るとすでにガルが鍬を振り回して兵たちを蹴散らしていた。
「貴方の能力もやっぱり大した物よ」
「おいガル。あまりやりすぎても面倒や。とっとと出るで」
「うん? そうか急に回復したと思えばお前の、おまえ、の、て、何だその格好はーーーーーー!」
目玉が飛び出さんばかりに驚くガル。それはライアーではなくメンヘルを見ての反応だった。
「私がどうかしたの?」
「全裸だからやろ。それとちょっと臭うで」
「雄の匂いよ。仕方ないでしょう体はったんだから」
「体はったって、お、お前、い、一体何を!」
「はいはい。いいからさっさと出てくわよ」
「ま、待て待て! くっ、せめてこれを羽織れ!」
ガルは騎士のマントを剥ぎ取りメンヘルに投げつけた。
それを受け取り体を隠すように包まる。
「……貴方って意外と純情なのね」
「だ、だまれ! さっさと行くぞ!」
そして顔を真赤にさせながら駆け足になるガルにメンヘルとライアーが苦笑しつつ三人が砦から脱出するのだった――
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