第123話 サジェス砦にて

 ウォルトの町を恐怖に突き落とした三人。それぞれが黒い紋章を持ち通常の紋章では考えられないような異能を扱う。


 しかしネロたちの活躍により無力化され、冒険者ギルドから王国の騎士団に引き渡された。


 三人は騎士の手でサジェス砦に連行され尋問を受けていた。勿論ただの尋問ではなく拷問を含めたものであり――そして今、三人の中の紅一点メンヘルが手枷を嵌められ足を縄で縛られ生まれたままの姿で冷たい床に転がされていた。


 勿論目隠しによって視界も遮られている。メンヘルの瞳を見たものは凶暴化し手がつけられなくなってしまうからだ。


「――どうやら怪しい物は何も隠してないようだな」


 周囲は屈強な騎士と兵士に囲まれている。全員男だ。名目上は抵抗を受けても取り押さえられるようにだが、今の状態でメンヘルが抵抗できるようには思えない。


「――全く酷いわね。奥まで・・・指でまさぐるんだから。ちょっと傷ついたじゃない」

「フンッ。それぐらい我慢しろ。お前らみたいのはどこに何を隠しているかわからんからな」


 鎧姿の騎士が鼻息荒く答えた。真顔でメンヘルをにらみ続けている。


「それと言っておくがまだ検査が終わっただけだ。本格的な尋問はこれからだからな」

「……尋問ね。それでライアーとガルは生きているのかしら?」

「ほう? 意外だな。一応は仲間意識があったのか」


 騎士が大げさな身振りで返す。勿論メンヘルには見えていないが。


「まぁ安心しろ生きてはいるだろう。まだまだ聞きたいことはある。尋問も始まったばかりだからな」

「そう――」


 囁くような声でメンヘルが呟いた。そんなメンヘルに周囲に立っている男たちの視線が突き刺さる。


「しっかし罪人とは言えいい体してやがるぜ」

「あぁ全く。軍曹。せっかくだから少しは楽しみませんか?」


 男たちの下卑た会話が始まった。この中で一番階級が上と思われる軍曹はムスッとした顔のまま部下の顔を睨めつける。


「馬鹿な事を言うな。我々の目的はこいつらから少しでも情報を聞き出すことだ」

「そんなこといって軍曹だって嫌いじゃないでしょう?」

「……チッ。全くやりづらい。お前らも忘れるなよ。この女は黒い紋章持ちで妙な力を使う。下手な真似をしてしくじってみろ。団長にどやされるのはこの俺だ」

「あぁなるほど。不愉快なのはそっちの意味でしたか」


 軍曹の発言から意味を察した若い兵士が苦笑した。つまり軍曹も本質的には他の騎士と同じ考えなのである。


「フフッ、良かった。貴方たちが意外と紳士的で」

 

 どことなく蠱惑的な笑みを湛えメンヘルが言った。軍曹を含めた男たちの顔が彼女に向いた。


「今の私は目隠しもされて能力も発動できない。手枷までされて抵抗も出来ないわ。こんな状態で屈強な男たちに押さえつけられでもしたら――為す術もなくされるがままになるところだったわ」


 メンヘルの発言に軍曹の喉が鳴った。周囲の騎士や兵士もその艶めかしい肢体に釘付けとなっている。


「でも本当男臭い。目隠しをされていてもそれはよくわかるの。こんな状態で乱暴されたら――私、どうにかなっちゃいそう……」

 

 吐息混じりに口にするメンヘル。そして――軍曹がにやりと口角を吊り上げた。


「なるほどとんだ好きものってわけか。だったらお望み通りしてやるよ。だが勘違いするなよこれはあくまで尋問だ――」


 それから一時間程過ぎ――


「あ、が、ぐ、ぐる、じぃ――」


 メンヘルの周りには全裸の男どもが無様に転がっていた。軍曹を除く全員が口から泡を吐き事切れている。


「うふふ。流石軍曹さん。他の連中よりはタフね。あっちの方は三十秒持たなかったけどね」


 クスッと小馬鹿にしたように笑うメンヘル。苦悶の表情を浮かべ軍曹が立ち上がった彼女を見上げた。


「き、貴様、まさかそんなところに毒、を、だ、だが調べた、筈だそれなのに」

「馬鹿ね。そんなすぐに見つかるような仕込みかたしないわよ」


 そういって不敵な笑みを零す。すると軍曹が咳き込み吐血した。


「意外としぶといわね。だけどもうそろそろ駄目ね」

「あ、い、嫌だ。頼む、助けて……」


 軍曹がメンヘルにすがりついた。メンヘルは豚を見るような目を軍曹に向けた後、彼の耳元で囁きかける。


「――そうね。だったら先ずこの目隠しと手枷を外してくれるかしら――」

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