第122話 ケツアルカトルのことは内密に

 ケツアルカトルと別れた後の帰り道は行きと比べると拍子抜けになるほど静かだった。


 やっぱり奥にいたアペプを倒したことでいなくなったのだろうか。ケツアルカトルとの会話を思い出してもそれしか考えられなかったもんね。


 坑道を抜けた後はその足で冒険者ギルドに向かって受付嬢に報告をした。


「そ、そんなことになっていたなんて驚きです! 本当に調査ご苦労様でした!」


 ギルドに戻った後、僕たちはケツアルカトルに関する事以外を全て報告した。


 鉱山の奥に見たこともないような邪悪な化け物がいたこと。それによって鉱山の空気が淀んでいたことなどだ。


 ただ、あのアペプといい証拠になるような物は何も残していなかったので信じてくれるかが不安だったけどギルドには嘘を見破る魔導具があるからね。


 おかげで僕たちの話が嘘ではないことは証明された。そのうえで勇者パーティーのメンバーであるフィアとセレナの存在やギルドマスターを父に持つエクレアがいたことも大きかった。


「すぐにこちらもギルドから職員を派遣して確認しますね。鑑定持ちも向かわせるのである程度詳細は掴めるはずです!」


 受付嬢が鼻息を荒くさせた。このあたりは結構平和だから僕たちが遭遇したような相手は久方ぶりみたい。


 だから張り切ってるんだね。


「報酬は職員の確認後になるのでそれまではこの町で待っててもらえると嬉しいのだけど……」

「はい。僕たちもまだやることが残ってるので」

 

 皆にも確認を取ったけど問題ないみたいだからね。ケツアルカトルのおかげでいい素材も手に入ったしこれでワンが納得してくれたら杖を作ってもらうことになる。


 その間は町にいることにになるからね。


 一通りの報告を終えた後は一旦酒場で食事を摂ることにした。戻ってきたら結構いい時間になっていたしワンに素材を渡しにいくのは明日になるね。


「調査に行くといっていたけどケツアルカトルは大丈夫かな?」


 席につくとエクレアが心配そうに口にした。そう、今回ケツアルカトルについて報告しなかったのは別れる直前頼まれたからだ。


『実は一つだけ頼みがある。我ら・・について他の人間には内密にしておいてほしいのだ――』


 そう、かなり深刻な感じで訴えてきたんだよね。そもそも僕たちはケツアルカトルから被害を受けたわけじゃないし色々と事情を抱えてそうだからそれについては秘密にする約束をした。


 ただ調査として来てる側面もあったからアペプについてはどうしても話す必要があるとは伝えることになったんだけどね。


 それが知られればもしかしたら他の誰かが調査にくるとも。だけどそれは問題ないと話していた。


 たとえ僕たち以外の誰かが訪れたとしても見つからないようやり過ごすことは出来るという話だったね。


 だから僕たちもその前提で報告したんだけどね。


「それは了承されていたわけだし、後は任せる他ないわね」


 エクレアの心配を他所にフィアはドライな感じで答えていた。ケツアルカトルに報告の義務があることと調査が来ることを強調していたのはフィアだったりする。


 言うべきところをはっきり言うそれがフィアだ。とても心強いと思える事も多い。


「まだ万全ではなかったかもしれませんが、それでもかなりの生命力を宿していましたから心配いらないと思います」

「スピィ~♪」


 セレナがスイムを撫でながら言った。生命力を感じ取れるセレナならではの意見だね。


「それよりもこれからよね。あのワンというジジィちゃんと約束守ってくれるわよね?」

「もうフィア。駄目ですよ年長者にそんな呼び方は」

「いいのよあの偏屈ジジィ。そうね……ちゃんと約束を守ってくれたら少しは敬ってもいいけどね」

「あはは、フィアはキツイね~」


 エクレアが苦笑していた。でもフィアはちゃんと作ってもらえるか気にしてくれているのかもね。


 でも僕はあまり心配していなかったりする。本当なんとなくでしかないんだけど――


「おい知ってるか? 騎士団がやらかしたらしいぞ」

「あぁ、こっちにも情報入ってきたぐらいだから事実なんだろうな」


 その時、酒場にいた他の冒険者から気になる話が発せられた。


「それにしてもウォルトの町で派手に暴れまわった罪人共の脱走を許すなんてな。面目丸つぶれだろう」

「私、騎士団の連中嫌いだったからいい気味~と思ったけどね」


 え? それって――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る