第116話 旧アクア鉱山探索⑩

 僕の水魔法が吸収された。これまでこんなことはなかった。動揺してないと言えば嘘になる。


 だけどここにいる皆の命が掛かっている。こんなことでくじけてられないんだ。


 だけど僕の魔法は吸収されてしまう……。


「私に任せて水なら!」


 エクレアが鉄槌を振り上げて化け物に迫った。そうか雷なら水に通じる可能性はある!


「武芸・雷撃槌らいげきつい!」


 エクレアが鉄槌を振り落とすと同時に雷が落ち化け物に直撃した。ただでさえ威力の高い雷だこれならやったか!


「жабй――」

「そ、そんな全然効いてない!」


 化け物は平然とした様子で攻撃したエクレアを見下ろしていた。


 雷が効かないなんてまるで僕の純水ノ庇護みたいだ。


 だけどあの化け物は純水とは似ても似つかない存在だと思う。もっと禍々しい化け物――


 そんなことを考えていると化け物の体から黒い触手が伸びエクレアに向かっていった。


「エクレア危ない!」

「スピィ!」


 思わず叫ぶとなんとスイムが飛び出していきエクレアの前まで到達して膨張した。

 

 あんなに怖がっていたのに、エクレアが危ないと思って勇気を振り絞ったんだ。


「スイム!」

「スピッ!」


 だけど、その身代わりとなってスイムが触手に捕まってしまった!


「スピィ……」


 スイムはあっという間に萎んでいき元のサイズに戻ったスイムをあの化け物が触手で引き寄せていく。


 あいつ僕の大事な友だちに何をするつもりだ!


「水魔法・水槍連射!」


 とにかく触手を切らないと! 魔法で水の槍を連射した。触手だけでも切断出来れば助けられる。


 だけど――無常にも水の槍が全て触手に呑み込まれてしまった。そんな、触手にすら通じないなんて。


 しかもまた僕の魔法が真似されて黒く染まった水の槍が僕へと返ってきた。


「ぐわああぁッ!」

「ネロ!」


 一衣耐水で身を守る衣を纏っていた筈なのに――あっさり破られ僕は地面を転がることになった。


 石と土が口の中に入ってきてジャリジャリする。唇と舌を切ったみたいだ。全身も痛い。


 だけど、それどころじゃない!


「スイム、待ってて、ぐっ!」

 

 立ち上がろうとしたけど片膝が崩れた。見ると傷跡が黒く変色している。まるで腐ってるみたいだ。


 あの黒い水の効果なのか? 目眩もしてきたし魔力がどんどん減っていく感覚……。


「ネロ! 今魔法で治療します!」

「ぼ、僕はいいからスイムを……」

「ネロだってただごとじゃないですよ!」


 セレナに心配されてしまった。情けないスイムが危ないのに。


「爆魔法・鳳戦爆火!」

「武芸・雷神槌トールハンマー!」


 フィアとエクレアも最大限の攻撃でスイムを助けようとしてくれている。でも通じていない。


「スピィ――」


 しかも触手に捕らえられているスイムが徐々に弱ってる気がする。まさかあの触手のせいで!


「やっぱり僕も――あれ?」


 腕を上げると随分とマシになっていることに気がついた。


「少しは楽になりましたか? 魔法の効果はあるようで良かったです」


 魔法、そうかセレナが生魔法で治療してくれたから。今も僕の脇腹あたりに手を当てて魔法を掛けてくれていた。


 その効果で浄化されたように色が薄まっていく。そう浄化されたみたいに、浄化――


「そ、そうだ! セレナ! 僕の治療はここまででいいよ! だから協力して!」

「え? きょ、強力ですか?」


 そうだ。僕の推測が当たっていたらセレナと一緒にあの化け物も倒せるかもしれない!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る