第112話 旧アクア鉱山探索⑥

 目に包帯をした怪物が洞窟内を徘徊している。目は見えないようだけど音に敏感なようだ。


 いくら広くなってるとは言え、あの巨体と坑道内で戦うのは得策ではないと思う。


 ただ僕だけでここを抜けても意味はない。一度戻って皆と相談した方がいいかも。


「スイム。そっと戻るから静かにね」

「キュッ……」


 蚊の鳴くようなささやき声でスイムと確認し合った。


 あの音の敏感さ。下手に躓いたり石を蹴飛ばしちゃうようなうっかりでさえ命取りになりかねない。

 

 繊細なガラス細工を持って歩くように慎重に引き返す。

 

 その時、何か胸騒ぎがして天井を見上げると逆さまになってぶら下がる一つ目蝙蝠のような魔物と目があった――


『キィ! キィ! キィ! キィーーーー!』


 その瞬間、一つ目の蝙蝠が金切り声を上げてわめき出した。


 こんな鳴き声されたら気づかれる!


「水魔法・水鉄砲!」

 

 とっさに魔法で蝙蝠の目を貫いた。悲鳴を上げて蝙蝠が地面に落ちる。


『グォォオォォオォオオォオォオオッ!』


 だけど、遅かった。洞窟を揺らしながら怪物がこっちに迫ってくる。


「もう戦わないと駄目か! 水魔法・水槍連射!」


 魔法で出来た水の槍を連射する。こいつ避ける様子がないから全弾命中した。


 だけど怯みもせず奇声を上げながら距離を詰め斧を振り下ろしてきた。


「水魔法・水守ノ盾!」


 咄嗟に盾を現出させて斧を防ぐ。だけど一瞬だけ遮るも盾はあっさり破壊された。


 その一瞬でスイムを肩に乗せたまま股の間を潜ったけど、直後轟音と衝撃。


「うわッ!」

「スピィ!?」


 僕とスイムは衝撃で飛ばされてしまった。そのまま地面を転がってしまったけどおかげで距離が離れる。


『キィキィキィキィキィ!』


 だけどまたあの蝙蝠の声。怪物が僕たちを振り返る。あの蝙蝠あいつに居場所を教えてるのか!


「もう遠慮してられない。水魔法・重水弾!」


 現段階で考えられる最大の魔法を放った。あいつは一直線にこっちに向かってくるからまともに圧縮された水弾を喰らってくれた。


「え? 杖が!」


 だけど、魔法を行使した直後杖にヒビが入った。そんなここまでガタが来ていたなんて――

 

 まだ使えないことはないけどあまり無理は出来ないかもしれない。それにヒビが入った以上効果は弱まったと見ていいだろう。


 とりあえず魔法を当てた後なのが幸いか……肉が吹き飛び怪物の腹に風穴があいた。これならいくらなんでも――


『グォオォォォォォオオ!』


 そんな考えをあざ笑うように、怪物は構うことなく突撃してきた。お腹に穴があいたのにきいてない!


 いや、それどころか穴がどんどん塞がっていく。こいつ再生能力があるタイプなのか――


「水魔法・水濃霧!」


 杖に無理はさせたくなかったけど仕方ない! 僕は魔法で霧を発生させて目眩ましを行うことにした。


 目が見えてないあの怪物には意味がないけど蝙蝠の死海は妨げることが出来る筈!


 僕はそこから大きく横に飛び退いて何とかあいつの攻撃を躱した。相変わらずの衝撃で飛ばされたけどこれであの怪物も僕たちを見失った筈だ。


 落ち着けこの間にどこかに隠れないと。情報が少なすぎるし、杖の状態も悪い。出来ればここで隠れてやり過ごしたい。


「スピィ!」


 スイムが何かを訴えるように鳴き声を上げた。要見ると霧の中になにかの影。見つからないようにそれでいて霧が消える前にある程度急いで近づくとそれは傾いたトロッコだった。


 車輪が壊れてるみたいだしこのままじゃ使えないけど――


「一旦この中に隠れよう!」

「スピィ!」


 僕たちはトロッコを壁に掛け生まれた隙間に身を隠した。トロッコがちょっとした屋根になった形だ。あの蝙蝠は上から俯瞰しているからこれでも欺くことが出来る。


 問題はこれからどうしようかってことだけど――

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