第105話 ワンと旨い酒

 僕は早速店主から必要な量を聞いて魔力水を生成した。


 ちなみに僕の作る魔力水はそのままだとかなり濃いらしく薄めて使うのが丁度いいらしい。


 だから量そのものはそこまで極端に多くなくていいんだとか。薄めて数%ぐらいで丁度いいって話だったかな。


 とにかく店主によるとこれで新たな酒造りが出来るらしいね。次の日にはできてると言うからこの日は宿に戻って体を休めることにした。


 そして明朝――酒屋に行くと店主が嬉しそうに酒瓶を持って立っていたよ。


「いやぁ待っていたよ。おかげでこれまでで最高の出来の酒が出来たよ。ワンと君たちの分で一本ずつ用意しておいたから持っていってくれ!」


 店主がご機嫌な顔で僕たちに新作の酒をくれた。僕が譲った水のお礼ということで代金はいらないとまで言ってくれたよ。


 凄く喜んでいたし今回は厚意に甘えることにして僕たちは再びワンの店に向かった。


「何だお前たちか。どうした酒を諦めたのか?」


 ロットはいなかったけどワンは店にいた。僕たちに気がついて面倒くさそうにお酒について聞いてきたよ。


「いえ。お酒が出来たので持ってきました」

「……そんな嘘までついてわしに杖を作らせたいのか?」


 僕がお酒について答えるとワンが眉を顰めた。お酒を持ってきたのを疑われてるみたい。


「嘘じゃないです。これがそのお酒です」

「……フンッ。言っておくが適当に買ってきた物を寄越してもすぐにわかるからな」


 僕が手に取った酒を見てワンが胡乱げに見て来た。怪訝な口調で僕に聞いてきてる。


「ネロはそんなことしないわよ」

「以前試作品をくれた店主さんが作ってくれたんだよ」

「これまでで一番のお酒が出来たと言ってました」

「スピィ!」


 疑っているワンに対して皆が僕を擁護するようにお酒は本物だってアピールしてくれたよ。


「……仕方ない呑んでやるが中途半端な代物だったら二度と杖など作らんからな」

「つまりお酒に納得して貰えたら作ってもらえるのですね?」

「……フンッ」


 ワンは明確な答えはくれなかった。黙って奥からカップを持ってきてお酒の蓋を開けコップに注いでいく。


 前と違って直接口にはつけないみたいだね。そしてそのまま酒を口に含む。


「むぅ! な、何だこれは!」


 ワンがクワッと両目を見開き唸り声を上げる。表情から見て口にあわなかったわけじゃないと思う。


「あの、どうですか?」

「――確かに旨い。だが何故だ昨日今日でこんな旨い酒が出来るわけない!」

「えっとそれは――」


 僕はワンに魔力水が作れること。それを譲ったおかげで美味しいお酒になったことを伝えた。


「ま、魔力入りの水を作れるだと? くそ、そんな斜め上の方法でくるとはな」

「え? もしかしてまずかったですか?」


 ワンが額を手で押さえて声を漏らした。どうやら僕のやり方はワンの思っていた方法とは違ったようだ。


 だからこそこんなに早く出来ると思っていなかったのかもしれない。


「……水の紋章持ちなら水の良さぐらいわかるだろうと思ったんだが自分で作り出すとはな。だが、わしが言ったのは旨い酒をもってこいだ。別に方法まで指定していない」

「やった! それならネロの杖を作ってくれるんだね!」


 エクレアが自分のことのように喜んで聞いた。ワンは僕をジロッと睨んでくる。


「わしはあくまで杖を作る可能性があると言っただけだ」

「はぁ? そんなの約束が違うじゃない!」


 ワンの答えにフィアが文句を言った。確かにワンは杖を作ると断言したわけじゃないけど……。


「そもそも約束などしとらん。だが小僧、お前に聞く。わしにそこまで新しい・・・杖を作って欲しいのか?」

「えっと、その件なのですが……」


 実は僕には一つ考えがあった。出来るかわからないけど可能ならこの方法で試してみたい。


「その、可能なら今僕が使ってる杖を改良する形で作業して貰う事は可能ですか? 今の杖にもお世話になったしやっぱりまだそこまで長く使っていないから可能なら活かしたくて……」


 僕の気持ちを伝えるとワンがフンッと鼻を鳴らした。ただ表情がどこか穏やかに見えた。


「なるほど。わしは新しい杖を作る気はないと言ったが元ある杖を改良しないとは言っておらんな」

「え? それじゃあ!」

「……仕方ない。小僧お前の杖をわしがしっかり改良してやる。だが簡単なことではない。お前らにもその分しっかり働いてもらうからな――」

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