第104話 旨い水の条件
僕たちは職人街を出た後、酒屋に向かった。依頼でお酒を届けた店には以前お礼にお酒をくれた店主がいて僕たちにすぐ気がついてくれた。
「やぁ君たち。どうだいこの町は?」
「はい。働く職人の姿が見られて良かったです」
店主の問いかけに嬉しそうにセレナが答えた。
「はっは。そうそうこの町にはいい職人が多いからね」
「ただ、そのごめんなさい。以前せっかくお礼にと頂いたお酒なんですが私たちは呑むことが出来なくて」
「あぁ。そうだったそうだった。ワンが君たちが呑む前に持っていってしまったんだろう? ワン本人が来て言っていたよ。しかもこんな中途半端な酒渡しておいて何がお礼だと怒鳴られてしまったし」
フィアは申し訳無さそうに伝えていたけど、笑いながら店主のおじさんが応じてくれたよ。
「ワンさん僕たちのことも伝えていたんですね」
「スピィ~」
あのときは突然お酒を呑まれてびっくりしたけど店主には正確に教えてくれていたんだ。
「あぁ。今でこそ毎日お酒を呑んでいるような状態だけど元々筋はしっかり通す人だよ」
店主がワンについて教えてくれた。やっぱり元々はしっかりしていた職人なんだね。
「それでもせっかく貰ったお酒だからやっぱり申し訳ないわ」
「いやいや気にしないで。それに今回についてはワンの手に渡って良かったかなとも思ってる。ワンは酒にも煩いからね。おかげで改良点もはっきりしたんだ」
申し訳無さそうにしているフィアを宥めるように店主が言った。
「むしろワンの言うように中途半端な試作品を渡してしまうのもね。だから今度はもっとちゃんとしたお酒を上げるよ」
店主が大らかに笑ってそう言ってくれた。
「ところで今日来たのはその事かい?」
「いえ。実はワンさんに旨いお酒を持ってきてくれたら杖を作ってもらえると言われて」
「ほう! ワンが遂に杖を!? それは凄い。よほど君のことを買ってくれたんだね」
店主が随分と喜んでいたよ。ワンと仲が良さそうだし杖づくりを再開させてくれると思って嬉しいのかもしれないよ。
「ただワンさんは旨い水を使った旨い酒を呑みたいと言っていたのです。お酒には水が大事なんですよね?」
「それはそうさ。実は今回の試作品でワンに指摘されたのもそれでね。中途半端な水を使うなって怒られたからね」
そうだったんだね……美味しい水か~。
「美味しい水の条件ってあるんですか?」
「そうだね魔力の混じってる水はワンに言わせると最高の水らしいのだけど中々見つからないんだよね」
「え! 魔力入りの水!?」
驚いた。それは僕が良く作ってる魔力水のことじゃないか。
「えっとそれっと魔力の回復する水の事ですか?」
「ん? はは魔力が混じってるといってもそこまでじゃないよ」
僕の質問に店主が笑いながら答えた。えっと僕のは魔力が回復できるんだけど……。
「あの、もし魔力が回復できるぐらいの魔力入りの水があれば美味しいお酒が出来ますか?」
「ハッハッハそんなのがもしあれば相当旨い酒が出来る筈さ」
店主がそんな物あるわけないといった表情で答えてくれたけど――僕たちは顔を見合わせ苦笑した。
「ネロこれはあっさり解決じゃない?」
「うん。そうかも」
「スピィ~♪」
エクレアに言われ僕も頷く。スイムも肩の上でやったねと言わんばかりに飛び跳ねているよ。
「その実は僕、魔力入りの水が作れるんですが味見してもらってもいいですか?」
「――え? 今のは冗談だよね?」
「これがネロの魔力水です。宜しければ」
目を丸くさせる店主にセレナが魔力水入りの瓶を差し出した。
「うん? ただの水に見えるが……」
訝しげに店主が瓶の中身を見た。そして蓋を開けて持ってきたコップに水を移して味見してくれた。
「な、なな! 何だこれは! こんな水があったのか!」
水を一口呑んだ途端クワッと寮目を見開き店主が僕の水を評価してくれた。
凄く気に入ってくれたみたいだよ。
「それで美味しいお酒は出来ますか?」
「勿論だとも! 待っていてくれ後は良い水さえ加えれば出来る酒があるんだ!」
居ても立っても居られないといった様子で店主が走っていったよ。
でもよかったこれでワンの願いは叶うかな――
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