第102話 そんなに経ってない
どうやらワンは杖を買いに来た相手のいい加減さに腹を立てているようだね。
確かに僕も杖についてそこまで深くは考えていなかったのかもしれない……。
いや僕だけじゃなくフィアやセレナもそうだったようでどこか鎮痛な顔を見せていた。
「ワンさんのお怒りはわかりました。僕も正直そこまで深く考えてこなかったと思うし凄く恥ずかしく思ってます」
「フンッ。それがわかったらとっとと帰れ」
「いえ帰りません! むしろそれがわかったからこそ貴方にお願いしたい」
不愉快な顔を見せるワンに僕は改めてお願いした。
「お前これだけ言ってもわからないのか、アホなのか?」
「スピィスピィ~!」
呆れ顔でそんなことを言いだしたワンに向けてスイムが強く鳴いた。僕が悪く言われたと思って抗議してくれているのかもしれない。
「貴方の言ってる事もわからなくないけど流石に口が悪すぎでしょう」
「フンッ。それが嫌ならとっとと出ていけばいいだろう」
フィアがムッとした顔でワンに告げた。だけどワンからしてみたら杖を求めて来てる僕たちが迷惑なようだしこのままだとまともに相手してくれないかもしれない。
「ね、ねぇネロ。その、本当にこの人にお願いするの?」
エクレアが確認するように聞いてきた。これまでの話でワンに不安を持ったのかな?
「僕の杖を見てひと目で疲弊しているのがわかったその目を僕は信じたいんだ。それに――ワンさんは大切なことを教えてくれた。口は悪いかもしれないけど杖について知れたのは大きいよ」
「フンッ。口が悪いだけ余計だ」
あ、しまったつい思ったまま口に……。
「大体わしはお前らの先生じゃない」
「そこをなんとか。それに知識として知れば貴方が作ってくれた杖をより大事に使えますし」
「だからもう杖は作らんと言っとるだろうが! それにだ、お前になど教えたところでどうにもならんだろう。その杖を見ればわかる」
「その。ネロの持つ杖に何か問題が?」
頑なに杖の作成を拒むワンが僕の杖について再度指摘してきた。以前も杖を泣いているとは言われたけど――セレナも今の言葉が気になったのか聞いてくれたよ。
「その杖、一体何年使ってる? その間禄に手入れもせず違和感なくつかっていたのだろう。さっき杖を磨いていると言っていたがわしはそれすら怪しいと思っとる。一年程度でそこまで傷まんからな。年で考えれば四、五年何も考えず使い続けたといったところか。そんな奴が杖を大事になどするものか」
「え?」
ワンが僕の杖について語ったけど……ちょっと混乱してしまった。だってそんな筈ないからね――
「えっとその、そんなには使ってないのですが」
「何だと? そんな筈あるか。確かに杖はもう作ってないが見ればどれぐらい使ってるかぐらいわかる」
「いや、そんなこと言われてもネロの言ってるのは事実よ」
色々疑問に思いつつも僕はワンに事実を伝えた。フィアも擁護してくれている。
「はい。ネロがいま使ってる杖は私達と探索したダンジョンで見つけたもので精々二ヶ月程度の使用かと……」
うん。セレナの言う通り実際ダンジョンで見つけてからそこまで経ってないからね。
「は? はぁああぁあ!?」
話を聞いたワンが顎が外れんばかりに驚いていた。ワンは僕の杖はそれぐらいの年数使ってると確信していたようだけどね――
「嘘……お爺ちゃんが見間違えた?」
ロットが両手で口を塞ぐようにして驚いていた。彼女からしてもワンが間違うなんて思ってなかったんだろう。
「馬鹿な! そんなわけあるか! 杖作りはやめたがこの目は確かだ! 見せてみろ!」
するとワンが僕に近づいてきて引ったくるように握っていた杖を奪った。かと思えば今度は眼鏡――いや細かい作業を行う職人が扱う特殊なレンズを掛けてじっくりと観察を始めた。
「――これはよく見ると確かに柄の部分はそこまで疲弊しとらん。わしとしたことが魔石だけをみて反感してしまったか。だが――何故だありえん! 何故魔石がそんな短期間でっこまで疲弊する!」
ワンが杖を確認して鼻息荒く口にした。どうやら僕の杖――拾った時期からは考えられない程傷んでいたんだね……何かもうしわけない気がするけど思い当たるとしたらやっぱり……そう考え僕は改めて賢者の紋章の刻まれた手を見た――
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