第101話 杖を作ることをやめた杖職人

「フンッ。お前みたいのに時間を割けてられるか。そんなくだらない理由ならとっととけぇれ!」


 暫く僕を睨んだ後ワンに怒鳴られてしまった。杖について話すつもりはないらしい。


「お爺ちゃんそんな言い方――昨晩だって迷惑掛けたわけだし話ぐらい聞いてあげてよ」

「チッ。こんな連中連れてきやがって。お前だって知ってるだろうわしはもう杖にかかわる仕事はしねぇんだ!」


 孫のロットに向けてワンが厳しい言葉を投げつけた。杖に対してそんなに拒否感を示すなんて……。


「お爺ちゃんを頼って話を聞きに来たんだよ? 私またお爺ちゃんの杖を作るところ見てみたいよ……」


 ロットが涙目になってワンに訴えた。この子はきっとお爺ちゃんに立ち直ってほしいんだ。


「お願いです。とにかくもう一度僕の杖を見て教えてください。それに何が駄目かも僕は知りたい」

「うるせぇ。そんなものテメェで考えろ」

「ちょっとあんたいい加減にしなさいよ! さっきから聞いてれば何よ! 孫のロットだってこんなに必死になってるのに家族として恥ずかしくないわけ!」


 フィアが怒りを顕にしてワンに突っかかった。昨晩から一番不満そうだったのはフィアだったけどここにきていよいよ感情が爆発したみたいだ……。


「――ふん。わしだってその気になれば杖にこだわらなくてもやっていける。余計なお世話だ」

「でもロットは貴方が立ち直って杖をまた作るのを望んでるんだよ?」

「スピッ! スピィ~!」


 エクレアが諭すようにワンに伝えた。ロットの気持ちは僕も聞いているよ。スイムもロットを擁護するようにワンに訴えている。


「だいたいこれまで何もしてこなかったのは杖を作る事以外に能が無かったからでしょう? そうでなかったら孫に心配掛けたりしないハズだもの」

「ぐぐっ、言わせておけば!」


 フィアのキツイ指摘にワンが表情を険しくさせた。何となくだけどやっぱりロットの事は気にしているのかもしれない。


「あの、そもそもどうして杖を作るのをやめてしまったのですか? 腕のいい杖職人だと聞きますしそれなら引く手あまただったと思いますが……」


 セレナが思い切った表情でワンに問う。セレナは職人が好きだから自ら杖づくりをやめてしまったワンの事情が気になるのかもね。


「そんなものお前らみたいなのがおいそれと杖を求めてやってくるからにきまってるだろう」

「は? 何よそれ私達の何が悪いっていうのよ!」


 ワンが僕たちを指さして答えた。今度は僕だけじゃなくてセレナはフィアも対象にしているみたいだ。


「貴方は以前も僕に杖が泣いていると言いました。何か理由があるのですか?」

「全くいちいちそんなことを言われないとわからん時点でテメェらには杖を使う視覚がないんだよ」

「あの、何か気に触ったならごめんなさい。だけど私たちはまだまだ未熟で今後の勉強のためにも一つご教授頂けませんか?」


 セレナがかなり下からワンにお願いした。これセレナの作戦なのかな。普通にいっても相手にしてくれないし――


「馬鹿言うな。なんでわしがわざわざそんな真似」

「教えてくれたらお酒をおもちしますよ」

「え! あ、あのお爺ちゃんにあまりお酒は……」


 ロットがオロオロしてセレナに言った。だけどワンの顔つきが変わってるしここは――


「先ずはお爺ちゃんに話を聞いてもらわないといけないしここは――」

「う、たしかにそうですね……」

 

 ロットにそっと耳打ちしたらとりあえず納得はしてくれたみたいだ。


「――フンッ。その代わり旨い酒を用意しろよ」

「それは勿論です」


 ワンがセレナの提案に乗ってくれた。よかった少しでもこれで耳を貸してくれそうだ。


「なら聞くがお前らその杖の手入れは一体どうしてる?」

「え? 杖の手入れって……それは汚れたら磨いたりはするわよ」

「私もそうですね」

「僕も一応毎日磨いてはいるつもりだけど……」


 僕を含めた三人の答えは一緒だった。だけど話を聞いたワンが顔を顰める。


「そんなこったろうと思ったぜ。ま、それでも磨くだけまだマシか。中には磨くことすらしないのがいるからな。だがな、だとしてもその程度しかしてない時点でテメェらは論外なんだよ」

「何よそれ。なら一体何をすればいいっていうのよ」


 ワンが呆れたように答えるとフィアが不満どうに反問した。僕としてもそこが気になる。


「はぁ~~~~嫌だ嫌だ。これだからわしはもう杖なんて作りたくないのだ」

「お爺ちゃん。ならせめて何が悪いかぐらい教えてあげようよ」


 大げさな身振りで批判的な言葉を発したワンにロットが指摘した。


 これみよがしにワンがため息をつく。そして今度はエクレアを見た。


「見たところお前は魔法系じゃないな?」

「え? そうね。私は戦士系になると思うけど……」

「スピ?」


 エクレアにそんなことを問うワン。スイムも不思議そうにしていた。


「なら聞くがお前さんが持ってるその槌はどうやってメンテナンスしてる? ただ磨くだけか?」

「それはないわよ。戦闘が続けば疲弊するし磨くだけだと性能を維持できない。定期的に鍛冶屋で直して貰ったりしてたわ」


 それがエクレアの答えだった。でもメンテナンス?


「そういうことだ。お前らは魔法を扱うかもしれんが杖の専門家じゃない。ただ磨いていたって杖が疲弊して悲鳴を上げていても気づきもせんだろうが。にも関わらずテメェらは杖のメンテナンスを怠る。そんな奴らばかりだから嫌気がさしたのさ」


 ワンに言われてなにかに胸を貫かれたような気持ちになった。確かに杖のメンテナンスについてそこまで細かく考えたことはなかった。


「ちょっとまってよ。エクレアみたいに戦士が武器を振り回すのと一緒に考えないでよ。私たちは杖で相手を直接殴ったりしないんだし」

「――呆れて物もいえんわい。なら聞くが貴様は杖を扱う時一体杖に何を込める?」


 フィアが反論するとワンが逆に問い返した。これは答えは明白だけど……。


「そんなの魔力に決まってるじゃない」

「そうだ魔力だ。つまり杖は貴様らの扱う魔力を黙って受け続ける。魔力というのは貴様らが思っている以上に負担の大きい力だ。それを受け続けたら杖はどうなる? 貴様らは安易に直接杖で戦闘をするわけじゃないから疲弊しない等と考えてるようだが大間違いだ」

「う……」


 フィアがたじろいだ。僕もそこまで考えたことは無かったよ……。


「わしはそんなこともわからん連中に使われている杖が不憫でならん。それが杖が泣いているということ。そしてわしが杖を作らなくなった理由だバカモンが!」

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