第100話 ワンの暮らす家へ
昼食を食べた後ロットの案内でワンの家に向かう事となった。
今回は酒場の店長も許可を出してくれた形でロットが店を抜けるのも許してくれたんだ。
「でも本当にお爺ちゃんを紹介するだけで良かったんですか?」
「僕はね。幸い皆もそれでいいみたいだし」
「ネロが会いたいというならね」
「それにネロの新装備に繋がるならいいよね」
フィアとエクレアもこう言ってくれている。ただフィアはやっぱり昨晩のこともあるからワンに対しては否定的な感情も見られるんだよね。
「私は杖職人だったというのが気になります。杖の専門家ってあまり数がいないんですよね」
セレナが言った。確かに杖を専門的に扱う職人は少なく武器や魔導具を作る傍らで作業しているって人も多いんだ。
「お爺ちゃんの腕は本当に確かなんです。今はお酒ばかり呑んでますが……」
ロットがシュンッとなった。お店で会ったワンの言動もそれだけ見たらすごい人には思えないのかもしれない。
ただ僕の杖を見た時の目は今思えば鋭かったかもしれない。
「でも貴方安易に昼食代を出すなんて決めなくてよかったわね」
「ハッ! た、確かに……」
ロットの顔色が変わった。酒場でもセレナの食べる量を見て驚いていたもんね。
店長が止めてくれて良かったと本気で思ってそうだよ。
「今お爺ちゃんはここで暮らしてるんです」
「あれ? ここって……」
案内されて思い出した。このあたりの案内図を見た時一軒だけ店の名前も何も記されてなかった家だ。
「結構年季が入った家よね、てごめんなさい!」
エクレアが家の印象を口にしハッとした顔でロットに謝った。
「いいんです。ボロいのも本当の事なので。でもこれで暮らしてみると結構いい家なんですよ」
ロットがそう笑って返してくれた。この子は明るいし性格もいいと思う。お爺ちゃん思いだしね。
「この時間ならお爺ちゃんは家にいると思うので気兼ねなくどうぞ~」
ロットが先に家に入り許可を貰い僕たちも後に続いた。
家に入った途端ツーンっとしたアルコールの匂いが鼻腔をくすぐった。結構キツイ。
「う、酒臭いわね」
「あぁごめんなさい! 今窓を開けますね」
フィアは思ったことをわりとはっきり口にするタイプだ。聞いたロットが慌てて家の窓を開いた。
「お爺ちゃんは多分こっちの部屋です」
ロットと一緒に奥の部屋に向かった。奥は手前の部屋より広く部屋というよりは作業場といった印象だ。
工具も色々設置されていて部屋の真ん中に昨晩見たワンが横になりいびきを掻いて寝ていた。何本か空いた酒瓶が転がっている。
これを呑んだのかな? これだけ呑めば部屋にお酒の匂いが充満するのもわかる気がする。
「あ、もうお爺ちゃんまだ呑んで……このお酒どうしたんだろう?」
ロットが不思議そうにしていた。そういえば店長の話だとワンにお酒を呑ませないようロットが頼んでいたんだっけ。
「お爺ちゃんもう起きて。お客さんが来たよ」
「――う~ん。何だロットか。新しい酒でも買ってきてくれたのか?」
「違うよ! お客さんだってば。それとこのお酒どうしたの?」
「客だと?」
ロットの話を聞きワンが髪を掻き毟りながらムクリと起き上がった。
大あくびをして眠そうな眼で僕たちを見る。
「あぁ何だ昨日のイマイチな酒を持ってきた連中か」
「別にあんたの為に持ってきてたわけじゃないわよ」
ワンが思い出したように口にするとフィアが愚痴気味に答えた。やっぱり不機嫌だね。
「お爺ちゃんこんないお酒を買える余裕ないよね? まさかツケで?」
「ふんっ。わしのツケが通じる店なんてもうこの町にはないだろうが。これはそこの連中が持ってきた酒について一言文句を言いに行ったら何かくれたんだよ」
「え? あの酒屋に言ったの?」
エクレアが目を丸くさせた。僕たちにお礼にとお酒をくれたあの店主さんか。
「中途半端な味だからな。こんなもの売りに出す気かと色々指摘したら余った別な試作品を寄越しやがって。仕方ねぇからわしが呑んでやったんだよ」
何か一見するとメチャクチャな話だけどあの店主はきっとお礼でお酒を渡したんだ。
つまりワンの指摘が役立ったということでもあるのかな。
「で、お前らが客らしいが一体今度はどんなお酒を持ってきたんだ?」
ワンが期待した目で聞いてきた。僕たちはすっかりお酒を持ってきてくれる人と勘違いされてるみたい。
「いえ別にお酒を持ってきたわけじゃなくてですね……」
「ネロが貴方と話がしたいと言ってるのよ。聞いてもらえる?」
セレナとエクレアが説明してくれた。ワンが眉を顰める。
「ネロだと?」
「はい。僕がネロです。実はワンさんが杖職人だとお孫さんから聞き、杖の事で話をしてみたいなと思って……」
「あん? お前が杖の話だと?」
ワンがギロリと僕を見てきた。やっぱり杖の事となると目つきが変わるね――
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