第81話 二人の騎士
「テメェらさっきから好き勝手言ってやがるが、そのお偉い騎士さんは町が大変な時にのんびり基地で何してたんだかなぁ。何も出来てねぇ連中が偉そうにしてんじゃねぇぞゴラァ!」
「ちょ、ガイ言い過ぎ――」
「そうですよ流石に騎士相手にもう少し柔らかく。町が大変な時にのんびりされてて楽ですねとか」
「いやセレナも言い方――」
ガイを止めようとするフィアだったが、セレナも意外と棘のある言い方であり、更に戸惑っていた。
「勿論早めに連絡頂ければ対処のしようもありましたがね。我々のもとに連絡が来たのは全てが終わってからでしたので」
「貴様らのような根無し草な連中と違って騎士は毎日忙しいのだ。大体貴様らこそもっとしっかりやっておけば我々もすぐに動けたのだ。全く何が冒険者だ勇者だ。使えん連中め!」
バエルが強気な発言をした。明らかに自分たちの方が上だといいたげな口ぶりでありガイ達のイライラをより積もらせた。
「バエル彼らは彼らなりにやったのだ。犠牲者がそれなりに出ていたし、我々がしっかり動いていればこのような惨劇は起きなかっただろうが、それでも冒険者連中がいたから最悪の最悪は何とか免れたと言ったところか」
「――チッ」
グランのセリフに舌打ちするガイ。視線を逸し先日の戦いを思い出している様子だ。あの時確かにガイには救えなかった命もあった。
「……俺が不甲斐なかったのは素直に認める。だがガイを含めうちの連中はよくやってくれた。この場にはいないがネロという魔法師の力も大きかったしな」
ネロの名を耳にしガイの目がサンダースに向く。
一方でグランは薄笑いを浮かべ思い出したように語りだす。
「ネロですか……彼の話は確かに私も耳にしましたよ。なんでも水の紋章持ちとか」
「ハハハッ! よりにもよって水の紋章持ちが活躍? 冗談も休み休み言ってもらいたいものだ。それともこのギルドは無能な水使いに頼らなければ行けないほどに人材が不足してるのかな?」
サンダースの説明にグランが応え、バエルが挑発じみた発言をしてみせた。聞いていたガイの表情に怒りが滲む。
「テメェら。あいつのことも知らずに好き勝手言ってんじゃねぇぞゴラァ!」
「そうよ。ネロの水魔法は凄いんだから。重くて強くて黒い紋章持ちだって敵わなかった程なんだからね!」
ガイとフィアが噛みつくと、グランが二人の様子を見ながら冷ややかな、意地の悪い微笑みを口元に浮かべ言う。
「これはこれはよりにもよって水が重たいとは、揃いも揃って夢でも見ていたのかな?」
「全くですよ団長。しかも水が強いとか、冒険者は低能の集まりと知ってはいたがここまでとはな」
グランとバエルが小馬鹿にしたように笑った。その様子にガイが怒りを顕にする。
「テメェ!」
「そこまでだガイ。これ以上こんなところで言い合っていてもしかたないだろう。お二人も要件は既に済んでいるだろう?」
今にも飛びかかりそうなガイをサンダースが制し騎士の二人にも問いかけた。暗にこの場から出ていくう伝えてるようだった。
「――ハハッ。確かに。では先に話した通り【深淵を覗く刻】の三人は預からせてもらいますよ」
「あん? おい、どういうことだおっさん! こっちで捕まえた連中をみすみすこんな奴らに明け渡すってのかよ!」
「黙ってろガイ。国の判断だ」
ガイが不満を顕にするがサンダースは嗜めるように答えた。聞いていたフィアやセレナも不満そうに険しい顔を見せている。
「そういうことですよ自称勇者君。黒い紋章持ちの罪人は元々は我ら王国騎士団が追っていた連中でもあるのだ」
「そういうことだ。お前らのようないい加減な冒険者共が扱うような案件ではないのだからな」
「それならばなおさらもっと早くに対処出来なかったのですか? それこそ騎士団の怠慢では?」
バエルとグランの話を聞きセレナが反論した。二人の騎士が顔を曇らせる。
「ハッ、よく言ったぜセレナ。お前の言うとおりだ。一体どっちが無能なんだかなぁおい」
「貴様! 我らを愚弄するか!」
「やめろバエル。言わせておけ――ガイと言ったな。貴様の名前よく覚えておくぞ」
バエルを宥めるも、グランのガイを見る目は険しい。そして部屋を出ようとする二人だが。
「――ところでセレナといったか? 君はアタラクシア家と関係があったかな?」
耳元でグランに囁かれセレナの顔が強張った。
「――いえ、別に……」
「ふむ。そうか。昔君に似た子を見た気がしたんだが……まぁ良い」
そして騎士の二人が部屋を離れた――
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