第82話 事件の終わり?

「気に食わねぇ連中だぜ。おっさんもおっさんだ! なんであんな連中にクソどもを引き渡すんだよ!」


 ガイがサンダースに向けて吠えた。渋い顔を見せるサンダース。幾ら冒険者と言えどギルドマスター相手におっさん呼ばわり出来るのはガイぐらいなものだろう。


「仕方ねぇんだよ。あの黒い紋章持ちについては以前から王国騎士団が追っていた連中だ。俺たちのような冒険者には情報は殆ど上がって来てなかった上、混乱を避ける為冒険者の中でも上位の一部のみにしか情報の開示は認められなかった」

「それっておかしくない? 冒険者ギルドは確かに国からの仕事を請け負ったりもするけど基本的には自由な組織よね? 国や貴族といった権威のしがらみを受けないのが特徴の筈だけど」


 サンダースの答えにフィアが疑問を口にした。彼女の言うように冒険者ギルドは完全中立組織として存在し故に貴族や国から必要以上の干渉を受けることはないとされている。


「フィアの言うことはもっともだがな、世の中そう単純じゃない。確かに干渉は受けないがかといって全て要求を突っぱねていたら冒険者ギルドの仕事にも影響は出る。結局互いに持ちつ持たれつの部分もあるからな。極端にすり寄るつもりはねぇがこっちの我だけ通していい相手でもないんだよ」


 後頭部を摩りながらサンダースが答えた。その様子にガイが眉を顰めた。


「チッ、結局どこも一緒か」

「何だガイ。お前にもそういう悩みgあるのか?」

「――うっせぇな。特にねぇよ」


 面倒くさそうにガイが言葉を返した。サンダースはやれやれと肩を竦める。


「どちらにせよあの【深淵を覗く刻】の扱いは騎士団連中の方が長けてる。こっちで尋問するよりは上手くやるだろう。正直こっちも事件の後始末でかなり忙しい状況だからな。王国側で処理してくれるならむしろありがたいんだよ」


 確かにギルドの職員たちも忙し無さそうにしていた。この状況で少しでも負担が減るのは冒険者ギルドとしては助かるのかもしれない。


「その、思ったのですがそれだけあの連中に詳しいのだったら今回の件で動けなかったのは問題なのでは? それなのにこっちに責任を擦り付けるような発言をされてましたよね?」

「だからこそだセレナ。当然あいつらだって自分たちの失態に気がついている。わざわざうちまで出張ってきて引き渡せと言ってきたのも少しでも功績として残したかったからだろうよ。だから安心しろ。確かにさっきの二人は随分と強気だったがこっちはこっちで要求は突きつけておいたからな。国からの報酬はしっかりといただくぜ」


 ニヤリと狡猾な笑みを浮かべるサンダース。それを見てガイが鼻を鳴らし口を開く。


「そういうところはちゃっかりしてるって事かよ」

「そういうことだ。お前たちの取り分にも期待していいぞ」

「――だったらネロの野郎達に多く渡せ。今回一番貢献してたのは間違いねぇからな」


 ガイがそう進言した。サンダースが目を丸くさせて彼を見やる。


「まさかお前の口からそんな話が出るとはな」

「か、勘違いするなよ! あくまで今回の結果だけ見ての話だ! 本来なら俺らの方が実力はずっと上だからな!」

「あぁわかったわかった。とにかくお前の話は参考にさせてもらうが、先ずは一通り報告を聞くか」


 そしてサンダースはガイ達から話を聞き必要なことを纏めていった。


「ま、こんなところか。悪かったな時間とらせて」

「たくだ。細かい事色々聞きやがって面倒クセェ」

「ちょっとガイ。全く本当口が悪くてすみません」


 セレナがガイの態度についてサンダースに謝罪した。


「なんでお前が謝るんだよ!」

「仕方ないでしょう。全くセレナも大変よね。大体騎士団にもあんな態度とって目をつけられたどうするのよ」

「お前だって人の事いえねぇだろうが!」


 ギャーギャーと言い合う二人を見てサンダースが頭を抱えた。


「たく、いがみ合うなら外でやれ」

「あはは……」


 二人の様子にセレナも苦笑いである。


「チッ、ところでおっさん。Cランクの昇格試験にネロも出るってのは間違いないんだよな?」

「あぁ。そのつもりだ。それに今回の活躍もあるからな。試験にエントリーするのは間違いないと思っていいぞ。何だそんなに嬉しいのか?」


 問われたサンダースが答えるとガイの顔が赤くなっていく。


「は、は? はぁ!? な、なんで俺が嬉しそうって話になんだよボケがッ!」

「ちょ、またそんな言い方!」

「あぁ、いいってセレナも一々気にするな。こっちもなれてる」


 ガイを叱咤するセレナに笑いながらサンダースが返した。すっかりガイの態度になれてる様子である。


「チッ――俺はただあいつには負けねぇ。それだけだ」

「ガイ……あんた何か勘違いしてない? 昇格試験は別に勝負の場じゃないでしょう」

「うっせぇな! どんな時でもこっちは真剣勝負のつもりでやってんだよ!」


 フィアからの突っ込みを受け声を荒らげるガイ。しかし彼女の言うように昇格試験はあくまでそれだけの実力があるかを図る試験だ。


「……ま。フィアの言うことも最もだが、だからといってガイの言ってることがあながち間違いとも言えないがな」

「え? それってどういう事ですか?」

「俺からはこれ以上のことは言えねぇさ。試験に関する情報は当然必要以上には教えられないからな。ま、Cランク試験ともなればそう簡単ではないってことだけ覚えておくこったな」

「――フン! 上等だ。じゃあもう出るぜ。これで要件は済んだだろう?」

「あぁ。そうだな。ま、試験に向けて依頼も頑張ってこなしてくれ。こっちも仕事が溜まってるからな」

「――フンッ」


 サンダースの言葉を背に受けガイ達も部屋を出た。


 こうして黒い紋章持ちの事件は一旦は解決した。しかしこれが【深淵を覗く刻】との激しい戦いの幕開けに過ぎないことをガイ達もそしてネロもまだ知らない――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る