第75話 目を見ずに戦え
メンヘルの目がエクレアに向けられる――だが、エクレアは咄嗟に俯き彼女と視線を交わすことを避けていた。
「――驚いたわね。それは偶然かしら?」
「残念。さっき助けた冒険者が気絶する寸前口にしたのよ。瞳ってね。最初は意味がわからなかったけどあんたの様子を見てピンっと来たわ」
「――あの女ね。全く勘のいい女は厄介よね。さっさと始末しておくんだった」
メンヘルの目が一瞬とても冷ややかな物に変わった。そしてエクレアをジッと見ながら妖艶に微笑んだ。
「ま、いいわ。どちらにしても私には手駒が沢山あるもの」
「「「「「「「「うぉおおぉおぉぉおおおお!」」」」」」」」
周囲から正気を失った冒険者がエクレアに襲いかかる。数的には圧倒的に不利な状況――
「ハァアアアァアアアアア!」
しかしエクレアは雷を纏った鉄槌を振るい群がる冒険者をあっという間になぎ倒した。
勿論気絶程度に収まるよう加減をしてだ。それがそのままエクレアの実力の高さを物語っていた。
加減して戦うというのは全力で戦うよりも余程難しい。
「ふ~ん。やっぱりギルドマスターの娘というだけあって少しはやるのね」
「あんたに褒められても嬉しくはないわね」
エクレアはメンヘルに視線を合わせないようにしながら答えた。
「あらあら。そんなに私の目を見るのが怖いのかしら?」
「挑発しても無駄よ。私は絶対にあんたの目なんて見ないんだから」
「そう。それならそれでいいけど――それで戦えるのかしら、ね!」
シュシュッと風を切る音を残しエクレアの肩に二本の針が刺さった。
「くっ!」
「あら残念。貴女さっきから私の足元ばかり見ているからそうなるのよ? それと一つ忠告してあげる。私に戦える力がないと思ったなら――大間違いよ!」
メンヘルが華麗なステップを披露し、素早い動きで縦横無尽に動き回る。
「どう? これでも貴女私の目を見ないで戦える? 人はね目からも様々な情報を得ている。それを自ら封印するなんて好きにしてくれって言ってるようなものよ」
駆け回りながらメンヘルが針を飛ばしてくる。エクレアは何とか避けようとするが素早い動きに翻弄され全ては避けきれない。
「くぅ!」
「苦しそうね。もぅわかっていると思うけどその針には毒が仕込んであるわ。何れ毒が回ればもう貴方は終わりよ」
「そう。でも決して強い毒じゃない! 武芸・
エクレアが跳躍しメンヘル目掛けて鉄槌を振り下ろす。ヘッドが捉えたのは地面だった。一緒に雷も生じたが既にメンヘルは範囲の外だった。
「残念だったわね。どんなに強力な攻撃も当たらなければ意味がないわ。雷と鉄槌を組み合わせたところで私の紋章には敵わない」
「……その紋章の力って相手を見て狂わせるでしょ? あんたの身体能力が高い理由にはならないわね」
「そうね。こっちは私の本来の力かしら」
「それも違う。もし本当に戦える実力があるなら意識を失った連中と一緒にあんたも戦えばいい。見ててわかったけど、どれだけ正気を失った相手でも力を持ったあんたには攻撃してないからね」
「……だから何?」
「つまりあんたは本当なら自分では戦いたくないタイプ。戦闘方法も毒でチクチクやってるあたりから見てそれは明白よ。実力がある? 違うわね。きっとスキルジュエルの力あたりを借りているんでしょう? そうやって何かの力を借りなければ禄に戦う事もできない。本来のあんたはただの弱虫よ」
「――減らず口がすぎるわ、ね!」
エクレアが煽るように語ると初めてその顔に怒りを滲ませメンヘルがエクレアの懐に飛び込んだ。手には針ではなくてナイフが握られていた。
「視界を制限されたお前に私が負けるわけないでしょうが!」
「くっ!」
接近してもスキルによって強化されたと思われる身体能力でエクレアを撹乱し、メンヘルが絶え間なく攻撃を続ける。
エクレアは一見すると防戦一方だった。さばききれないナイフの斬撃がエクレアの肌に細かいキズを残していく。その上でエクレアは壁際まで追い詰められていた。
「あらあらいい顔ね。言っておくけどこのナイフにも毒の効果はある。そろそろ体の自由も効かなくなってきたかしら? これで終わりよ!」
興奮したメンヘルがナイフを振り上げたその時、エクレアが加速し瞬時に位置を入れ替えた。その結果逆にメンヘルが壁に追い詰められることとなる。
「かかったわね。この位置なら目を見なくても関係ない! はぁああぁあ! 武芸・
そしてエクレアの鉄槌が振り下ろされ激しい雷も生じま目映い光が溢れた。
「――掛かったわね」
「え?」
しかし光が収まり聞こえたのはメンヘルの声。その身はエクレアの背後にあった。不敵な笑み。そしてその手がエクレアの頭を掴み強制的に顔を上げさせた。
そんなエクレアの正面にもまたエクレア本人とメンヘルの姿。
「貴女の言う通りよ。私はスキルジュエルの力を利用してる。これはその中の一つ鏡面化。触れた場所を鏡に変えるの。貴女まともに戦っても私の目を見てくれないんですもの。でもね私の力は鏡越しでも適用される。残念惜しかったわね――」
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