第74話 エクレアとセレナ

「セレナ。どう? わかりそう?」

「感知してみます。範囲内にいてくれたらいいのですが――」


 エクレアとセレナはどこかにいるであろう黒い紋章持ちの仲間を探しに出てきていた。セレナは生命力を感知することで不穏な生命力を知ることが出来る。


「これは! いました淀みのある独特の生命反応。だけど範囲ギリギリ」

「急ぎましょう!」

 

 セレナの案内でエクレアは反応のある場所に急いだ。


「そこを曲がった先です。あ、でも」

「そっちね!」


 エクレアが加速して向かう。一方でセレナは何かに気がついたようであり。


「気をつけて誰か来てます」

「え?」

 

 セレナの声に反応するエクレア。すると曲がり角から一人の女性がフラフラと飛び出てきた。


「わっと! 危ない!」


 エクレアが女性を受け止める。革製の胸当てをしており手にはナイフ。雰囲気的に冒険者の気配が感じられた。


「ちょ、大丈夫、て、貴女目が!」


 女性の目から出血。瞼も閉じられており自力では開けられないようだった。


「どうしたのこんな怪我して!」

「これ、は、自分、で」

「え? 自分でってどういうことよ!?」


 彼女から話を聞き驚くエクレア。するとエクレアの肩に掴みかかり必死に何かを訴えた。


「気をつけ、て、瞳に、ぐほっ!」

「ちょ、大変!」

 

 血反吐と共に力なく倒れる女冒険者。よく見ると背中には針が数本突き刺さっていた。傷はそこまで深くないが毒が塗られていた可能性がある。


「セレナ治せる?」

「やってみます」


 エクレアに問われセレアが負傷した彼女の下で屈みこみ魔法による治療を施す。


「うん。ならここはセレナに任せて、私は後を追いかけるね」

「エクレア……この奥に相手はいます。気をつけて」

「うん。任せて!」

 

 怪我の治療をセレナに託しエクレアは奥へと急いだ。


 すると先程と同じようにふらついた足取りを見せる女性の姿。


「貴女も怪我? 大丈夫?」

「あ、はい……」


 女が振り返った。左腕を右手で押さえていて顔は目深に掛けられたフードで隠されていた。スタイルが良くどことなく色香を感じさせる。


「さっき変な男に襲われてしまい。どうか助けて」

「それはご愁傷さまァ!」


 助けを求め近づいてこようとする女だったが、エクレアが鉄槌を構えたまま一足飛びで距離を詰め女に向けて振り下ろした。


「参ったわね――」


 しかし当たる直前で女が飛び退き鉄槌は地面を砕くに留まる。


「貴女のパパといい、一体どうして、か弱い私に攻撃を仕掛けてくるのかしら?」

「演技が下手だからよ。ま、もっと言えば私からはあんたの右手にある黒い紋章が丸見えなんだけどね」

「……へぇ」


 エクレアの指摘で女の顔色が変わった。


「これを見られてしまったならごまかしても無駄なようね」

「そうよ。観念しなさい。パパのことも戻して貰うんだから!」

「フフッ。その様子だとしっかり私の為に働いてくれているようね」

 

 唇に指を添え不敵な笑みを零す、その姿にエクレアが憤った。


「貴方達パパまで巻き込んで一体どういうつもりよ! 目的はなんなわけ!」

「混沌よ。私達が求めるのはそれ。それこそが私達『深淵を覗く刻』の目的。そしてその暁には――フフッ」

 

 その問いに答える女。その口ぶりに怪訝そうにエクレアが眉を顰めた。


「ま、それはいいわね。それにしてもあの二人は何をしてるのかしらね」

「その二人ってライアーとガルの事かしら? だったら既に私達で倒したわよ」


 エクレアの返しに女の頬がピクリと反応した。


「残ったのはお前だけってことよ。名無しの女さん」

「フフッ。驚いたわね。まさかあの二人がやられるなんてね。いいわご褒美よ。特別に教えてあげる。私はメンヘル――『狂い咲く瞳』のメンヘルよ」


 そう口にしメンヘルがフードに手をかけ捲りあげる。すると不気味な光を放つ双眸が顕になった――

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