第54話 町の異変

「とにかくもう戻るぞ」

「えぇ! 嫌よぉ。エクレアちゃんともっと話したい~」

「うんうん。私もフィアちゃんと話したいもん!」


 ガイが席を立とうとするとフィアが文句を言った。どうやらまだエクレアと一緒に呑みたいようだ。


「チッ――だったらネロ。フィアはお前に任せる。おい、俺らは先に戻るからな」

「オッケー! 良かったねエクレア!」

「うんフィア♪」

「スピィ~」


 どうやらフィアはエクレアとすっかり仲良くなれたみたいだね。


「……ネロ。フィアはしっかりお前が送ってやれよ」

「え? あ、うん。そうだね」

「――言ってなかったがフィアはギリギリまでお前の追放には反対だったんだ。その意味、わかるな?」


 え? そうだったの? 突然ガイがそっとそんなことを伝えてきて驚いたよ。


 そうなんだ……でも何故かって――


「あ、もしかして魔力水が足りなかったとか? だったら言ってくれれば――」

「ちげーよこの馬鹿! スライムの角に頭ぶつけて百回死ね!」

「スピィ!?」


 えぇ! 何でそんなこと言われてるの僕! 何か怒ってるし大体スライムに角はないよ! スイムもちょっと驚いているし。


「もういい。行くぞ!」

「もう、仕方ないですね」


 こうしてフィアを残してガイとセレナが店を出た。エクレアはフィアと話が出来て嬉しそうだよ。


 何か二人が仲良くなれたのはちょっとうれしいかな――






◇◆◇


「たく、あの鈍感馬鹿が――」


 ガイとセレナは店を出てから大通りを歩いていた。ガイがネロの事を思い出したようで悪態をつく。その様子をセレナが微笑ましそうに見ていた。


「でも元気そうで良かったですね」

「――お前は良かったのかよ?」


 優しそうな目で語るセレナ。するとガイがボソッと呟くようにセレナに問いかけた。


「良かったと言うと?」


 セレナはガイの問いかけに小首を傾げる。


「だからお前だってネロのこと気にしてたんだろうが。別にパーティー組んでるからって無理に俺に合わせることなかったんだぞ?」


 するとセレナがピタッと足を止める。


「……何だやっぱり戻るのか? だったら俺は先に帰る――」


 セレナの様子を見て口を開くガイだが、彼女はスタスタと近づいてきてガイの脛に蹴りを入れた。


「痛ッ!」 

「えい! えい!」

「いて! いてぇ! な、何だ突然」

「貴方もネロのこと言えませんね」


 ニコッと微笑むセレナ。ガイは何故か背筋が冷たくなる感触を受けた。


「えい! えい!」

「痛! だからなんなんだお前は!」


 今度は杖でぽかぽか殴られ怯むガイである。


「くそわけわかんねぇ」


 結局二人で帰路につく。セレナの機嫌が悪くなりガイは頭を抱えていた。


「たく、何が気に入らないんだよ」

「プイッ」


 セレナがそっぽをどう対処してよいかわからなkなるガイ。その時だった正面から鍬を抱えた筋肉質の男がやってきてガイとすれ違う。


「フンッ!」

「クソがァ!」


 振り向きざまにガイが剣を抜き、振り下ろされた男の鍬を受け止めた。


「てめぇ殺気をばら撒きすぎなんだよ」

「おっと。いかんいかんこのガルともあろうが勇者を狩れるとあって少々興奮しすぎたか」


 鍬を振り下ろしたガルの口角が不敵に吊り上がっていた。


「チッ、てめぇ何俺と似た名前してやがる。紛らわしいんだよ殺すぞ!」


 そしてガイもまたガルを睨みつけながら瞳を尖らせるのだった――






◇◆◇


「マスター! た、大変です!」


 サンダースが山積みされた書類に目を通していると、フルールが息せき切って部屋に飛び込んできた。異常事態を伝えようとしているようだ。


「そうかわかった。ネロのやろうやりやがったな。やっぱり送り狼になりやがったか! ちょっと出てくる」


 腕まくりしサンダースが席を立った。フルールが慌てて反論する。


「いや、何を言ってるんですか! 違いますしネロくんはそんな性格じゃありませんよ! かなり鈍そうですし!」

「いや、お前の言い方も大概だと思うが、俺の娘のこと以上に大変なことがあるのか?」


 サンダースがフルールに向けて問いかけた。どうやら今サンダースの頭は娘のエクレアのことで一杯なようだ。


「ありますよ! これだから親バカは!」

「俺一応ギルドマスターなのに言い方酷くない?」


 フルールの忌憚のない意見にサンダースがキョトンっとした顔を見せた。確かにフルールは遠慮がない。


「いや、そんな親バカトークを繰り返してる場合じゃありません。街中で暴徒が暴れていてギルドに応援要請が来てるんですよ!」

「何だと? 何だ。盗賊崩れでも入り込んでるのか? 十人か二十人か?」

「それどころじゃありません。数百、いや千人に届く勢いでどんどん暴徒化してる人が増えてるんですから」

「――なん、だと?」

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