第53話 酒場で食事を楽しむ
「そ、そういう噂が耳に入ってきたんだよ! 冒険者のそういった情報は自然と入ってくるもんだ」
あ、そうなんだ。確かにそう言われてみれば冒険者同士情報交換は良く行われるからね。
「それにそっちのエクレアさんはギルドマスターの娘でしょう?」
「あ、知ってたんだ」
「有名だもの。雷と鉄槌のハイブリッド。切れると雷より怖い、男が恐れる雷槌のエクレアって貴方でしょ?」
「あはは。男が恐れるかはわからないけど、あでも私も貴方のことは知ってるよ。勇者パーティーのことは有名だし確か気に入らない物は何でも爆破する導火線のない爆弾娘のフィアって有名だものね」
な、何これ! 何かよくわからない間にエクレアとフィアの間に険悪な空気が滲み出してるよ!
「――プッ」
「フフッ――」
「「あははははははッ」」
あれ? 何かピリピリした空気に緊張してたのだけど、急にエクレアとフィアが笑い出したよ。
「貴方言うわね。私相手にそこまで言ってきたの貴方が初めてかも。男だって私を前にする大体萎縮するし」
「私もよ。パパの事もあって大体皆遠慮がちだったのよね。ネロは気にせず接してくれたけど同性とここまで言い合えたの初めてかも」
「「これはもう呑むしかないわね!」」
「えぇ!」
「スピィ~」
何かすっかり二人共意気投合したみたいだよ。エクレアまで一緒になってお酒を注文しだしたし。
「たく。大体お前に文句言わないのはどんな男でも問答無用で燃やして回ってるからだろうが」
「え!」
「ちょ、ガイでたらめ言わないでよ! 燃やしたのはしつこくいいよってくるような馬鹿だけよ!」
あ、でもそういう相手は燃やしてるんだ。
「あ、でもわかるその気持ち! 断ってるのに煩く近寄ってくるのって私も電撃で成敗しちゃもん」
「そうだよね! あいつらこっちが女だからって舐めてるんだからさ」
何かエクレアも一緒になって過激な事を……あの雷槌で殴られたらと思うとちょっとは気の毒に思えるね。
「二人共仲良くなれたみたいで良かったですね」
「スピィ~♪」
「チッ」
セレナがスイムを撫でながらエクレアとフィアを微笑ましそうに見ていた。ガイは相変わらず不機嫌そうな顔だ。でも、そんな顔ではあるけど何となく愉しんでそうでもあるよ。
「ガイも意地はってないでスイムちゃんと触れ合ってみたら如何ですか?」
「スピィ~」
「は? ば、馬鹿なんで俺が!」
「え? ガイ、スイムの事が気になってるの? それなら撫でてあげると喜ぶと思うよ」
「だから俺は!」
「スピィ~?」
テーブルを殴りつけて声を荒げるガイだったけどスイムピョンピョンっとガイの側に近づいていって、撫でてくれないの~? と言わんばかりにプルプル震えたよ。
「――チッ」
するとガイが人差し指を伸ばしてスイムをツンツンっと突っついた。
「スピィ~♪」
「ぐっ、もういい! 柄じゃねぇんだよ!」
「あはは」
ガイがそっぽを向いて照れくさそうに叫んだ。
「ガイってば恥ずかしがってるんだ。頬赤いぞ~?」
「うるせぇよ! これは酒が入ったからだ!」
フィアに誂われてガイが歯牙をむき出しに言葉を返した。やれやら意地っ張りだね。
それからは暫く皆で食事を楽しんだ。何と言ってもセレナが凄くてあれだけの量の食事を次々と平らげて行く。これにはエクレアも開いた口が塞がらない様子だったよ。
「たく、あいかわらず良く食うな。金足りるかこれ……」
「あ、足りなかったら僕も出すよ」
「誰がテメェの世話になるかよ! てか俺がここは出すからな!」
「えぇ! いやいいよ悪いし!」
そもそも今足りるか心配してたわけだし……。
「フン……それにしてもお前がすぐにパーティーを組むとはは。しかもダンジョン攻略か……一体どんな手を使ったんだ?」
ここに来て訝しそうにガイが聞いてきた。ガイの中では僕は弱いままなのだろう。
「別に。ただ水魔法を使いこなせるようになっただけだよ」
「水魔法なんて戦闘に使えねぇだろうが」
不満そうに口にするガイ。彼に限らず水魔法を戦闘面で評価してくれる人はこれまで誰一人いなかった。今でも一緒にパーティーを組んでくれたエクレアや訓練場で戦ったサンダースぐらいかなと思う。
「そんなことはないよ。ようは使いようってこと」
だけど、ガイには少しわかって欲しかったのかもしれない。だから水魔法で戦えるって意味も込めてそう答えた。
「……チッ。その様子じゃもうここを出ていくつもりはなさそうだな」
目を眇めつつガイが確認してくる。以前もそれ言われていたっけ。
「今の僕には大切な仲間がいる。だからここで一緒に頑張っていくよ」
勿論必要であれば遠征したりはあるかもだけどね。基本はこの町だ。
「――強情な奴だ。ま、いいさ。俺ももう出てけなんて言わねぇよ」
そこまで言った後ガイが残ったビールを一気に呑み干した。
「チッ、呑みすぎたな。おいもう出るぞ」
そしてガイが席を立つ。
「え? もう出ちゃうの?」
「たりめぇだ。いつまでも追放した奴と仲良しごっこ出来るかよ」
「え? まだ追加したかったのですが」
「お前はどんだけ食う気だよ!」
はは、セレナ本当凄い食欲……。
◇◆◇
夜の町は喧騒に溢れかえっていた。魔法の力で町に水道が敷設されているように、町中では魔法の明かりが等間隔で設置されており夜になると明かりを灯す。これにより日が落ちた後でも気軽に出歩ける人が増えた。
「よぉ姉ちゃん。暇なら俺たちと遊びにいかない?」
「おいおい、いきなりナンパかよ。へへ、すみませんねこいつ大分酒入ってて」
二人の男が道行く女に声を掛けていた。女は胸のパックリ開いたドレスを身にまとっており、見目麗しくスタイルも良い。その扇情的な様相もあり道行く男の注目を集めていた。
「あら? 私を愉しませて下さるの?」
「お、おお! おお! 幾らでも愉しませてやるぜ!」
「え? マジ? 成功しちゃった?」
最初に声を掛けた男が鼻息を荒くさせもう一人は意外そうに目を白黒させている。すると女は蠱惑的な笑みを浮かべ空を眺めた。
「――月が綺麗」
「お、おおそうだな。確かに遊ぶには最高の満月日和だ!」
「おいおい満月日和ってなんだよ」
そんなやり取りをしていると女がニコッと微笑み。
「こんな夜は、気が狂いそうになるほど興奮する。そうでしょう?」
「うほっ、勿論さっきから俺の息子も興奮しっぱなしだぜ!」
「ば、馬鹿! 折角成功仕掛けけてるのに、すみませんねこいつ馬鹿で」
「私の目を見て――」
欲情する男を諌める片割れ。すると女が二人に目を向けてそんなことをいい出した。
男たちが思わずその瞳に目を向ける。
「おお、なんて綺麗な瞳だ。綺麗な――」
「あ、あぁ確かに、すい、こまれそうな――」
「フフッ――」
瞳を見た男たちは突然口を閉ざし、その場に立ち尽くした。女は二人組の男を放置して通り過ぎていく。
その直後だった――
「「グォオオォオッォォオオオオォオオ!」」
「う、うわ、なんだこいつら!」
「おい何か暴れてるぞ!」
二人組の男が狂ったような声を上げ、周囲の人々を襲い始めた。騒ぎを耳にしながら女が笑みを深める。
「うふふっ、もっともっと愉しみましょう。今宵は何人狂うかしらね――」
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