第55話 勇者への襲撃
「で、てめぇは誰だ? いきなり危ねぇ真似しやがって!」
ガイが剣で鍬を押しのけるとガルが大きく飛び退いた。そのまま数歩後ろに下がりガルが笑い混じりに語る。
「ハハッ。そんなもの貴様が知る必要はない。どうせここで死ぬのだから、な!」
ガイの問いかけにガルは答える様子もなくその場で鍬を振り下ろした。勿論距離が離れた以上、攻撃の届く距離ではない。
「は? 何やってんだテメェ。まさかこんなところで畑でも耕すつもりか?」
ガルの鍬が地面にめり込むのを認め小馬鹿にしたようにガイが言った。
「はは、そのまさかさ」
「何?」
「見てガイ! 今鍬を入れた場所から、は、畑が!」
「何だと?」
セレナが緊迫した声を発す。ガイが確認すると確かにガルが鍬を入れた場所を中心に人が一人収まりそうな程の畑が生まれていた。
「マジで畑かよ。テメェどういうつもりだ?」
怪訝そうに問うガイ。そこへ一組の男女が足を止めガルに声を掛けた。
「おいおいおっさんこんな町中で野良仕事かよ。何考えてんだ? そんなに畑仕事したいなら外でやりやがれ」
「ちょっと止めなって」
「いいから黙っとけって。今からこの馬鹿に礼儀を教えてやっから」
連れの女が止めるも男は拳を鳴らしガルを威嚇し始めた。
「おい馬鹿! そいつから離れろ!」
調子に乗って文句を言う若者にガイが警告した。男はガイに目を向け睨みを聞かせ口を開く。
「あん? 何だテメェ。揃いも揃ってあんま調子に乗ってると、このおっさんと一緒にボコっちゃうよ~?」
「ははは」
粋がる若者が喋っているとガルがヒョイッと彼を片手で持ち上げた。
「な、おっさん何しやがる!」
「良い肥料が手に入った」
「は? 痛ッ!」
持ち上げた若者をガルが畑に投げ入れる。若者は片目を閉じ表情を歪めた。
「おっさん突然何を、え? ヒッ、お、俺の体が!」
「嘘! アポ!」
彼女と思われる女が畑に飲み込まれていく若者を見ながら名を叫んだ。アポの体が底なし沼に嵌ったが如く畑の中に沈み込んでいく。しかもその速度は早い。
あっという間に畑にアポが飲み込まれてしまった。
「う、嘘アポが。アポ――ヒッ!」
「てめぇはさっさと逃げろや!」
アポが畑の中に消え動揺する女をガルが見た。短い悲鳴を上げる彼女に逃げるよう促すガイ。
女が踵を返し逃げ出そうとする、がその足にシュルシュルと何かが絡みついた。
「え? 何これ根? い、いやぁあああぁあああ!」
叫び声を上げる女は根によって無理矢理畑の中に引きずり込まれていく。
「クソが!」
ガイが駆け出し彼女に手をのばすが、畑から大量の根が伸びてきてガイの体にも巻き付こうとしてくる。
「ガイ!」
「くそが! うざってぇ!」
セレナが叫ぶと剣を抜きガイが絡みついた根を切り飛ばした。
「たす、け、て――」
だが、そのときには既に女は畑の中に飲み込まれていた。助けを呼ぶ声だけを残し全身が畑の中に沈んでいく。
「くっ!」とガイが呻く。その様子をニヤニヤと見続けるガルであり。
「あ~あ可哀想に。無能勇者のお陰で将来ある若者二人が畑の肥やしにされちまった。なぁお前これどう責任とるつもりかな?」
「テメェ!」
「なんてことを――」
ガイが叫びセレナも憂いの表情を浮かべ呟いた。そんな二人を認めつつ、ガルが声を大にして語る。
「何だ? 俺に責任転換するつもりか? おいおい勘弁してくれよ。勇者パーティーだなんて偉そうにしておいて民間人も守れないお前らが無能なだけだろう? 自分の無能さを棚に上げて逆ギレたぁみっともない」
「貴方。何を言ってるのですか! 今の二人を殺したのは貴方ではありませんか」
セレナがガルに対して非難の声を上げた。だがガルはニタニタとした笑みを浮かべ答える。
「当然だろうが。俺はそのために来てるんだ。俺からすればお前らやこの町の塵連中を排除出来ればそれで勝ちなんだよ。だがお前らは違うだろう? 仮にも勇者なんだからしっかりと守ってみせろよ。そんなことも出来ない奴らが勇者気取りとはちゃんちゃらおかしいぜ」
悪びれた様子を全く見せず、ガルはただ二人を見下し続けていた。
「な、何を言ってるのこの人」
「チッ、イカれた野郎だ。だったらテメェをぶっ殺して終わりにしてやるよ」
「出来るのかお前みたいな無能に? ははは!」
一笑いしガルが腰に吊るした袋を弄った。中には種が入っていたようでそれを畑に無造作に撒き出す。
「何を呑気に種まきなんてしてやがる! 勇魔法・大地剣!」
ガイが地面に剣を突き立て魔法を行使。ガルの足元から巨大な剣が突き出すが後方に飛びのき避けた。
「ハハッ。種を撒けばどうなる? そう眼が出て!」
ガルが叫ぶと畑からギョロリと眼が出てきた。更に畑から目玉の飛び出た芋が飛び出す。
「そして凶悪な作物が育つ。これが俺の紋章『凶作の開拓者』の力だ――」
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