第31話 ダンジョンでの戦闘
「「「ヂュヂュッ!」」」
「こいつらラットソルジャーだね」
ダンジョンで最初に現れたのは二本足で歩くネズミといったタイプの魔物だ。このラットソルジャーは小柄だけど人が扱うような武器と防具を装備している。
ただ見る限り質はそんなに良くないね。三匹のラットソルジャーはそれぞれ短い剣、弓、片手斧といった装備で鎧は革の鎧だ。
「これは、丁度いい相手かも!」
するとエクレアが何かを思いついたような顔で声を張り上げた。丁度いいって何がだろう?
「ネロ。今度は貴方の魔法を見せてもらってもいい?」
そして今度はエクレアから戦闘を託された。外ではエクレアが戦ってくれたしね。勿論僕が戦うのに問題ない。
「ならやるね。水魔法・水槍連破!」
杖を掲げると水の槍が連続発射され目の前のラットソルジャーを貫いた。やっぱり防具もそこまで質がよくなかったからあっさり倒せちゃったよ。
「こんな感じだけど、あれ?」
振り返るとエクレアが目を丸くさせていた。
「ちょ、パパと戦った時に見てはいたけど本当どうして水にそこまで破壊力あるのよ!」
「あはは……」
気持ちの高ぶった声でエクレアが叫んだ。感心してるようでもあるけどちょっと不機嫌にも思える。
「何か僕不味いことしちゃった?」
「そういうわけじゃないけど……そうね。今度お願いする時はもうちょっと抑えるというか可能なら相手に水だけ掛けてもらってもいい?」
媚びるようにエクレアがお願いしてきた。そんな顔されたら嫌だなんて言えないよぉ。勿論言うつもりもないけどね。
「わかったよ。じゃあ次は水飛沫で対応するね」
「うん!」
「スピッ!」
エクレアが笑顔に戻った。スイムも肩の上で元気に返事している。
後は倒したラットソルジャーだけど、そのまま放置した。持っている装備にも目を引くものがないし、これといった素材ももってないんだよね。
ダンジョンに出る魔物は放って置くと勝手に消える。ダンジョンに取り込まれてるというのが現在の考え方だ。
そして僕たちはそのまま直進。先は壁があって行き止まりになっていたけど何と宝箱が一つ設置されていた。
「やった! お宝発見だねネロ」
「うん。でも罠が仕掛けられてる場合もあるから注意が必要だね」
ダンジョンの宝は喜んでばかりもいられないんだよね。まだ一層だしそこまで強力な罠はないと思うけど。
「それなら私が開けるね」
「大丈夫?」
「こう見えて体は丈夫だから心配しないで」
体が丈夫――重そうな鉄槌を軽々と振り回す姿を思い出して納得してしまった。
「開いた。特に罠はなかったわ。これは何かな?」
宝箱に入っていたのは緑色の液体の詰まった細長い瓶だった。
「これは解毒薬だね。持っていれば安心かも」
「やった。ならこれは私が持っておくね」
そう言ってエクレアが解毒薬をしまった。動きはエクレアの方が素早いからいざとなったらエクレアが持っていた方が役立ちそうだしね。
「行き止まりだけど宝があったからこっちは当たりだったね」
「そうかもね」
「スピィ~♪」
エクレアから僕にスイムが移って機嫌良さそうに鳴いた。うん、僕にもスイム成分は必要だ。
そして来た道を戻って直進する。それからも分岐が幾つかあったけど、ここでは他に魔物に出くわすこともなく、下層への道を見つけた。
急な坂になってるからわかりやすい。
「このままいくと下層だね。魔物は下に行くほど強くなるから気をつけないとね」
「うん。でもスイムがいてくれると安心だね」
エクレアはナチュラルにそんな台詞を口にする。勿論あくまでパーティーの仲間としてって意味なんだろうけどね。
うん――?
「どうしたのネロ?」
立ち止まり後ろを振り返る僕にエクレアが声を掛けてきた。
「いや、何か視線を感じたような……」
「視線? 他の冒険者かな?」
エクレアが小首をかしげる。確かにダンジョンは別に一度に一パーティーと決められているわけでもない。他のパーティーとかち合うこともよくある話だ。
ただ僕たちは朝一番で来てるし、他にパーティーが来ていた様子もなかったからね。更に奥ならダンジョンに泊まる形で探索を続けている冒険者がいたりするかもだけど。
「ただの気のせいかも。先を急ごうか」
「うん、そうだね」
「スピィ~」
少し引っかかりは覚えたけど僕たちは次の層の探索を続けた――
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