第16話 捕まったスイム

「いつから冒険者は盗賊集団に成り下がったんだい?」

「テメェ! ルガさんにあんま舐めた口聞いてんじゃねぇぞコラァ!」

「今すくぶち殺されてぇのかこの野郎が!」


 あの三人以外の柄の悪い連中が怒鳴り声を上げた。こいつルガっていうのか。


 随分と周りは気が立っているようだけど、僕は思ったことを言っただけだ。大体やってることはまさに盗賊だ。文句を言いたいのはむしろこっちだよ。


「お前勘違いしてるな。これは落とし前って奴だ。お前のせいでこいつらは冒険者を続けてられなくなったんだ。それにテメェのせいで俺もギルドで恥をかかされたしな」


 ギルドで恥? 言ってる意味がわからないよ。


「たくガイの野郎め。思い出しただけでも腹が立つ。ま、そっちの落とし前は後で付けるとして先ずはテメェってことだ」


 ルガがガイの名前を出してきた。こいつとガイの間で何かあったのか。だとしても僕には関係のない話の筈だ。


「ガイと何があったか知らないけど、逆恨みでこんな真似するなんて小さい男だなお前は」


 そうルガに伝えると、蟀谷に血管が浮かび上がりピクピクと波打った。


「テメェ今の状況わかってんのかコラッ!」

「ス、スピィ……」


 スイムを捕まえている奴が声を張り上げた。スイムも怖がってる。今はまだあまり刺激する時じゃないか。


「フンッ。少しはテメェの立場がわかった」


 僕が口を結ぶと、満足気にルガが唇を歪めて見せる。


「テメェは言われたとおり金を出せばいいんだよ。あぁそれと有り金全部といってもな当然それで終わりじゃねぇ。そうだな毎月俺らに500万マリン払え。それで命だけは勘弁してやるよ」


 そしてそんなふざけた要求をこのルガって男は通そうとしてきた。


「はは、なるほど。これは破格の条件だ。これでお前はとりあえず半殺しで済む」

「半殺しにはするのかよこりゃいいぜ」


 話を聞いていたごろつき冒険者達が笑い出す。何がそんなにおかしいんだが……


「しかしこいつそんなに金もってるのか?」

「問題ないぜ。俺は聞いたのさ。この野郎がブルーローズの依頼を受けたことを。そしてどうやら成功したようだとな」

「ほう。こんな雑魚がブルーローズの採取とはな。一体どんな卑怯な手を使ったか知らねぇが、だったらその報酬はしっかりこの俺様が頂いてやるよ」


 正当に受けた依頼をこなしただけで卑怯も何もないだろう。もっともこんな奴らに正論を言っても無駄だろうけどね。


「スピィ……」


 スイムがしょげている。捕まったことを申し訳なく思ってるとか? だとしたら間違いだ。悪いのはどう考えてもこいつらなのだからね。


 とにかく先ずはスイムを助けて安心させてあげないと。


「で、どうするんだ? あ?」

「嫌だ、と言ったら?」


 恫喝してくるルガに逆に聞いてやった。


「そこのスライムを殺してテメェも殺すさ」

「こんなところでそんな真似したらすぐ足がついて終わるよ」


 いくら路地裏と言っても人が死ねば痕跡が残る。調査に長けた魔法師だっているんだ。


「俺らが本気で殺すわけ無いと考えてるんなら、そんな甘い考えとっとと捨てることだな。テメェやスライムの一人や一匹殺したところでどうとでもなる。その手の仕事が得意な始末屋がいるからな」


 ――嘘を言ってる様子はない。それどころか、まるでこれまでもそういうことを頼んできたような言い草だ。

 

 ――冒険者は危険な仕事だ。登録者の内、年に何人も死体になって戻ったり行方知れずになったりする。


 更にそういった帰らぬ人となった冒険者の中には、何者かによって密かに始末された者もいるという。


 もしかしたらこいつらは、気に入らない相手をこれまで幾度となく屠って来たのかも知れない。


「ま、殺すと言っても男じゃな。女なら色々愉しめるんだがよ」


 随分とゲスいことを口にしているのがいるよ。こいつらやっぱりそういうことなのか――


 僕と同じ冒険者に、そんな悪人が混ざってるなんて考えたくなかったけど受け入れるしかないのだろうな。


「で? どうするんだ? さっさと選べ。俺はこうみえて気が短いんだよ」


 どう見てもそんな感じにしかみえないけどね――


「わかったよ。金を払えばいいんだろう」

「ハハッ、そうそう。素直に言うことを聞いとけばいいんだよ」


 連中が薄ら笑いを浮かべている。そして僕はお金を出す――振りをして!


「水魔法・水飛沫!」

「――ッ!? め、目に水がぁああッ!」

「今だ! 水魔法・水ノ鞭!」


 スイムを捕まえていた奴が水で怯んだ隙に更に魔法を行使。僕の背中から伸びた水の鞭がスイムに絡みつき引き寄せた。


「やったね! おかえりスイム!」

「スピィ~♪」


 戻ってきたスイムをギュッと抱きしめる。

 スイムも嬉しそうに体をスリスリと擦り付けてきた。


 はぁ良かったスイムが無事で。


「ば、馬鹿なテメェ一体今何しやがった!」

「何って水魔法だよ。見てわからないの?」

「ふざけるな! 最初のはわかる。水らしい小狡い魔法だ。だがその次のは何だ!」

「水で鞭を作っただけだよ」

「は?」


 ルガがポカンっとした顔を見せた。どうやら水魔法の真価を受け入れきれてない様子。


 別にこんな連中に理解してもらわなくてもいいけどね。さぁここからは僕のターンだ!

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