第二章 水の賢者の活躍
第8話 ソロで依頼を受ける
「フルールさん。せっかくだから依頼を受けたいと思ってるんだ」
とりあえず襲ってきた冒険者達の話も終わったし、僕は冒険者として改めて動き出そうと考えた。
もうパーティーに属して無いからソロになるけどね。でもスイムも一緒にいてくれるから寂しくはないかも。
「そ、そう依頼。依頼ね。あ、だったらいい薬草採取の依頼があるわよ!」
依頼について相談するとフルールが薬草採取を進めてきた。でも――
「薬草採取ってGかFランクの依頼……」
薬草採取は基本的な依頼の一つだ。GランクやFランクになりたての冒険者がこなす代表とも言える仕事。
さっき魔法の検証をした森あたりが採取スポットで若い新人冒険者も多かった。ただ僕は一応Eランク冒険者だ――ガイ達はもうDランクだったけどね。
とにかくEランクである以上それなりの依頼は受けたい。別に奢りではないと思う。薬草採取は本当散々やったし。
「確かに今はソロになったけどランク相応の依頼はこなしてみせます」
僕は今の気持ちをフルールにぶつけてみた。だけど難色を示す。
「あのね? これまでは他に守ってくれる仲間がいたから例えばダンジョン攻略なんかもいけたと覆う。でもネロくん一人じゃそうもいかないよね?」
「いえ。さっきも言いましたが僕も魔法で戦えるんです」
「だからそれは――」
くっ、駄目だ。このままじゃ信用されない。信用、そうだ!
「見てくださいフルールさん! 実は僕右手にもう一つ紋章が浮かんだんです。ほらほら!」
フルールに右手の甲を向けて訴えた。そうだ最初からこうしておけば!
「え? どこが?」
「は、い?」
だけどフルールが疑問符混じりの顔を見せた。
あれ? ま、まさか紋章が消えた!?
慌てて僕は右手の甲を見たけど確かに紋章があった。
「いやこれだよフルールさん。これこれ」
右手を翳してフルールにアピール。するとどこか生暖かい物を見るような目を向けられてしまった。
「そう――少し遅いけどそういう年頃なんだね。わかるよ、何かこう自分には特別な力が宿っていてそれが解放されたような感覚に陥る、そういうのって誰でも一度は通る道だもんね」
「えぇええぇえ!」
何かものすごい勘違いされてるよ。思春期特有の思い込みとかそんな風に思わてるよコレ!
うぅ、でもどうして、ん? あれ? 何か閃きが――
「えっと賢者の証は賢きもの以外には見え、ない?」
「あ、ひっど~い私が利口じゃないってこと~?」
あ、しまった! 何か頭に流れてきたような情報をつい口にしてしまったよ!
「いや、今のは違うんです! そうじゃなくて」
「ふふ、冗談よ。でもそういう設定はわからない人から引かれる可能性があるから注意してね」
お茶目な笑みを浮かべつつフルールが言った。う~ん、どっちにしろ信じては貰えてないね。
ふぅ、でも仕方ないか。この条件でどうしてフルールに見えないのかわからないけどね。
僕なんかよりずっと賢いと思うんだけど。
「紋章のことはもういいや――とりあえずボードを見てみるよ」
「そう……ネロくんが他の依頼を受けるというなら止める権利は私にはないけど、しっかり考えて選んでね。冒険者に怪我はつきものとはいうけど、無茶していいことなんてないんだからね!」
「う、うん」
フルールも心配してくれるのは嬉しいけど、もう少し信用してくれると嬉しいんだけどね。
とにかく僕はボードの前に来た。ギルドの壁に備わったボード、ここに沢山の依頼書が貼られている。
冒険者は基本ここから依頼を選んで仕事を受ける。ただ朝には大体なくなる。だからさっきみたいに受付嬢に直接聞く場合もある。まだボードに貼られていない新しい依頼が入ってきてることもあるからね。
さて、見てみたけどやっぱり殆ど依頼書が残ってないね。あ、でも――
依頼内容
・魔草採取
推奨ランク:E以上
詳細
北東のブルーフォレストに生えるブルーローズを2500本採取して欲しい。
報酬
50万マリン
おお。凄い良い依頼があるね。ちょっと数が多いけど報酬は悪くない。ブルーフォレストはそこまで強い魔物が出るわけでもないし丁度いいかな。
「これ良さそうかも」
「スピ~♪」
肩に載ってるスイムも行きたそうにしてよ。よし、依頼書を剥がしてフルールの前に持っていく。
「これを受けたいんだ」
「えっとブルーローズの採取……う、う~ん。確かにEランク以上だしそこまで危険な魔物は出ないと言われるけど、植物系の魔物が多い場所よ。あいつら周囲に溶け込んでるからソロだと厳しくない?」
やっぱり心配されてしまった。植物系の魔物……トレントやビビルローズとかだね。これらの魔物は普段は似たような植物のフリをして獲物を狙う。
だから油断してると不意を疲れやすいんだ。ただEランク推奨の森に出る程度なら攻撃手段はそんなに多くないし擬態もわかりやすいタイプが多い。
「大丈夫だよ。そんなに心配しないで。それにほらスイムもついてるし」
「スピィ!」
安心してもらおうとスイムについても触れると、僕の肩の上でぴょんぴょん跳ねて任せて~とアピールしてくれた。
「その子が可愛いのは認めざるを得ないけど、戦えるの?」
「冒険者に襲われたときもスイムのおかげで助かったんだよ。頼りになるんだよ」
「へぇ……この手のスライムはあまり戦えるイメージがなかったけど凄いんだねスイムちゃん」
「スピィ~♪」
フルールに撫でられてスイムが嬉しそうな声を上げた。戦闘力と言うよりはあの水を飛ばす方法が参考になったわけだけどね。
「じゃあ受けていくね」
「……わかった。流石に適正ランクなのに駄目とは言えないしね……でも本当に気をつけてね! 余裕があるなら回復薬も忘れずにね!」
フルールは本当に僕のことを心配してくれているようだ。依頼は受けたけど準備を怠らないよう色々指摘されたよ。
でも回復薬か……何かあったときの為に持っておくのはいいかもね。
とは言え依頼をこなすのは明日かな。今日は宿に泊まって明日に備えないと。それとスイムの食事も考えないとね――
おまけ
スイム「プルプルプルプル(フォローしてもらえると嬉しいプルン♪)」
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