第7話 勇者ガイ
ネロが森で水魔法の検証をしていた頃――冒険者ギルドにはネロを追放した勇者パーティーがやってきていた。
「ネロを追放した。脱退処理を頼む」
ガイが受付嬢に向けてそう頼むと、担当のフルールがジッとどこか恨みがましい目を向けてきた。
「……何だ?」
「既にネロ君が来て脱退手続きしていきましたよ。勿論パーティーからも受け取りますが――何でですか? 一年間も一緒にやってきたのに」
「……チッ」
フルールに問われガイが舌打ち、一方他の二人は黙ったまま特に何も語ろうとはしなかっった。
「別に、ただあいつがうちに相応しくなかったってだけだ――それよりもあいつは町を出ていったか?」
ガイの答えにフルールが眉をひそめる。
「なんですかそれ? いくら追放されたからってネロ君が町を出る必要はないでしょう」
「いやそんなことはないと思うぜ。なぁ勇者ガイ」
ガイ達がフルールと話をしているところに野太い声が入り込んだ。見ると随分と毛深く逞しい男が近づいてきていた。
「実はネロってのは俺も気に食わなかったんだ。実力も無いくせに勇者パーティーなんざに入りやがってよ。そもそも冒険者をやってることが間違いならあんなゴミをこの町にのさばらせておくのも間違いなんだよ。な? そう思うだろう?」
この発言にフルールは明らかにムッとしていた。
「なぁガイ。なんならこの俺様がお前らのパーティーに入ってやってもいいぜ? あんな水しか取り柄のねぇゴミカスよりは役に立って見せるぜ?」
「ちょっといい加減に!」
「ゴボッ!」
流石に黙っていられなかったのかフルールが立ち上がり声を荒げるが、ほぼ同時に暴言を吐いた男の体がくの字に折れうめき声を上げた。
ガイの拳がその腹に突き刺さっていたからだ。
「て、てめぇ、な、何を?」
「フンッ。死ぬほど手加減した俺の拳も避けられないで何が役に立つだ三下が」
吐き捨てるようにガイが言う。そのまま床に蹲る男をガイは冷たい目で見下ろした。
「それとネロのことを悪く言っていいのは一緒にパーティーを組んでいた俺達だけだ。大して関わりもない雑魚がネロについて知ったふうな口を叩くんじゃねぇ。殺すぞ」
拳をポキポキと鳴らしガイが男を睨む。
「あん、て、てめぇ勇者だからって何調子に――」
「ガイに同感ね。これ以上何か言うつもりなら――」
不快そうに言葉を返す男の背後にフィアが立った。
男に忠告すると同時に杖の先端へ炎が集まっていく。フィアはどこか病んでそうな瞳を男に向けそれに呼応するように轟々と炎が唸りを上げて膨張していった。
「……一度爆散してみる?」
「わ、わかった! 俺が悪かった、ひ、ひぃいいぃ!」
結局フィアの脅しに屈して男は逃げるようにしてギルドから飛び出した。
そしてこの一連のやり取りをポカンっとした顔で見ていたフルールであった――
◇◆◇
スイムを連れて街に戻ってきた僕はその足で冒険者ギルドに向かった。
勿論途中で同業の冒険者に襲われたことを伝えるためだ。
「ぼ、冒険者に襲われたーーーー! だ、大丈夫大丈夫? 大丈夫ーーーー!?」
えっと、説明したらフルールに凄く心配されてしまった。何かカウンターを飛び越えてきて僕の肩を掴んで揺さぶられてしまった。
「スピィ~――」
「え、す、スライムーー?」
そして肩のスイムに気がついて今度は叫び声を上げていた。なんだか今日は忙しいねフルール。
「森で見つけたスライムなんだ。随分となついてくれたから育てようと思って」
驚いてわたわたしてるフルールへスイムについて説明した。目をパチクリさせた後、フルールの口が開く。
「そうなのね……確かにこのタイプのスライムはペットとしてもよく飼われてるけど」
「スピィ?」
スイムを見ているフルールの口元がムズムズしていた。スイムが何々~? とでも思ってそうな様子でぷるぷるしている。
「触ってもいいですよ?」
「え? 本当に!?」
そしてフルールがスイムの頭を撫でて笑顔になた。
「はぁ癒やされる」
「スピィ~♪」
フルールに撫でられてスイムも嬉しそうだ。
「あ、そういえば勇者パーティーが来てたわよ」
「……ということはガイ達が?」
僕が聞き返すとフルールがコクリと頷いた。
「一応理由も確認したけど使えないとか言ってて一年も一緒にいったのにそんな言い方――と思ったんだけどね」
フルールがムッとした顔でガイの様子を教えてくれた。
そうか。やっぱり僕は使えない扱いだったんだね。
「でもちょっとおかしかったのよね。確かにネロくんを馬鹿にするような発言はあったけど――」
でもガイ達は更に上を目指せる勇者パーティーだから仕方ないのかもしれない。そう言えば町を出ていけとも言われたんだっけ……でも僕はこの町も嫌いじゃないし――
「それでね。何か別の冒険者に怒っちゃって。ネロくんを馬鹿にしていいのは俺だけみたいなこと言っててね」
何であんなこと言ったかは気になるかな。もう追放された物は仕方ないし頭を切り替えるしか無いけどね。確かにガイのパーティーにいる間は使い物にならない魔法だったんだから。
「ネロくんどう思う?」
「え? あ、うん。そうだね。いい気分はしなかったけど僕の魔法が使えなかったのは確かだから」
「え? えっと、いやそれだけなのかな? ちょっと気になったからなんだけど」
「ん?」
「スピィ?」
何だろう? フルールが難しい顔してるや。あ、でも僕もつい物思いにふけって殆ど聞こえてなかったかも……
「まぁいいわ。それよりもその連中よ。ギルドに登録しておいてそんな追い剥ぎみたいな真似許せないわ。しっかり問題にして手配するからね」
「あ、ありがとうございます」
フルールが僕の証言を疑うことはなかった。もっともこういう時はギルド側も嘘を見破る魔導具を利用する。だから発言に嘘があったらわかるんだ。それが反応しなかったから僕の話は無事信用してもらえた。
そしてこういった問題が起きると程度によってはギルドから手配書が回される。手配書が回れば他の冒険者からも追われる身となる。捕まった後は厳しい尋問も待っているらしいし当然冒険者の資格剥奪や罪人として強制労働送りもありえる。
「それにしてもネロくんよく無事だったわね。襲った連中確かに素行に問題あったけど、腕はそれなりに確かだったのよ。それを逃げ切るなんてね」
フルールが感心していた。奴らの特徴はしっかり話したからね。よく酒場で騒いでいた連中だしフルールの印象にも強く残っていたんだと思う。
でも今の話にはちょっとだけ語弊があるかな。
「いや、逃げてはいないんだ。僕の魔法で撃退したからね」
「スピッ!」
僕が説明するとスイムも肯定するように鳴いてくれた。
「ネロくん……うん。そうだね逃げるが勝ちっていうものね!」
「え? えっと――」
フルールはどことなく同情的な目を向けて励ますような事を言った。あれ? 信用されてない?
「ネロくん。冒険者にとって逃げるのは決して恥じゃないの。自分より強いのが現れたら逃げる! これも大切な戦術よ。だから強がらなくていいからね。それにその悪い連中はしっかり捕まえさせるから!」
「は、はぁ……」
「スピィ……」
何か力説されて反論する余地がなかったよ。フルールも僕の事を思って言ってくれてるのだろうし。
それに倒したことの証明が出来ないのも事実だ。水魔法は戦えないと思われてるのも大きい。
水に重さがあるなんて思いもよらなかったからね。今は水道の発展で蛇口から水が自由に出てくるから井戸みたいので水の重さに気づく機会もないわけだし。
まぁ、仕方ないかな。ここからは今後の活動で水魔法の常識を塗り替えていくしかないね。頑張らないと!
おまけ
スイム「スピィ~スピィ~(お★様を付けてくれると嬉しいっぴ)」
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