第6話 冒険者かと思えば追い剥ぎ

「ありえねぇ! なんなんだこの魔法は!」


 三人の冒険者は一瞬目が点になったかと思えば、大げさに騒ぎ出した。


 いやでもよく考えたら結構なことしてしまったかも。これは外れて正解だったかもしれない。当たってたら過剰防衛もいいところだ。


「さ、さてはテメぇ魔法の込められた爆弾を持ってやがったな!」


 三人の一人が喚いた。魔法の込められた爆弾、名前はそのまま魔法爆弾だけど、使い捨ての魔導具のことだ。


 地面に叩きつけると内部の魔法が発動するけど多くは爆発の効果を伴うことが多い。


「今のは水魔法だよ」

「うそつけ! 水魔法でこんな攻撃出来るわけ無いだろう!」


 冒険者がムキになって僕の言ってることを否定した。

 水魔法は攻撃には役に立たない。これが今までの常識だった。水に重さなんて無い、そう信じられていたからだ。


 でも僕は水の理を知り水の重みを知った。だけど――


「このままだと威力が高すぎだよな……」

「ふざけやがって。だったら俺が本物の魔法ってのを教えてやるよ。水属性なんかにこの俺の風魔法が防げるものか!」


 杖持ちの冒険者が魔法を行使しようとしている。風魔法は飛んでくるスピードが速いし使われると厄介だ。


「スピィ~!」

「ぐわっ、痛! 目がぁああぁあ!」


 その時、スイムが体から水滴を飛ばして風使いの目に当てた。動きが止まり当然魔法は行使されない。


「ありがとう助かったよ」

「スピィ♪」

 

 スイムにお礼を言うと凄くプルプルした。褒められたのが嬉しそうだ。


 だけど今の攻撃――そうだ小さい水滴でも勢いをつけて放てば――閃いたぞ!


「テメェ! いい加減にしやがれ!」


 僕の頭に新しい魔法の形が浮かび上がった時、弓持ちが矢を番え弓を引いた。


「武芸・狙い撃ち!」

「させないよ。水魔法・水鉄砲!」


 いま閃いた魔法を行使し右手を前に突き出した。五本の指から水滴を連射、いやこれはもう水弾と言っていいよね。


「ぐわぁああぁああ!」


 指から飛んでいった水弾で弓持ちが吹っ飛んだ。

 ついでに剣持の男の顔も歪む。


「な! 金属の鎧に罅が――」


 一応は加減して撃ってみたけど十分効果はあったみたいだ。弓持ちはもう立ち上がれないし剣士も苦悶の表情を浮かべている。


「風魔法・風の槌!」


 魔法か!? 嫌な予感がして飛び退くと上からまさに槌を振るがごとく風が落ちてきて地面に窪みを残した。


「てめぇなんかに水なんかに風がやられるかよ! 無能な水が攻撃なんて出来るわけねぇ。きっと何かトリックがあるんだ!」


 この男、風の紋章持ちなんだろう。だからか僕よりも上という認識が高いようだ。


「悪いけど僕の水は重い。それだけ威力が高いんだよ」

「馬鹿が! 水が重いわけあるかよ! ふかしこきやがって! 風魔法・風刃!」

「水魔法・水球!」


 相手に合わせて魔法を行使。巨大な水球が正面に飛び出した。動きが遅いのが欠点だけどおかげで相手の風魔法を受け止めることが出来た。


 一発で水は弾けたけど僕にもスイムにもダメージはない。


「そ、そんな、馬鹿な――」


 風使いが愕然としている。ならその隙に!


「そっちが風の槌なら――閃いた! 水魔法・水の鉄槌!」


 閃きに合わせて魔法を行使すると水が空中に集まり大きな鉄槌となって男に振り下ろされた。


「う、うわぁああぁああ!」


 男が悲鳴を上げると、ドゴォオォォォオン! という重低音が鳴り響き、後には僕の魔法で押しつぶされた杖持ちが仰向けになってピクピクと痙攣していた。


 どうやら命に別状はないようだけどこれでもう僕を襲おうなんて馬鹿なことは考えないだろうね。


「そ、そんな馬鹿な、そんな」


 残った剣士がわなわなと震えていた。僕にやられたのがよっぽど悔しいのかもしれない。


「さて残ったのはお前だけだね。どうするつもり?」

「く、くそが! 覚えてやがれ!」


 剣士はそう叫びかと思えば懐から巻物を取り出し開いた。


 途端に魔法陣が浮かび上がりその場から全員が消え失せてしまった。


 あれはスクロールと呼ばれる道具だ。開くことであの中に込められた魔法を一度だけ行使できる。


 どうやら転移系の魔法が込められていたようだね。でも、この手のスクロールはダンジョンで手に入れるか魔法の店で買うしかない、わけだけど使い捨てとは言え安い物ではないはずだね。


 それを使うなんてよっぽど慌てていたってことか。

 

「まぁでも君たちのことはしっかりギルドに報告させて貰うけどね」

「スピィ~!」


 誰もいないけど今の気持ちを呟いた。スイムも、どうだ! と言わんばかりの鳴き方だ。


「さて、じゃあ戻ろうか」

「スピィ~♪」


 冒険者、というよりは無頼漢といった印象が強い三人を追い払った僕たちは町に向けて歩みを再開させる。


「スピィ~」

「ん? あれが食べたいの?」


 道々スイムが木の上になった木の実に注目していた。何か食べたそう。だけど高木で実のなる枝の位置が高いから手が届きそうにない。僕の格好も木登り向きじゃないんだよね。


「ちょっと届かないかな」

「スピ~♪」


 僕が答えるとスイムの一部が触手のように伸びて果実を絡め取って手繰り寄せた。


「おお! 凄いスイムそんなことも出来るんだ」

「スピィ~♪」

 

 頭を撫でて感心するとスイムが心地よさそうにプルプルした。


 はぁスイムの体はひんやりして気持ちがいい。まるで水みたい――水。


 確かにそう考えたら今のも水が伸びたみたいだった。それを応用すれば――


「閃いた! 水魔法・水ノ鞭!」


 新たな魔法を行使すると水が鞭のように変化した。しかも背中からまさに触手のように何本も生やせてしまう。


「おお、これは結構使えるかも! ありがとうこの閃きはスイムのおかげだよ」

「スピィ~♪」


 お礼にスイムの頭を撫でてあげた。おかげで僕の魔法のレパートリーも一気に増えた気がするよ。


 これも元を辿ればあの枯れた井戸のおかげひいては神父のおかげだね、とそんなことを思いながら僕はスイムを連れて町へと戻った。

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