第354話
内城からの帰りに3人にプリンとアイスクリームをお土産として買うことにした。
前回買って帰ったら、何かあったのか? と疑われたので、こういう何もない時でもお土産を買うようにする。いざ、という時に疑われないようにするための対策だ。
…………ん? いざってどんな時だ??
魔法の練習もサボらずにきちんとする。
昨日零式改を実戦で初使用したので、その微調整を行った。
「ただいま~」
「「「お帰りなさいませ」」」
ルルカとロザリナも買い物から帰って来ていた。
「ルルカ、ディアから聞いてると思うが…………」
「はい。
ツトムさん、ワナークを守っていただきありがとうございます」
「俺は大したことはしてないから、礼などは不要だ」
「そうなのですか?」
「ああ。ワナークを守ったのはコートダール軍だ。
彼らが自らの国を守るために死力を尽くしたんだ」
「…………」
「ツトム様、ミリスさんがギルドに顔を出して欲しいと言ってました」
「急いでる感じだったか?」
俺の回復魔法が必要な重傷者か、手強い魔物でも出没してるのか。
後者は一刻を争うという事態ではないが。
「いえ、明日にでもギルドに行けば十分かと」
一応今は休暇中なんだけどな。
どうせ清掃依頼でも入ったとかだろうし、そのぐらいなら別にいいか。
「わかった。明日はギルドに行こう」
「お供致します」
「ああ、頼む」
ロザリナの同行を許可する。
城内ギルドからの呼び出しには、可能な限りロザリナは連れて行かない方針である。
それはギルドマスターであるレドリッチを警戒してのことだ。
ロザリナが冒険者資格を停止させてるということもあるが、ルルカとディアを加えた3人は明確な俺の弱点だからだ。
「城内に行ったから、プリンとアイスクリームを買って来たぞ」
「あら♪」
「もちろんディアにはプリンだけを多くだ」
「ツトム、感謝するぞ!」
「食後に頂きますので、まだ収納から出さないでいいですよ」
「あ、ああ」
食後って、甘いものは別腹か…………
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-ベルガーナ王城・軍務卿の執務室にて-
「閣下、お帰りなさいませ。
外務卿の用件は、もしやコートダールの戦況に関してですか?」
「うむ。例のツトムという魔術士が活躍したらしい。
特殊個体を2体も討ち取ったそうだ」
「特殊個体を2体も?!
まだ軍でもその対処法が手探りな段階なのに…………」
軍務卿であるコーディ・ルーディック侯爵が、外務卿からの呼び出しを受けたのが半刻ほど前のことだった。
不機嫌さを隠さぬまま、質素ではあるが一目で高級品とわかる自身の椅子へと座る。
「
昨日あれだけグレドール(=伯爵。バルーカ領主)と魔術士をこき下ろしてたくせに、その舌の根の乾かぬうちから褒めちぎっておるわ!!」
午前中に開かれた御前会議においては、昨日外務卿にあらかじめ話を通しておいたので、軍部への批判自体は避けられなかったものの深手を被ることはなんとか防げた。
しかしながら、その話を通す段階で外務卿には、
『グレドール伯は王国防衛の
『軍は同盟国の危機に援軍の一つも送れないのか』
『年少の魔術士1人を援軍として派遣しただと? 軍にはプライドというものがないのか』
『いくら功を重ねてる者とはいえ、そのような年少者を頼みとするなど軍の先行きも真っ暗ですなぁ』
などと散々軍への批判や嫌味を言われたのだ。
それなのに今になって一転、
『グレドール伯の手腕には恐れ入る! さすが王国要衝のバルーカの領主よ』
『たった1人で手柄を挙げるとは! そのような若者の活躍は王国の
と、賛辞の嵐といった変わり様なのだ。
「外務卿からの謝罪はあったのですか?」
「冒頭に型通りの謝罪はあったが…………」
「ならばよろしいではありませんか。
今問題とすべきは、戦果を挙げたツトムなる魔術士についてかと」
「う、うむ、そうだな」
「外務卿がそれほど称賛していたということは、コートダール側に何らかの動きがあるのでは?」
「帝国の手前使者を立てるまではせぬだろうが、感謝を伝える書状ぐらいは送ってくるだろうな」
※コートダールの防衛はグラバラス帝国が戦力供給することで成り立っているため。
「コートダールからそのような書状が届けば、王国としてもその功績には報いなければなりますまい。
もし閣下が魔術士を葬ることをお考えでしたら、そのような事態は避けねばなりませんが…………」
「うむ…………」
ルーディック侯は腕組みをして思案する。
元々魔術士についてはどうでもよいと思っていた。
だが、他国が関わって来るような功績を立てるとなると話は違ってくる。
魔術士の功績は主であるイリス姫の功績でもあるのだ。
国内のことであるなら揉み消すことも可能だが、他国が絡むとそれも不可能となる。そればかりか、他国からの評価を後押しに勢力拡大を図ることも決して不可能なことではない。
若い国王が即位してまだ日も浅い今日、姫派が再興する事態だけは何としてでも阻止しなければならない。
しかし…………
「コートダールに書状を送らぬよう働きかけるとしても外務卿は応じぬだろう」
ベルガーナ王国の外交を担う外務官は、全て中立派か無所属で固められている。
これは各国との交渉に派閥の思惑が絡まぬよう徹底されており、最大派閥となった現国王派でさえ例外ではない。
「でしょうな。
今後コートダールに対して様々な場面で有利に交渉を進められる材料を、みすみす手放すはずがありません」
「正規の外交ルートが使えぬのなら、裏から手を回すほかあるまい。
…………できるか?」
「時間はかかりますが」
「すぐにも取り掛かってくれ」
「ハッ!」
だが、この試みは徒労に終わってしまう。
なぜならコートダール側の動きが早く、数日内に王国に書状が届けられるからである。
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