第355話
翌日、午前9時を過ぎた頃に、ロザリナと共に壁外ギルドへと出かけた。
冒険者ギルドの朝は、新規に貼り出される依頼票をゲットするために、多くの冒険者で賑わっている。
みんな少しでも良い条件の依頼を受けようと必死だ。
当然ギルド職員も冒険者の対応に忙しくなるので、気を効かせて手が空く頃に行くのだ。
まぁ3人とゆったりイチャイチャしてれば、必然的にこのぐらいの時間にはなるけど。
冒険者が出払って閑散としている壁外ギルドで、事務作業をしているミリスさんに声をかけた。
「ツトムさん、おはようございます。ロザリナさんも!」
「ミリスさん、おはようございます」
ロザリナはミリスさんと仲が良いのだろうか?
もちろん仲が悪いというわけではないだろうが、今の挨拶からしてもキャッキャウフフな関係には程遠い感じだ。
もっともロザリナが、他の誰かとキャッキャウフフしてるとこはあまり想像できないが…………
「??」
「…………ツトム様?」
「あ、ああ。ミリスさん、今日はどのような用事ですか?」
「タークさんから伝言を預かっています。
南の森でオークを狩りたいので、ツトムさんに護衛をしてもらいたいとのことです」
「護衛?」
タークさんはこの世界に来た初期の頃に、俺をパーティーに誘ってくれた20歳過ぎの剣士だ。
6等級冒険者で、彼がリーダーをしているパーティーには他に、盾役のラルカスさん(男性、20代後半)、弓士のエルさん(女性、20代後半)、魔術士のスクエラさん(女性、20歳ぐらい)の3人がいる。
「お2人はご存知ありませんでしたか。
3日前に城内ギルドの5等級と6等級パーティーが南の森で特殊個体と遭遇し、6人が殺害されました」
「6人も…………」
「ツトム様…………」
3日前というと、俺がコートダールに行く前日のことだ。
「この事態を受けまして城内ギルドは、6等級以下の南の森での活動を禁止とする布告を出しました。
5等級以上には特殊個体と遭遇した際には、交戦せずに即退避するよう注意喚起しています」
ん?
「6等級以下の南の森での活動が禁止されるなら、タークさん達も森での狩りはできないのでは?」
「あれ? これもご存知ないです?
タークさんのパーティーは先日5等級に昇格されましたよ」
なんとっ?!
「タークさんも水臭い。知らせてくれれば昇格試験の応援に行ったのに」
まぁ自分が昇格試験受けた時もタークさん達に知らせなかったので、これでお相子なわけだけど。
「…………あっ!? そういえばタークさんからツトムさんのことを聞かれたことがありました。
ちょうどツトムさんがアルタナ王国の武闘大会に参加していて、バルーカにいなかった時です」
「武闘大会の時でしたか」
全然お相子なんかじゃなかった!?
「5等級に昇格したタークさんのパーティーは、王都にメンバー募集をしに行きました。
バルーカに戻ったのは数日前ですね」
グリードさん達もメンバー募集のために遠くに行ってるよな。
昇格したら人を増やすために旅に出るものなのだろうか?
ずっとボッチ…………ゲホゲホッ! 孤高のソロプレイヤーである俺にはよくわからんな。
まぁ最近ではロザリナを連れて2人でパーティーと言い張ることはできるが、本人のやる気はともかくとして、危険性の高い依頼や戦場には同行させられないからなぁ。
そうか…………
等級が上がれば、難しい依頼を受けたり、強い敵とも戦うかもしれない。
そういう困難に直面するのを想定して、前もってパーティーの戦力を整えておくのか。
パーティーリーダーも責任重大だな。
当たり前か。メンバーの生命を預かってるわけだし。俺のように、『危なそうな時はロザリナは家で待機な』というわけにはいかない。
しかし、しっかりした感じのタークさんはともかく、あのグリードさんがリーダーとしてきちんとやれてるようなイメージは全然ない。どうせナタリアさんが裏で指揮ってるに違いない。
「お話はわかりました。
でも、特殊個体と遭遇した際に、戦わずに護衛なんてできるでしょうか?」
俺だけなら飛んで逃げればいいけど、タークさんのパーティーを守るには、俺が黒オーガと戦ってる間に逃げてもらうぐらいしか方法はないように思える。
「そこはほら、『交戦せずに』というのはあくまでも注意ですから、現場においては臨機応変に対応して頂きたいかなぁと♪」
両手を握って可愛く首を
要は現場に丸投げしてるってだけだろ!!
ん?
あ、あれ?
チョット待てよ…………
「ミリスさん、こういった冒険者間の伝言のやり取りは、本来ギルド職員の仕事ではありませんよね?」
「? そうですね。手数料を頂くわけでもないですし、冒険者の方とお仕事を行う上でのサービス……というほどでもありませんが、お付き合い上承っていると申しますか…………」
「ミリスさん、ギルド職員の正規の仕事でないのなら、単に伝えるだけとか簡単に済ますのが普通なのでは?」
「もちろんですよ~
単に雑談しているのと大差ないですからね。
混雑してる時なんかにしてると怒られちゃいますよ♪」
「でもミリスさん、今はこうして時間をかけて詳しく説明してくださってますよね?」
「そ、それは、私はツトムさんの担当ですし、今は混んでるわけでもありませんから。
…………あのぅ、どうして私の名を連呼するのでしょうか? 少し怖いような…………」
「だってミリスさん、自分にタークさんのパーティーを護衛させるついでに、あわよくば特殊個体を討伐させようとしてません?」
「そんなことは……ないと……申しますか…………」
目を逸らしながら尻すぼみに答えるミリスさん。
「(ジィィーーーーーー)」
「おほほほ。城内ギルドから特殊個体に関する通達があった際に、ツトムさんなら特殊個体を倒してくれるかも、とギルド内で主張したような、しなかったような?」
やはりかっ!
ミリスさんはたまに腹黒さが出てくるんだよなぁ。
「で、でも、自分が担当している冒険者をアピールすることは、ギルド職員として当たり前のことなんです!」
「そんなアピールはしなくていいですって」
「ツトムさんはこの壁外ギルドのトップに君臨する冒険者なんですよ。
以前は全然依頼を受けてくれませんでしたし、最近は受けてくれるようになりましたが、それでもギルドに全然顔を出してくださいませんし…………」
そう指摘されるのはこちらとしても痛いところだ。
以前レドリッチ(=城内ギルドのマスター)に言われたっけ。
若い冒険者にとっては、同じギルドのトップパーティーは憧れであり、目標であり、手本となる存在でもある、と。
今のところ俺は目標や手本になるどころか、逆に『アイツのようにはなるなよ』的なことを言われてるかもしれない。
もっとも壁外ギルドに所属している冒険者の大半は俺より年上なんだが…………
「ツトムさんを担当している私の立場も考慮して頂けると…………」
「わかりました。必ずしもミリスさんの思惑通りになるとは限りませんが、タークさん達の護衛は引き受けます」
「あ、ありがとうございます!」
タークさん達には指名依頼しなくても手伝うって約束してるからな。
「それで城内ギルドのパーティーがやられたという特殊個体はどんなタイプなのですか?」
「額に二本の角を生やしていて、両腕に持つ刃で攻撃してくるとのことです。
おそらく、この前のオーク集落討伐の際に、ツトムさん達が交戦した特殊個体と思われます」
奴かっ!!
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