第350話

 引き返す感じでテキトーに飛べば、もう1度攻撃してくるだろうか?


 (むむむむ…………)


 敵の正体もわからず、何人いるのかすらわからない。

 俺が戻ってくるのを待ち構えている可能性もある、か…………


 (ここは自重すべきだろうな。自分が不利な状況でも敢えて行かなければいけない、という理由も今回はないし)


 十分に引き付けられて真下から近距離で魔法攻撃されたら、いくら敵感知スキルに反応があっても避けられないだろう。

 ん? 敵感知スキルに反応??


 (…………そうなんだよ!)


 今回の件で敵感知スキルが人間にも有効なのが確定したのだ。

 敵意を感じて…………という反応ではなかったな。殺傷目的の攻撃に対して反応するってことなのだろう。

 過去の模擬戦では何も反応しなかったことからもまず間違いない。

 事前に敵を判別できたり追跡できるようなスキルでないのが残念だが、不意打ちや奇襲に反応してくれるだけでもありがたいな。


 そして同時に、地図(強化型)スキルが人間相手には役に立たないことも確定してしまった。

 こちらにも表示されていれば、敵を探すことも可能だしその人数もわかったのに…………


 まぁないものねだりをしても仕方ないので、すぐにこの場を飛び立つことにする。

 向こうから仕掛けて来る可能性もないとは言い切れないからな。


 1番拠点(西の中継拠点)の場所だけ確認して商都へ向かう。

 それまでのゆっくり景色を見ながらの飛行ではなく、速度を上げて飛ぶことにした。




 それにしても、誰が俺のことを狙ったのだろう?

 ここは『誰が』というより『どの組織が』と置き換えるべきか。


 候補としては、コートダール軍・グラバラス帝国軍・冒険者・野盗他、といったところだ。


 まずコートダール軍。

 俺を狙う理由はなさそうだが…………

 商都の司令部やレグザール砦・3番拠点においても俺への敵意みたいなモノは感じられなかった。

 まして、バルーカから正規の援軍として派遣されてる俺を攻撃することは、南部三国の同盟関係を自ら壊すような行為だ。

 コートダールには何一つ利益がないように思える。


 ただ、帝国が保守派と過激派に別れて争っていて、ベルガーナ王国もつい最近まで王位継承争いをしていた。アルタナ王国だってレイシス姫が第一王子の対抗馬として担ぎ出されかねない状況にある。

 コートダールも俺が知らないだけで一枚岩ではなく、別の意図を持った集団がいるのかもしれない。


 次は帝国軍だ。

 狙ってくるとしたら過激派ということなのだろうが、果たして帝国のような大国が一個人を排除しようと画策するだろうか?

 帝国内で対立している保守派に目を向けてるはずで、他国の冒険者でしかない俺は眼中にないと思うけど…………


 冒険者の場合は……、冒険者ギルドが組織として俺を狙うことはないと言い切れる。そんな冒険者から不信を買うようなことをしても、ギルド側には何のメリットもないからだ。

 どちらかと言えば、バルーカギルドマスターのレドリッチのように俺を利用したい、取り込みたいと考えるほうが自然なはず。これは教会(=聖トルスト教)に対しても同じことが言えるだろう。

 ただ、冒険者個人ということなら可能性はあるかもしれない。

 例えば武闘大会で俺に負けた人とか、そういう個人的な恨みから俺を狙うケースだ。


 最後に野盗や犯罪者に狙われるケースだ。

 目的は俺を捕らえて奴隷として売り飛ばす感じか? でも殺意アリの攻撃だったしなぁ…………

 それに、魔術士が犯罪に手を染めるだろうか?


 魔術士は軍や冒険者を辞めた後も、他の多くの業種から求められる人気職である。

 若い頃から実戦で腕を磨いて30歳ぐらいで第一線を退き、貴族や大商会のお抱えとして高給取りになる。優秀な魔術士の定番の職歴ルートだ。

 例えそこまで優秀ではなくとも、楽で稼げる仕事が回ってくる確率は結構高い。

 ある程度魔法を扱える魔術士であれば、ほぼその後の人生が保証されてるようなものなのだ。なのでリスクを犯してまで犯罪に走る者はほとんどいない。



 う~~ん……、どの敵候補もあまりピンと来ないな。


 もしかしたら魔族を容疑者から完全に除外するのは間違ってるのかもしれない。

 地図(強化型)スキルに反応がなかったのは事実だが、魔族側にはアルタナ王国で遭遇したあの異形という存在がいる。

 人に化けられるアイツなら、金銭を渡すか弱味でも握って魔術士に俺を攻撃させることもできるだろう。

 なにせ昨日討ち取った二本角2体を加えると、俺は黒オーガを計4体も倒していることになる。

 魔族側が俺を狙う動機としては十分だ。


 …………あっ?!

 そもそも俺個人を狙ったかどうかもわからないのか!

 飛行魔術士なら誰でもよかった、ということも十分考えられる。

 その場合は、よそ者の俺がいくら推理したところで犯人に辿り着くのは不可能だろう。




「ツトム殿! 少し前に魔物が撤退したとの報告が前線から…………っ?! 戦闘があったのですか?」


 肩部の破損と、強行着陸した際に木々で付けられた細かな傷跡が残る革鎧を見て、レイチェルさんが驚いて聞いてくる。

 この驚いた反応ならレイチェルさんは今回の攻撃とは無関係だろう。


「その件について報告したいのですが…………」


 商都の司令部に着いてすぐレイチェルさんを呼んでもらったのだが、さすがに人の往来の多い入り口付近で話すにははばかられる内容だ。


「…………こちらへどうぞ」


 さすがにレイチェルさんも察してくれて個室に移動することとなった。

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