第349話
3番拠点と呼ばれている東の中継拠点を飛び立つ。
戦闘が終わって負傷者がいないということであれば、わざわざ残りの2ヵ所の中継拠点に立ち寄る必要はない。
場所だけ確認してから商都に戻ることにする。
既に商都の軍司令部にも魔物が撤退した前線からの知らせは届いているはずだ。
もうバルーカに帰っても問題ないはず。
それにしても…………この世界に来て3ヵ月以上経つというのに、未だに連絡に時間差が生じることに慣れることができない。
前線からの報告が来るまで、司令部で待機していても良かったかもしれない。
レイチェルさんとの微妙なやり取りを嫌って外に出たのだし、実際イズフール川の想像を遥かに超える巨大さや、前線の要塞群をこの目で見れたのは良かったけど。
昨日もあのまま司令部で待機していれば、レグザール砦からの急報で結局は砦へと飛んで行ったのだろう。
ああ、でもそれだと砦への第3波攻撃に間に合ったかは微妙か。
伝令を担う飛行魔術士の戦死というアクシデントが起こり、代わりに商都への知らせには騎馬が用いられたので司令部に情報が届くのが遅れたのだ。
戦場ではそのような予期せぬことが起こりえるのだから、早々に前線に行くことにした判断は正しかったのだろう。
イズフール川沿いの防衛ラインと、北にあるワナークの街の間に存在する森林地帯。
その中央に位置する2番拠点は、東にある3番拠点よりも一回り大きい規模だった。
前線と後方を繋げる道も、荷馬車が余裕をもってすれ違えるほどの広さがあり、きちんと森を伐採して整備されたことが上空から道が視認できることからもわかる。
その2番拠点を通過し、西にある中継拠点・1番拠点に向かっている時だった。
(ん? 敵???)
敵感知スキルが反応する。次いで……
ヒュン! シュッ! ヒュン! ヒュン! シュッ!
(ま、魔法攻撃?!?!)
眼下の森から放たれるこの魔法は…………ウインドカッターだ!
とりあえず魔盾で防御を…………ダメだ! 飛行魔法中は他の魔法を使うことはできない!!
違う魔法を同時に発動することはできない。この世界における厳然たる法則だ。
頭では十分わかっていることなのだが、突然のことについ反応してしまう。
「くっ!?」
ウインドカッターが肩に着弾して、革鎧を切り裂いて肩の肉を
深く切られたらしく、血が後方へと飛ばされる。
当然ながら飛行魔法中は回復魔法で治すこともできない。
(と、とにかく回避運動を…………)
飛行速度を上げながら右に左にと身体を傾けていく。
この方法が正しいのかがわからない。
そもそも空中戦がうまくイメージできないのだ。まして今回は地対空の状況だし。
映画やアニメからの何となくのイメージでの機動を行うが…………
航空機をメインテーマとした作品が思ったよりも少ないことに気付く。
模型を使っての撮影で昔の作品の印象が強く、未視聴なので内容も知らない。
(そうだ! 射線を切ればいい!!)
割と単純なことに気付いて、森林の中へと着陸する。
滞空魔法でゆっくり降りることもできず、着陸に適したスペースを探す余裕もないので、木々の中への強行着陸だ。
幹を避けるのに精一杯で、枝を折りながらの着陸になった。身体中切り傷だらけですごく痛い…………
地面に降り立ちすぐさま回復魔法で傷を治す。
ウインドカッターが直撃した肩は、装備している革鎧の肩当てごと切り裂かれていた。
露出している部位に着弾していたら、もっと深手を負っていただろう。
初めて飛行魔法で飛んでいる最中に攻撃を受けたので、混乱してしまってうまく対応できなかった。
実戦で攻撃魔法を喰らったのも初めてのことだ。
アルタナ王国に潜伏していた異形からの魔法攻撃は魔盾で防いだし、あとは模擬戦でウインドハンマーを当てられたぐらいだ。
傷を治して一息ついたことで徐々に落ち着いてきた。
冷静になったことで自分の失敗に気付くことになる。
景色を見ながらだったので巡航速度より遅めとはいえ、俺は飛んでいたのだ。地上から空の俺を狙う場合、攻撃可能な時間は極めて短い。
つまり、とっくに敵の魔法の射程外に出ていたのに回避運動を始める、という間の抜けた行動をしてしまったのだ。
これが単なる笑い話で済めばよかったのだが、この代償は思いのほか大きい。
敵の射程外に出て以降も無駄に飛び続けてしまったために、敵との距離が大きく開いてしまって追跡が困難になってしまったのだ。
まして敵を追いたくとも攻撃地点を特定することができない。
この緑に覆われた森林地帯ではわかりやすい目印などはなく、無駄に回避運動をしたせいで大まかな位置すら把握できなくなってしまった。
そして、敵の姿すら見ることができていない。
森の木々の奥からの攻撃だったので、飛んでいる俺が視認するのは不可能だった。
この魔法攻撃を仕掛けてきた敵…………
バルーカの街中で矢を受けて以来、外出する際には常に表示させている地図(強化型)スキルには何も反応がなかった。
これの意味するところはただ一つ。
この敵は人間である、ということになる。
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