第310話
先頭を歩いていたチェイスの剣士が手を挙げ全体が止まる。
少し前から地図(強化型)に表示されていた進行方向の赤点3つに気付いたようだ。
(斥候職でもないのによく気付いたな)
性別不明な弓士が矢を
ヒュン! ヒュン! ヒュン!
(うぉ! 3体きっちり倒している!! しかも速い!!)
弓に矢を番える動作も速いが、狙いを付ける時間が恐ろしく短い。
自分が出会った中で最高の弓士はロザリナの妹のサリアさんだが、この性別不明な弓士はサリアさんよりも2段か3段は上な実力だ。
もっとも、
この世界に来てわりとすぐに緊急招集された、陥落した南砦からの撤退戦。
バルーカが大規模に攻撃を受けた夜間の戦い。
アルタナ王国に救援に赴いた際のレグの街とルミナス大要塞での戦闘。
自分が認識してないだけで軍隊の中にも凄腕の弓士がいたかもしれない。
特に獣人は強弓でも引けるだろうし、感覚器官が人族より優れている種族が多いのも有利な要素だ。
むむ?!
地図(強化型)に大量の赤点が映り始める。
前方のやや右のほうに集落があるようだ。
斥候も兼ねてるらしい先頭にいる剣士も合図を出している。
さらに進むと集落が見え始めた。
見張りらしきオークの姿も見える。
発見されないように立ち止まると、『チェイス』のパーティーリーダーであるドノヴァンがメンバーに手で指示を出している。
すぐに槍士が左に、剣士が右にと別れていき、魔術士と弓士も後方でやや左右に分かれると、前衛であるドノヴァン・槍士・剣士の3人が同時にオーク集落へと突き進んだ!
ヒュン! ドサッ!
最初に弓士が見張りを仕留める。
ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドォォォォォォン!! ドォォォォォォン!!
次に魔術士による魔法攻撃だ。
ファイヤーボールが次々と集落に着弾し、ボロ布で作られたテントを燃やしていく。
あの魔法…………中々の威力だ。
魔力値が645ある俺が放つ火玉(=ファイヤーボール)よりかは威力は劣るが、攻撃力としては十分だろう。
俺が知ってる中での一番の魔術士は、バルーカ城で軍の魔術士相手に指導した中にいた40代の中年魔術士数人だったが、このチェイスの魔術士は彼らと同等かもしくは若干上回る強さかもしれない。
「「「ブヒィィィィィィィ!!」」」
ファイヤーボールによって燃やされてるテントの中からオークが慌てて出てくる。中には転がりながら自らに付いた火を消してる個体もいる。
集落の奥の方からもオークが殺到して来た。
集落を囲む簡易的な木の柵を左右で乗り越えて中に侵入した槍士と剣士、柵の中央にある集落への出入り口から突入したリーダーのドノヴァン、3人がほぼ同時にオークとの近接戦を開始した!
…
……
…………
さすがは2等級と言うべきか。
撫で斬り……という表現がピッタリな感じの勢いでオーク達を斬り倒していった。
特に目を見張ったのは槍士の戦いで、初めて得物が槍の強い人の実戦を見たということもあるが、突いてるところが良く見えないのだ。
払ったり柄の部分で打ち倒す技も凄いのだけど、突きがまったく視認できない。腰だめに構えたと思ったらオークが倒れているといった有様だ。
後衛に位置していた魔術士と弓士はドノヴァンからの合図で既に攻撃を止めている。矢とMP節約するためだろう。 まだ前衛が戦闘中だが、魔術士は早くも回収作業をやり始めた。
戦闘が終盤の掃討段階に入ると、前衛の3人は倒すスピードを落として黒オーガの襲撃を警戒しながら戦っていたが、ついに奴は現れなかった。
「どうする? 続けて次の集落へ向かうか?」
俺達は後衛のさらに後ろで見張り台みたいな小さい塔を作って観戦していたが、今後の予定を聞くためにコーディスが塔から降りてドノヴァンに話し掛けた。
「ここで休憩を兼ねて昼食にしよう」
回収するのに不適当な焼け焦げたオークの死体が多数散乱してるが、構わず食べることにするらしい。
ただ、死体の匂いが漂ってくるのは気にするみたいで、全員で風上へと移動した。
チェイス側から俺とコーディスにも食事が提供される。
魔術士が収納からパンにスープと肉野菜炒めを出してきた。
「すまないな」
「ありがとうございます」
「いつもしてることなので遠慮はしないでくれ」
こういう集落討伐をする際に、同行する案内人なんかをいつももてなしてるのか。
それならもう少し愛想良くしてくれても、こちらに話し掛けてくれてもよさそうだけど……
ん?
ドノヴァンがジッと俺を見ている。
「あの…………?」
「いや、すまない。
4等級あたりが俺達の戦いを見るとかなり驚くのが普通なんだが、君はまったく動じてないなと思ってね」
「アルタナ王国で開催された武闘大会で強い人の戦いを観戦していましたので」
大会では見れなかった弓士の技量には驚いたけどな!
その弓士はこちらの会話を気にする素振りも見せずに黙々と食べている。
丁寧な食べ方をしているが、未だに男か女かの判断は付かない。
「ツトムはその大会で本選まで勝ち進んだウチの新鋭なんだ」
コーディスめ、余計なことを……
大体俺は壁外ギルドの所属なんだぞ。『ウチの』ってなんだ、『ウチの』って?!
「ほぉ……」
「本選の初戦で負けてしまいましたので大したことはないですよ」
なんか武闘大会の話になる度に同じことを言っているな。事実だから問題ないけど。
それほど武闘大会には興味はないのかドノヴァンはメンバーのほうへと向かっ……
「そうだ。
次の集落でこちらの魔術士の収納が満杯になる。
途中から君が引き継いでくれ」
「わかりました」
数えてはないが、あの魔術士はここでオークの死体を(黒焦げや損傷の激しい死体を除いて)200体以上は収納してるはず。
昇格試験の時に俺に収納魔法のアドバイスを求めてきた6等級魔術士のメランダさんは、荷馬車半分以下の容量に悩んでいた。
一般的な魔術士の容量を荷馬車換算で1台か2台分ぐらい、1台につき30体積めると仮定すると、2等級魔術士の容量は5倍~10倍という計算になる。
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