第311話
休憩後に2つ目の集落へと向かう。
殲滅した集落から南東の方角へ、途中遭遇する魔物を接敵する前に弓士が排除しながら1時間ほど歩くと2つ目の集落が見えて来た。
1つ目よりも5割増しぐらいな規模があり、簡易的な柵ではなく人の背丈ほどのちゃんとした塀で集落を囲んでいる。
先ほどと同じようにドノヴァンがメンバーに手で指示を出している。
今度は前衛が散開せずにまとまって、集落出入口からの中央突破を目指すようだ。
特に打ち合わせもなくハンドサインのみで戦術変更を行えるとは……
この『チェイス』というパーティーは討伐系の経験がかなり豊富なのだろう。
メンバーの動きを見ても一々リーダーからの指示を受けなくても自分がすべきことがよくわかってるって感じだ。
前衛の3人がゆっくりと集落の出入口へ向かうのと、弓士が見張りを仕留めること、そして魔術士による集落への魔法攻撃がほぼ同時に行われた。
…
……
…………
盾役リーダーのドノヴァンを先頭に、やや後方左右に剣士と槍士のトライアングルの形で集落のオークを屠っている。
3人が分散して戦っていた1つ目の集落の時より殲滅するスピードは劣るものの、ドノヴァンの堅い守りを軸として連携しながらの戦闘は安定感が増してるように見える。
弓士も抑えながら丁寧に射てる感じだが、前衛が効率的に戦えるように邪魔な個体を排除してる。
集落北部を燃やし尽くした魔術士による魔法攻撃は、集落を囲む塀にターゲットを変えている。
木材で構築されている塀は厚さもそれほどなく、ファイヤーボールが当たる度に簡単に破壊されていく。
……ん?
魔物の動きに変化が……
これまでは集落の北側から攻めている俺達(攻撃してるのはチェイスだけだが)に対して、魔物の動きは迎撃に向かう個体群と、魔法攻撃から逃れようと集落南部へ移動する個体群とに分かれていた。
しかし今は集落南部にいた魔物が南へ向けて集団で移動し始めている。
(撤退している?)
しばらくして迎撃しようと向かって来ている個体群も南に向かい始めた。
(この動き……どこかで…………)
「あっ!?」
「ツトムどうした?」
コーディスは無視して観戦用に作った小さな塔から身を乗り出し、
「要警戒っ!!」
チェイスに向けて大声で叫ぶのと、"それ"が凄いスピードで北上してくるのを地図(強化型)スキルが捉えたのはほぼ同時だった。
すぐに敵感知にも強烈な反応が…………
「来るぞぉぉっ!!」
「△×!!」
ドッゴオオォォォォォォォォォォォォン!!
剣士が何か言うのに被せるように衝撃音が鳴り響き、前衛3人がいる周辺が土煙で包まれ、剣士と槍士が土煙の中から弾かれるように吹き飛ばされた。
ドノヴァン以外の6人が
(やはり黒オーガ! しかし……)
すり鉢状に形成されたクレーターの中心で静かに佇む漆黒の巨躯。
「コイツ! 武器を持ってないぞ!」
1人盾を構えて衝撃を耐えたドノヴァンが叫ぶ。
「どういうことだ?!」
「角が……3本?」
そう……
現れたのは三本角の黒オーガだった。
角の種類につき1体だけの希少種……というこちら(=人族側)にとっての都合の良い展開ではないらしい。
(どのぐらいの数がいるのかわからないが、複数を相手にすることも想定しないといけないのか……)
「とにかく倒すぞ!!」
ドノヴァンの一声でメンバーの動揺が収まりチェイスが仕掛ける。
ヒュン! ヒュン! ヒュン!
弓士が立て続けに矢を放つ!
が、黒オーガの脇腹付近に命中するも硬い肌に矢尻が刺さらず、
ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!
魔術士が放つファイヤーボールも無造作に手で弾かれ、
剣士と槍士が弾かれた関係で立ち位置的に一番近くにいたドノヴァンが黒オーガに近付こうとした矢先、自らが作ったクレーターの中心から漆黒の巨体を跳躍させて地表に立つと、魔術士目掛けて一気に跳んだ!!
「避けてっ!」
俺の声は届かず、魔術士は両手で防御態勢を取った。
ドゴッ! ………………ズサッ!!
黒オーガのスラッシ〇・キックをまともに受けた魔術士は吹っ飛んで後方の木に激突した。起き上がってくる様子はない。
革鎧すら着てないローブ姿で防御なんて無茶な……
魔術士の側にいた剣士が黒オーガへ攻撃する。
斬撃を嵐のように浴びせるが、黒オーガが右腕を引く構えを見せた次の瞬間、右腕は剣士の身体を貫いた!!
「「ファーブルゥゥゥゥ!!」」
弓士はこの間もずっと矢を射かけているが全て黒オーガの硬い肌に阻まれている。
(せめて目を狙うなりしないと、それでもダメージを与えられる保証はないけど。
それにしても……)
「彼らに特殊個体の情報は伝えてあるのですよね?」
「も、もちろんだっ! しかしあんな個体のことは知らないぞっ!!」
三本角のことを冒険者ギルドは知らないようだが、鉄壁の守りを誇る硬い肌については伝えているはずだ。
そもそも2等級パーティー『チェイス』は、黒オーガの守りを抜けるからこそ討伐隊として派遣されたのではないのか?
クレーターから出たドノヴァンと、反対側に吹き飛ばされた槍士が、別方向からそれぞれ接近し黒オーガとの戦闘に突入する。
チェイスの切り札は槍士のあの視えない突きか? 穂先の一点に力を集中させることによってとんでもない威力を秘めている、とかか?
ドノヴァンが盾ごと黒オーガに体当たりをする。その右側(黒オーガに対して側面の位置)で槍士が腰だめに構え…………
(さぁ、どうなる???!)
視えない突きを左腕でガードした(らしい)黒オーガが槍士を蹴った。いわゆる喧嘩キックだ。
胴を蹴られた槍士は15メートルは吹っ飛ばされ地面に転がる。
「くそぉぉぉぉぉ!!」
ドノヴァンの盾がパンチ一撃で半壊となり……
俺はもうチェイスに勝機はないと判断して観戦塔の端に足を掛け……
「オ、オイ! オマエは今回戦闘には参加しないのだろう!
それに1人で戦ったところで……」
「彼らを見殺しにはできないでしょう」
観戦塔から飛び降りた!
チェイスには一宿一飯の恩義もあるしな!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます