第302話

「……あっ!?」


 んん?


「丁度いいところに!

 アリサ! こっちにいらっしゃい!!」


 アリサ? 確かロザリナの母親のことを調べてくれたパーティーのリーダーだったか。


「なにか御用ですか?」


 やって来たのは街娘が着る服より少し上質な服装に身を包んだ、およそ冒険者に似つかわしくない恰好をした俺と同世代の女の子だった。

 唯一、腰に下げた剣だけが冒険者らしさをアピールしている。


「こちらの方がこの前の依頼者だった4等級冒険者のツトム様よ」


「!? もう4等級になられたのですね! 私と同世代なのに凄いです!!」


「数日前に昇格したばかりなんですけどね。

 それで同世代でしたらお互いにもっと砕けた感じで話しませんか?」


「ツトム様がそう仰るのでしたら……」


 うっ!? 可愛いな。

 このアリサという子は金髪のロングヘアで、サイドの髪がクルクルと巻き髪になっている。

 その髪をいじりながら身体を動かす度に程よいお山が強調されて目のやり場に困る。

 俺が年上好きでなければ間違いなく惚れていただろう。


「この前の依頼の時、追加で報酬頂いて本当にありがとうございました!

 他の娘達パーティーメンバーも大変喜んでいました!!」


 結局話し方変わってないやん!


「丁寧に調査してくれて助かったよ。

 また王都で依頼する時はお願いするかもしれない」


「その時は是非に!!

 ……あっ!? そうだわ!」


 思い付いた! とばかりに両手を合わせる仕草をするのもまた可愛い。

 くっ……、あざとくアピールしてきてることはわかってはいるのだ。

 しかし可愛いモノは可愛いのだから仕方がない。

 俺の好みが美人系ではなく可愛い系だったら堕とされていたかも?!


「この後、他の娘達と合流してお昼にするんです。

 ツトム様もご一緒にいかがでしょうか?」


 食事に誘われる…………グラバラス帝国の帝都ラスティヒルで道を尋ねた際に出会った少女、シスフィナ以来のことだ。


「そうだなぁ……」


「ツトム様…………、おたわむれも程々になさいませんとルルカさんに言い付けますよ?」


 !?!?

 音もなく背後から忍び寄って来たロザリナが俺の耳元に囁く。


 言い付けるって…………、普通に話していただけなんだけど?


「……まだ依頼の途中だから遠慮しておくよ」


「残念です。次にお会いした時は是非!」


「え、ええ、その時は……」


 ロザリナの視線が…………


「それでは失礼しますね!」


 アリサはちょこんと頭を下げて去って行った。

 最後まで可愛さアピールを忘れなかった。




「どこか……」


 ギルドを出て、店で昼食にしようと言い掛けたところで止めた。

 確かロザリナが王都に行きたくなかったのは、義父のことに加えて知人友人と会いたくなかったからだったはず。

 用は済んだのだし、王都に長居をして知人友人と遭遇するリスクを負う必要はあるまい。


「ツトム様?」


「何でもない。行くぞ!」


 ロザリナの身体とロープで繋いで飛び立った。




 帰りはルートを変えて飛ぶことにする。

 以前ルルカと王都から帰った時と同じルートだ。

 その時に休憩した小さな山の中腹ぐらいに建てた小屋でロザリナの話を聞くことにする。


 小屋を作ったのは50日ほど前だが、その間人に使われたような形跡はない。飛ぶ以外の方法でここには来れないと思うが、ロッククライミングとかなら可能だろうか?

 中はかなり汚れていた。入り口にはドアがなく、窓も単に穴が空いてるだけの構造なので当然だ。無論浄化魔法で綺麗にする。



「母とは互いの近況を話したぐらいでして……」


 それほど長い時間ではなかったのでその程度で精一杯か。

 気になったことを聞いてみる。


「別れ際にお母さんに手紙を出すよう言われていたが、義父に見つかってしまわないか?」


「それは大丈夫のようです。

 2人はかなり前から別居しているらしく、義父は別に家を借りて若い奴隷と暮らしてるらしいです」


 うわぁ……

 若い奴隷ってきっと危ない年齢層の娘なんだろうな……


「母も元々生活のために再婚していますので、特に問題とは思ってないようでして」


 夫婦の形は人それぞれか。

 しかし……


「夫婦のことはそれでいいとしても、お母さんは今の生活に不満とかはないのか?」


「はっきりと聞いたわけではありませんが、不満そうには見えませんでしたよ。

 母は義父に資金を出してもらって貸店舗業を始め、騎士爵夫人だった時のコネを使って順調に扱う店舗数を増やしてるとのことでした」


 意外にも商才があったってことか。


 もし…………、母親が娘が奴隷であることを知ったら、解放して自分の商売を手伝わそうとするのではないだろうか?

 そしてもし、ロザリナがそれを望むのなら?


 う~~ん……

 本人に確認すべきか迷うところだが……

 …………いや、仮にも俺の子供を身籠りたいとまで言ってくれてる女性なのだ。

 ここで俺が日和ってしまうと彼女の決意に泥を塗ってしまうことになる。


「…………お母さんのことで他に気になる点はあったか?」


「特には。

 強いて申し上げるならば、私達姉妹の想像以上に母が元気だったことでしょうか」


 懸案だった音信不通な娘達との再会も果たし、自分が手掛ける商いも順調なんだ。

 これで元気がないほうがおかしいだろう。


 総論としてはロザリナ姉妹とその母親との再会は無事に終了し特に問題はなかった、ということでいいな。

 次は、


「話しは変わるが、ディアについてどう思う?」


「ディア…………ですか?」


「彼女がウチに来て2週間になる。色々あって聞くタイミングを逃したが、仲良くやっていけそうか?」


「ディアとは同い年ですし仲は良いと思います。

 ただ……」


 た、ただ、何?

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