第301話

 店内に入り奥へと進む。

 住居部分は家具一つなくガランとしていた。誰も住んでいないので当たり前だが。


 ロザリナの母親は元貴族の奥方らしく気品のある感じのおばさんで、20年前だったらさぞ美人だったろうことが想像できた。普通の人は30年前と思うだろうが……


 まずは浄化魔法で屋内を綺麗にし、簡単なテーブルと椅子を作って姉妹と母親を座らせる。

 収納からコップを出してそれに果汁水を注ぐ。

 ではあとは3人でごゆっくり~、と店を出ようと歩きかけたところ、


「ロナ、こちらの方は?」


 姉妹の母親は娘に意識を集中し過ぎてたところを、ここでようやく知らない男性である俺がいることに気付いたようだ。

 つか、ロザリナってお母さんから『ロナ』って呼ばれてるのだな。


「え、えっと……」


 ロザリナが返答に困っているので、ここは自分から名乗ることにする。


「初めまして。自分は冒険者のツトムと申します。

 お嬢様方とパーティーを組まさせて頂いております」


「まぁ!? 娘達がいつもお世話になっております」


「こちらこそお嬢様方にはいつもお世話になっております(特に姉のほうに!)」


「お若いのにしっかりしていらっしゃるのね。おいくつなのかしら?」


「15歳です」


「まぁまぁ!? ロナの半分以下の年齢じゃないの!!」


「お、お母さん?!」


 ヤバイな。

 ルルカの母親と会った時は特に思わなかったけど、ロザリナの母親には娘と肉体関係があることにかなりの後ろめたさを感じてしまう。

 母親が娘が奴隷落ちしたことを知っているか否かの違いだろうか?

 それにしては……


「ご家族だけでごゆっくりどうぞ」


 俺は逃げるようにその場を離れた。




……


…………



 店外でゼアータさんと雑談しながら待つことにする。

 長時間待つことも覚悟していたが、意外とすぐに3人は出てきた。

 そう長いこと店を空けてられないという事情もあるのだろう。


「娘達のことをよろしくお願いします」


 母親が俺とゼアータさんに頭を下げる。


「任せて!」


「自分は回復魔法を使うことができます。どこか具合の悪いところはありますか?」


 腰を悪くしていることは知っているが、ここは知らない体で話さないといけない。


「もう何年も腰を悪くしている以外は特には……」


「失礼しますね」


 母親の腰に回復魔法を掛ける。


「あら?! 痛みが……」


「腰に負担が掛かるような動作は控えてくださいね。

 無理をするとまた新たに痛めてしまいますので」


「わかりました。本当にありがとうございます」


「いえ、お嬢さんのことはお任せください」


 母親は笑みを浮かべて娘達を引き寄せて、


「ロナ、リア、手紙を出しなさいね」


「うん」「わかってる」


 再び母娘が抱き合っている。

 サリアさんのほうはお母さんから『リア』って呼ばれてるのね。

 しかし、手紙なんて出したら義父に見つからないだろうか?


 母親が娘達から離れて去って行く。

 その首元には俺がロザリナに渡した首飾りが掛けられていた。



「ツトム様、私達もこれにて」


 確かこの後ゼアータさんの王都見物にサリアさんが付き合うのだったか。


「ナラチムに来る時は私の家においでよ! ご馳走するからさ」


「はい。その時は是非に」


 ゼアータさんの実家はナラチムの街で料理店を営んでいる。


「姉さん、元気でね」


「サリアもね、落ち着いたら私にも手紙を出しなさい」


 姉妹が別れを惜しんで抱き合っている。先ほどの母親を加えた3人の時もそうだったが、家族で抱き合っているのを見ても微塵もエロさは感じないな。当たり前のことではあるが。


「ツトム様、母と再会する機会を作って頂き本当にありがとうございます。まして母に贈り物まで……もはや何と御礼を申し上げればよいかわかりません」


「自分がしたいようにしてるだけですので」


 ここでサリアさんとゼアータさんにも回復魔法を掛ける。


「あっ!?」「わっ!?」


「お2人ともお元気で!」


「姉のことをよろしくお願いします」


「絶対ウチに来てよね!!」


 2人が手を振りながら遠ざかっていく。


 この世界における別れはかなり重たい。

 電話やメール・ショートメッセージなどで気軽に連絡をすることができず、手紙を送るにしても日数がかかる上に結構な額を請求される。

 もし俺がこの場で1人だったら、某お星様鉄道の劇場版主題歌を歌っていたことだろう。

 傍らにいるロザリナも遠ざかるサリアさんをずっと見つめている。

 人通りに紛れてその姿が見えなくなっても尚、妹の消えた方向をずっと見つめていた……



「そろそろ行こうか」


「…………はい」


 母親とどんな話をしたのか聞きたかったが、王都の往来でするような話でもないので、まずは依頼を終わらせることにする。


 ミリスさんの指示に従い壁外区の西にある冒険者ギルドの出張所へと行く。

 受付にて4等級のギルドカードと預かった書状を提出すると別の職員が呼ばれた。


「!? こちらへどうぞ」


 キリッとした雰囲気のショートヘアな女性職員に案内されて解体場に移動する。

 あれ? 確かこの女性はここで調査を依頼した時の……


「??」


 解体場でバルーカから運んで来たオークを並べる。

 査定自体は(バルーカの)壁外ギルドで済ましているので、簡単な確認だけで終了した。

 先ほどからロザリナの表情が険しいのが気にはなるが……


 再度受付に戻り、今度は新たな窓口にてショートヘアの女性職員に引き続き対応される。


「こちらの書状をバルーカのギルドにお持ちください」


 またも上質な紙に包まれた書状を受け取る。


「…………」


 これで終わり??


「あの、オークの売却金は?」


「そちらの書状の中に特殊な装飾を施した書面が入っています。

 そこに記入された者が書面を商業ギルドに提出すると金銭を受け取る仕組みとなります。

 貨幣を運送する手間と紛失盗難を回避するために用いられる取引方法となっております」


 為替制度か!!

 そういや地球でも意外とその歴史は古いのだったか。


「冒険者・商業の両ギルド同士の取引はもちろんのこと、国や一部大手商会もこの方法を用いて取引を行っていますよ。

 ……あっ!?」


 んん?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る