第300話

 バルーカと王都のおおよその中間点にあるドルテスの街を過ぎたあたりで一端着地する。

 土魔法で簡単な小屋と中に椅子を作りロザリナを座らせた。


「ツトム様?」


「これを……サリアさんと2人からと言ってお母さんに渡すといい」


 2ヶ月近く前に王都でルルカと買った首飾りを渡す。


「ツ、ツトム様!?」


「ルルカの家族にも買ってもう渡してあるんだ。遠慮する必要はまったくないからな」


「ありがとう……ございます……」


「それと自分が奴隷であることをお母さんには言わなくていいぞ」


「よろしいのですか?」


「お母さんとはそんな頻繁に会うわけではないのだから、余計な心配をさせることもないさ」


「わかりました。お言葉に甘えさせて頂きます」


 ロザリナってサリアさんにはエロの内容まで随分と開けっ広げに話してるみたいだからな。

 母親にまでそんな感じで話されるのは困るので、奴隷であることを隠すのならそうペラペラと喋ることはあるまい。


 それにしても、ロザリナの母親へ首飾りを買っていたことをちゃんと思い出せて良かった。

 今日という機会を逃して後日思い出せても間の抜けた話になるからなぁ。


 それと首飾り関連で言えばディアにも買ってあげないとな。1人だけ持ってないのも可哀そうだし。

 王都に行くついでなんだし今日買ってしまうか……ロザリナにもディアのことを聞かなければいけないが、まず大丈夫だろうし。

 …………いや、ここはロザリナの時と同様にルルカに選んでもらったほうがいいだろう。ルルカは元商人だけあって品物を見る目は俺やロザリナより確かだ。


「それとこれは俺が立ち入るべき話ではないのかもしれないが、ロザリナ達が家を出る切っ掛けとなった義父のことはお母さんには言わないほうがいいのではないか?

 少なくともお母さんの暮らしぶりがわかるまではさ」


 冒険者に調べてもらった際には夫婦の仲は特に問題ないとのことだった。

 もちろん調査が正しいとは限らない。

 短時間の表面上の調査だったし、夫婦の関係は本人しか正確なことはわからないだろう。

 ただ義父の店の経営に問題はないようなので、経済的には満足な暮らしをしていると思われる。

 母親が現状に不満を抱いていないのなら、真実を告げて波風を立てる必要はないと思う。倫理的にはアウトなんだが……


「その点については妹と話し合っています。

 母の様子におかしな点がないようでしたら秘密にしておく、ということになっています」


「それならいいんだ」


 義父の年齢は聞いてないが、50代以上なのは確実なはずだ。

 普通なら性欲は減退してるはずだが、その手の性的嗜好というのは業が深いからなぁ……




……


…………



 第三城壁の西側城門でサリアさんと落ち合う。


「ゼアータは母に会いに行ってもらってます。

 もうしばらくしたら戻ってくるかと」


 ファーストコンタクトってことになるな。上手く段取りを付けて欲しいが……


「お店と家族が住む場所は一緒なのか?」


「いえ、店から少し歩いたところに家があります。

 店は居住可能な構造ではありませんので現在も変わらないはずです」


 冒険者は店とその周辺しか調べてないはず。

 それなのに姉妹の母親と接触できたのは、母親がたまたま店に来ていたか、もしくは店を手伝ってるのか……


「やぁ、待たせたね」


 ゼアータさんが戻って来た。


「結論から言うと、2人の母親と会ってきたよ。

 従業員と開店準備をしていて話し掛け易かったな。

 最初怪訝な表情をしていたけど、2人のことを聞いた途端に店を飛び出しそうになって慌てて引き止めたよ」


 10年以上も音信不通な娘達のことを聞かされたんだ。居ても立っても居られない心情だったのは容易に察せられる。


「それから再会するのに相応しい場所を教えてもらったよ。

 なんでも貸店舗の一つが先日閉店したのでそこなら大丈夫らしい。

 母親はもうそこで待っているのですぐ行こう」


「ゼアータ、従業員に聞かれてない? 大丈夫?」


「店の外に連れ出して話したから大丈夫さ」


 ゼアータさんの案内でその店舗へと向かう。

 テナント業まで営んでいるとは、案外儲かってるのかもしれない。冒険者の調査だけではわからなかった事実だ。




 第三城壁の西側城門から歩いて10分ほど、この世界のどこの街にもある住居一体型の小店舗に案内された。

 コートダールのワナークにあるルルカの実家の店舗より少し小さい感じだ。

 ルルカの実家には5人が住んでいるが、この店兼住居では家族で住むのが精一杯だろう。


 店の戸は半分開いてる状態だったが、店内の棚には一つも商品が並んでおらず埃っぽさも漂っていて、いかにも閉店された空き店舗って感じだ。


 中に入ろうとした時に店の奥から人が……


「ロザリナ!! サリア!!」


「「お母さん!!」」


 中年の女性と姉妹が駆け寄って抱き合った。

 3人の目には涙が浮かんでいる。


「サリアから詳しい話を聞いた時は、たかが10年と少し会わなかったぐらいで大げさな、と思ったけど……」


 ん? はたで姉妹と母の抱擁を見ているゼアータさんの目にも涙が……


「この光景を見ると骨を折った甲斐があったって思うよ!」


「そうですね……」


 感動の母娘再会の場面だが、店先で3人の女性が涙ながらに抱き合っているので非常に目立っている。

 しかし俺が声を掛けるというのも……


 結局ゼアータさんに店内に入るよう促してもらった。

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