第297話

 城からの帰りにいつもの場所(=壁外区の北口を出たところにある草原)で4日ぶりに魔法の練習をする。

 現在の目標は必殺技クラスの新魔法の開発だが、状況は良くなく開発は難航している。

 色々な作品からパクって…………リスペクトしても、武闘大会で使用したカイザー〇ェニックスを模した火の鳥のようにどうしても威力が伴わなかった。

 超威力であること、という要求が非常に厳しく開発が難航している原因となっている。


 ただ幸いなことに、練習しているうちに風槍・零式に改良を施す余地があることが段々とわかってきた。

 見通しの立たない新魔法の開発をするよりも、使い慣れた魔法を強化することで黒オーガに対抗できるかもしれない。




「ただいま~」


「「「お帰りなさいませ」」っ!?」


 魔法の練習を終えて家に帰ると、3人に出迎えられた。

 美女3人に出迎えられるのは気分が良いけどね?

 でも大げさ過ぎる!!


「前にも言ったが、わざわざ出迎えなくてもいいからな」


「そういうわけにも参りません」


 以前なら『偶々です』とか言って偶然を装っていたのに、もう堂々と2人を従えて出迎えるようになってきた!!


 ルルカ→ロザリナ→ディアの順で抱擁してキスをし俺の匂いを嗅がれる。

 って……


「なぜディアまで俺の匂いを嗅ぐ?」


「ツトムは私達がいながら外でも別の女性を探してると聞いたぞ!」


 聞いたって…………ルルカからか?!

 ルルカを見るとスッと目を逸らされた。


「いいか、」


 2人にも聞こえるように声を大きめにして言う。


「俺は外で一切やましいことはしていない。

 俺の傍にいるのはお前達3人だけだ」


 今のところは、だけどな!


「ツトム…………」


 ディアが至近からジッと俺の目を見る。


「あの後で下着は買ってきたか?」


「ああ。ルルカさんの指示で店に作らせてるのもある。

 出来上がるのに時間が掛かるらしいが」


 ディアは長身だから店売りのではサイズが合わないことが多いだろう。


「風呂上りには今日買った下着を付けるように」


「わ、わかった……」


 してる最中に照れてる感じはあったが、日常の何気ないことで照れてるのもいいな。


「ルルカ、自分のとロザリナのは買ったか?」


「わ、私のも?!」


「ツトムさんの好みそうなモノを何点か買いました」


「では2人も風呂上りにそれらを付けるように」


「かしこまりました」


「りょ、了解です」


 ルルカはまったく動じてないな。さすがだ。

 自分の下着を買われるとは思わなかったロザリナが少し動揺しているか?


「ツトムさん、すぐお食事になさいますか?」


「先に2階の部屋に今日買った物を置いて来るよ」


「わかりました。食卓の準備をしておきますね」


「頼むな」



 ディアを連れて2階に上がる。ロザリナはルルカの手伝いだ。

 2人の部屋には片側にロザリナのベッドと家具が詰めて置かれていて、もう一方にはディアが今使っているベッドがある。

 このベッド(と布団一式)は俺がとりあえずで買った安物だ。

 今後何かの機会に役立つことがあるかもしれないので収納に入れておく。


 購入した家具をロザリナの物と同じになるように配置する。


「この部屋に2人分の家具を置くのは無理があったな」


 部屋の中央に1人が通れるスペースを何とか確保してる感じになった。


「どうせ夜はツトムの部屋で皆で寝るのだから問題ないぞ」


 実際には体調不良などで2階で1人で寝る場合もある。

 人も増えた事だし大きな家への引っ越しも考えるべきだろうか?

 個室もだが、風呂も4人一緒に入ると手狭なんだよなぁ。


 この家を借りる際に半年分の家賃をまとめて支払っているが、まだ2ヶ月半しか住んでいない。

 当然ながら早くこの家を出ても余分に支払った分は返金されるということはない。

 損をすると言っても30万ルク程度だし(=家賃月10万ルク×3ヶ月)、新しい家を探すことを提案してみるか? ルルカが渋い顔をしそうだが…………


 この家で俺が気に入っているのは自室(=1階の奥にある寝室)だ。

 トイレと風呂に近く、狭い部屋の中でルルカ達とイチャイチャするのは至福の時間なのだ。

 大きな家だとこういった小さな部屋はないかもしれない。




……


…………


 夕食時に引っ越しについて皆に話してみた。


「自分は今の部屋で構いません。

 ずっと宿屋暮らしでしたので自分の部屋があるだけでも嬉しいですし……

 まして今はツトム様の奴隷ですから」


「自分の部屋ということなら1人部屋のほうがより良い環境になると思うけどな。

 ディアは?」


「私は奴隷商に長くいたからなぁ。

 あそこは個室と言っても日に何人も客が見に来るし、冷たい石の床に薄い粗末な布団を敷いて寝る生活だった。

 それに比べれば質の良いベッドと布団がある今の部屋は相部屋でも満足だ。

 もっとも1度もあの部屋で寝たことはないのだが……」


 比べる対象が酷過ぎてちっとも参考にならんな。


「ルルカはどう思う?」


「相部屋している2人に不満がないのでしたら今のままでよろしいのでは?

 すぐに引っ越すとなると支払い済みの家賃も無駄になりますし」


「うむ…………」


 常識的な見解だな。


「ツトム様、この家より大きい家となると壁外区で探すのは難しいかと思います。

 城内で探すとなると家賃もかなりお高くなるのではないかと」


 ロザリナの言う通り壁外区で探すのは難しいだろう。

 上空から見る限りにおいては、一般住宅でこの家より明らかに大きい物件は壁外区では見たことがない。

 もっとも大きい家と言っても求めているのは広さではなく部屋の数なので、無理と決め付けるのは早いだろう。

 実際この家も2~3部屋の標準タイプの中から選んだのだし、4~5部屋ある物件からも選ぶことは可能だった。


「城内だと家賃がどのぐらいになるのかわかるか?」


「申し訳ありません。さすがにそこまでは……」


 宿屋暮らしだったロザリナが知らないのは当然か。


「城内のことを見聞きした限りでは、ギルドや商会が集まるバルーカの玄関口である北門周辺と、そこから中央部付近まである大通りの商店街、そして北西区画にある内城の周辺は家賃も高額になるかと。

 おそらく南の区画でしたら手頃な物件もあるかと推測します」


 さすがは元商人! 鋭い分析だ。

 しかしバルーカ城の南の区画に引っ越すとなると、壁外ギルドからかなり遠くなるな。城内ギルドでさえ今よりも遠くなってしまう。

 いくら飛行許可証を持っているとはいえ、城内を私用で頻繁に飛び回ることはできない。

 移動面では玄関出てすぐに飛び立てる今の家のほうが便利だな。

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