第296話
「それで特殊個体に対する軍の対応なのですが……
遭遇したらバルーカまで誘引する手はずとなっております。
半年前に冒険者ギルドから情報提供された際に定めた方針です。
もちろん南砦のほうが近ければそちらに誘導して迎撃します」
城壁や砦の防壁を利用して集中して攻撃する感じか。
しかし……
「それで奴を倒せます?」
「そこは何とも……
軍はまだ特殊個体とは交戦経験がありませんので」
「そうでしたね」
数を揃えた程度で倒せるのならこんなに苦労はしない。
はっきりと言うべきだろうか?
「特殊個体と戦ったツトムさんから見て、この作戦はどう思われますか?」
「奴を倒すのは無理ですね。
砦でレイシス姫と一緒に見せたあの魔法(=風槍・零式のこと)、あれで近接戦を仕掛けて手傷を負わすのが精一杯なんです。
普通の魔術士では傷付けることもできないでしょう」
「……そう……ですか……」
はっきり言ってみたが、ちょっと酷だっただろうか?
ナナイさんは気落ちした感じでうつむき加減に……この作戦立案に関わっていたのかな?
軍には通常の攻撃が効かない前提で作戦を立ててもらわないと困るしなぁ。
あっ!? 首元から意外にも豊満なお山が覗けて…………ナナイさんは着やせするタイプっと。
仕方ない。ちょっとぐらいはフォローしておくか。
「ただですね、特殊個体に関してメルクに聞き込みに行ったのですが……」
「っ!?」
以前メルクで聞き込んだ情報と自分の推測(=黒オーガが魔法攻撃を脅威に感じていること)をナナイさんに話した。
「…………なので倒せはしないでしょうが、魔法攻撃を集中させれば退けることは可能かもしれません」
「それは貴重な情報ですね。
すぐにでも作戦の練り直しを提案してみますわ」
やべぇ!? 大事になりそうな感じに……
「あ、あくまでも推測ですからね?」
「わかっています。しかし他に有益な情報もありませんので」
ナナイさんに新魔法を開発中であることを打ち明けてみるか?
ここ何日かは昇格試験のため森に行ってた関係で練習できてないが、魔法の練習は結構真面目に取り組んでいるのだ。
もっとも成果はまだまだで試行錯誤の真っ只中にある。
そうだな、(必殺技として)完成もしてないものを言うのは止めよう。人知れず密かに開発するのがカッコイイということもあるが、それ以上に期待されたり当てにされたりすると焦って開発自体が上手くいかなくなりそうだ。
そうだ! 俺以外にも必殺技クラスの攻撃ができる人がいるじゃないか!!
「ゲルテス男爵が持つ魔剣による攻撃ならどうでしょう?
あの凄まじい一撃なら特殊個体の硬い肌も斬り裂くことができるのではないでしょうか?」
「それは凄く難しい問題ですね。
男爵のご気性なら特殊個体が相手でも自ら前線にて剣を振るわれるでしょう。
しかし王国内ではそのことに根強い反対意見があるのです。
男爵は王国軍の切り札的存在ですから」
「切り札的存在……そう言われるからには、王国が所有する魔剣はゲルテス男爵が持つ1本だけなんですか?」
「そうです。
他には帝国の貴族が所有しているという噂があるだけです」
魔剣は2本目があるかどうかって感じなのか。しかもこの大陸全体の中で。
俺が欲しいと思うのは、魔法攻撃の威力が上がる杖か指輪のような魔道具だ。
しかし魔剣がそんなにも貴重ではそれらの魔道具も個人レベルで手に入れられる代物ではないのかもしれない。
「もし奴をバルーカまでおびき寄せられた時は自分にも声を掛けてください。
家にいれば参戦しますので」
「それは心強いですわ! その時はよろしくお願いします!!」
「もちろんです。
ただ、これだけ念入りに待ち構えても奴は城や砦のような拠点を攻めて来ないような気がします」
アルタナ王国で遭遇した3本角は明らかに戦いを楽しむタイプだった。
2本角にはそのような感じはなかったが、それでも背を向けて逃げ出す相手をむやみに攻撃するとは思えない。
まして拠点まで執拗に追いかけるなんてやらないと思う。
「しかしツトムさんがアルタナで倒された3本角の特殊個体はルミナス要塞を攻めていたのですよね?」
「あれは要塞の外で暴れて…………コホン、魔物を駆逐していた自分を標的にした攻撃でした。
3本角が要塞を攻めに来たのではないです」
「暴れてって…………ツトムさんはアルタナ王国で一体何をされてきたのでしょう?」
「い、いや、ちゃんと理由があるんですよ!」
あの時はどうしてだったかなぁ……
確か要塞の外に魔物がうじゃうじゃいてヒャッホォ~って感じで魔法を撃ちまくったんだよな。
って思いっきり暴れただけだった!!
「ほ、ほら、魔物の数を減らしておかないと要塞守備隊の負担が……」
「(ジトーーーーーー)」
ルルカばりのジト目を送ってくるナナイさん。
しばらくして溜息を吐き、
「わかりましたわ。
作戦計画の修正を提案する際にその特殊個体の性質も付け加えておきます」
「よ、よろしくお願いします」
素敵なおみ足を鑑賞しながら、ナナイさんに対して優勢だった初対面の頃を懐かしんだ。
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