第295話

 買い物は順調に進み、3店目の古着屋の途中で俺だけ別れて内城に向かうことになった。古着屋での買い物に最後まで付き合うとお昼になってしまうからだ。

 別に3人で食事をしてから城に行ってもよかったのだけど、なんとなく午前中の内に城に行くイメージをしていたのでその通りにした。


 城の受付で謁見手続きをするが、姫様は予定が埋まってしまって叶わなかった。朝一で来ないと手続きするのも難しいと言われてしまった。お忙しいのだろう。

 仕方ないので伝言を頼むことにした。一冒険者の等級の昇格など王族の方にわざわざ謁見してまで報告する内容ではなかったのだ。


 というわけでロイター子爵に面会を申し込むのは遠慮して、ナナイさんとの面会手続きをする。決して『最近ナナイさんのあの素敵なおみ足を拝見してないなぁ』という理由からでは断じてない。



 今回は補佐官が日頃詰めている待機所兼事務室みたいな部屋に案内された。

 部屋の中にナナイさんを見つけ軽く合図する。

 他には男性が数人何か作業をしている。

 あっ!? 長椅子で寝てる人も…………仮眠だろうか?


 事務室に隣接している応接室に移動した。

 先導するナナイさんはいつものスカート姿でバッチリと魅惑のおみ足を晒している。


「お久しぶりですね、ツトムさん」


「ナナイさんも久しぶりです」


 ナナイさんとは20日ほど前に南砦からここ(=バルーカ城)に送って以来だ。


「あれからロイター子爵とは2度ほどお会いしてるのですが、ナナイさんはいらっしゃらなかったみたいで……」


「私はまた南砦で勤務していました。

 本来の担当者が王都に赴く用がありまして、その間の代理としてですけど」


 南砦での実務経験があるナナイさんが代役に指名されたわけか。


「それで本日の御用は?」


「昨日4等級に昇格しまして」


「それはおめでとうございます!」


「ありがとうございます」


「ツトムさんの御年齢で4等級に昇格した冒険者は過去にいないのではないでしょうか?」


「どうなんでしょう?

 ギルド側からは特に何も言われなかったので……」


「そうですか。

 予め強者を集めてパーティーを組めば最速で昇格できるかもしれませんね」


 そんなことができるのは大貴族か大商人ぐらいだと思うけど……

 貴族はないな。そんなことまでして等級の昇格を目指す理由がない。それ以前に関係者を冒険者にする理由もない。まだ軍隊にでも入れたほうが有益な人脈を築けるだろう。

 商人ならアリか?


「それと冊子を拝見しましたよ。

 凄いじゃないですか! 武闘大会で本選まで勝ち残るなんて!!」


「1回戦で負けてしまいましたけどね」


「それでも各方面から注目されるぐらいの結果だと思いますよ!」


「……そうです……ね……」


 チヤホヤされる程度であれば全然構わない、というかむしろ歓迎だけど、狙われたりする可能性があるのがなぁ……

 人相手だとスキルでも感知できないのが非常に厄介だ。不意打ちをされて何も出来ずに殺されるかもしれないし、ルルカ達が狙われるかもしれない。

 自分1人での防衛策では限界がある。

 かと言って人を増やすというのも…………どうもルルカとロザリナから、『4人目は許しませんよ』という言外のプレッシャーを受けてる気が凄くする!!

 実際今の家では4人で住むのが限界だろうし、家そのものが守り易いとは言えない構造をしている。借家なので当たり前だけど。

 …………この問題は先送りになるのかなぁ。本当はすぐに何とかしたいけど、どうしようもない。


「……ツトムさん?」


 ナナイさんのおみ足を見ながら考え事をしていたのがいけなかったのだろう。

 足を組み替えた際に現出した太ももと下着が織りなす奇跡の瞬間に思わず反応してしまった。


 ヤ、ヤバイ!? ナナイさんに変態と思われてしまう!

 ここは別の話題を…………いや、むしろ本題に入ってしまおう。


「軍のほうでは特殊個体(=黒オーガ)への対応は何か決まっていますか?」


「ツトムさんは武闘大会に出られる前に2本角の特殊個体と戦われたとのことですが……」


「ええ。何とか死なずに済んだ、という状況でしたが……」


 2本角と戦ったことは城には報告してないが、


「冒険者ギルド側からの情報提供ですか?」


「そうです。冒険者ギルドとは定期的に連絡会議をしています。

 最近では間隔を詰めて毎週行っていますね。

 情勢が落ち着けば以前のように月一程度に戻れるのでしょうけど……」


 定期的な連絡会議とは軍と城内ギルドが行っている会議のことだ。

 そう言えば壁外ギルドには情報が下りてこないとミリスさんが愚痴を漏らしていたっけ。

 なんか某踊るドラマの本庁と所轄みたいな関係だな。


「報告はバルーカ最強の冒険者と5等級の魔術士が撃退したという内容でしたよ」


 『バルーカ最強の冒険者』とか。今度グリードさんに会った時はからかってやろう。

 しかしなぜ俺のことは普通なんだ? 『バルーカ最強の魔術士』とか呼称してくれてもよさそうなもんだけど……

 ひょっとしてグリードさんをバルーカトップの冒険者として認知させようってことなのかもしれないな。

 レドリッチ(=バルーカギルドマスター)ならやりそうだ。


「さっきも言いましたけど、本当にギリギリだったんですよ。

 そのバルーカ最強の冒険者とやらは腕を斬り落とされましたし、自分も足を片方やられました」


「それほどの激闘だったのですね。

 平然と手足を斬り落とされたことを話すツトムさんもどうかと思いますが……」


 あーいったことに慣れてはいけないのだろうな。

 ジェネラル(高技量型)と2本角は、ある意味スパッと綺麗に斬ってくれたので簡単に欠損部位を繋げることができた。

 オークキングが持つようなデカイ斧でやられたら傷口をダメにされて繋げることは困難だったろう。

 今にして思えば3本角に腕を破壊された時が一番ヤバかったかもしれない。突き出た骨を戻した気持ち悪い感触は未だに思い出せるし……


「それで特殊個体に対する軍の対応なのですが……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る