第288話

「やっぱり女性2人だけで冒険者としてやっていくのは無理だったね……」


 ゼアータさんは今までの明るさとは打って変わって真面目な表情になった。


「パーティーメンバーの募集に誰も来なかったのですか?」


「来ることは来るのよ。

 女性目当ての男性冒険者がね……」


 長身ではあるもののショートカットな髪型で可愛い系のゼアータさん。フルプレートアーマーを脱いでる今は女性らしい身体付きを拝見できる。

 そしてロザリナの妹なだけに美人系のサリアさん。ミディアムヘアが特徴で姉よりもお山が慎ましいもののお尻の大きさは負けず劣らずだ。

 この2人と組めるなら、パーティーに入ってない男性冒険者は募集に飛びつくだろう。


「まだ強い人だったら検討の余地もあるのだけど、実力不足か要注意人物しか応募して来なくてねぇ」


 要注意人物って何をやらかしたんだろう?


「これでも2人になってすぐの頃にパーティーを組める寸前までいったことがあったのよ」


「有望な応募者が来たってことですか?」


「いえ、その時は4等級の女性4人のパーティーから入らないかと声を掛けられたのよ。

 同じ女性だけのパーティーということで、そことは以前から交流があったのでパーティー入りも何も問題がなかったんだけど……」


 4等級に女性だけのパーティーがいるのか。


「パーティー入り直前で3等級の瞬烈がやられちゃってね」


「えっ?!」


 瞬烈とは、俺が初めてオーク集落討伐に参加した時に同じ討伐隊だった当時バルーカでトップのパーティーだった。

 その集落の戦いで瞬烈は東側から攻めていたのだが、オークジェネラル率いる一隊に背後から襲われ全滅した。

 あのジェネラルは手強かった。

 この世界に来て初めての強者との対決だったが、その後に戦った他のジェネラルとは一線を画していた。

 おそらくあのジェネラルみたいなのが高技量型にクラスチェンジ?するのではないだろうか?


「瞬烈壊滅で衝撃を受けた彼女達はパーティーを解散して冒険者を引退、私とサリアのパーティー入りもなくなったって訳さ」


「瞬烈とその女性パーティーは何か深い関係でも?」


 冒険者を辞めるほどショックだったんだから相当な間柄だろう。


「男女の関係ってやつだよ。恋人なのか婚約関係にあったのかまではわからないけど」


「…………あれ? それだと男女の人数が合わなくないですか?」


 瞬烈が男3人に女1人の構成なので女性が余ることになる。

 いや、別にきっちり人数分男女の関係にならなければいけないってことはないけど……


「はぁ…………、君がそれを言うかな?」


 凄く呆れた感じで言われた!?


「瞬烈のリーダーガルクはパーティー内に色恋を持ち込むのを嫌っていて、恋人たちをひとまとめに別パーティーにしたのは結構有名な話だよ。

 誰かさんみたいに複数のお相手がいると色々と面倒事があるのだろうね。誰かさんみたいに!!」


 なんか責められてるような……


「自分のところは面倒事なんてないですよ?」


 みんな仲良くイチャイチャするのがモットーだし!?


 それにしても、今の話だと瞬烈にいたあのエロい女魔術士はガルクの恋人ではないということになる。もちろんパーティー外に恋人がいたのかもしれないが。

 あの女魔術士は胸やお尻が大きいわけでも太ももが露出していたわけでもなかったけど、とにかく凄まじくエロかった! 雰囲気というかたたずまいというか、仕草の一つ一つが強烈に印象に残っている。



「……今にして思えば、パーティー入りしていたら指導員の話はなかったから良かった……と言うと不謹慎だけど、五体満足で冒険者を引退できるのは幸運に思わないとね……」


 とても幸運だったと思えるような表情ではない。

 冒険者に未練があるのだろう。

 その未練が何かは、もはやゼアータさん自身にしかわからないだろう。少なくとも俺が立ち入るべき問題ではない。


 しかし客観的な見方をするなら、ゼアータさんとサリアさんは冒険者の辞め時に恵まれていると言える。

 4等級になれるのだし(もう昇格は間違いないと見ていいだろう)指導員の話も決まっている。

 気軽に妹に会えなくなるロザリナは複雑な心境だろうけど……


「お待たせしました」


 2人だけでの話し合いを終えた姉妹が戻って来た。




……


…………



 当たり前のことながらサリアさんも母親のことは気になってはいたが、自分の事情に姉を巻き込んだという後ろめたさから中々言い出せなかったらしい。

 悪いのは義父なのだからサリアさんが責任を感じる必要はないと思うのだが、当事者としてはそう割り切って考えることはできなかったのだろう。


 ※姉妹が家出したのは母親の再婚相手にサリアさんが悪戯されそうになったため。母親は姉妹が家出した理由を知らないでいる。


 サリアさんから姉妹で母親について話し合う切っ掛けを作ったことを大層感謝されてしまった。

 俺への奉仕に邁進まいしんしてもらうために万全の環境を整えることは主として当然のことなのだが、そんなことを正直に言えないので気にしないようにとだけ伝えた。



 それから今後の予定を4人で話し合った結果、この特殊依頼を終えた2日後にゼアータさんとサリアさんはバルーカを発つこととなった。

 その前日にバルーカでの知り合いへの挨拶回りを済ますとのこと。

 俺が2人にロザリナを加えた3人を王都まで送り、その時に姉妹が母親との再会を果たす。


 一応2人にはゼアータさんの地元であるナラチムという街まで送ることも提案したのだが、丁重に断られてしまった。

 この機会にゼアータさんは王都見物したいのだそうだ。サリアさんも案内がてら懐かしいので王都を色々と見て回りたいとのこと。

 これ以上俺の世話になるわけにはいかないという雰囲気も若干感じたものの、ここは素直に引き下がった。

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