第287話
「何の話かな?」
「彼女らの家族について、です」
「…………そう言えばあの姉妹は訳アリだったね」
ゼアータさんは姉妹の事情を知っているのだろうか?
知らない場合を想定してここは話題を変えよう。
「それにしても、少し帰省するだけで指導員の話が来るなんて凄いですね。
ゼアータさんはそのナラチムの街では有名人だったり?」
「アハハハハ! そんなことはないよ!!
ウチの母親が冒険者ギルドの元受付嬢でね、その手の情報のやり取りが素早いのよ」
なるほどなぁ。
そういった繫がりがあるから短期間の帰省でここまで話を進めることができたのか。
母親が元受付嬢なら父親は……
「お父さんは冒険者だったのですか?」
「父親は料理人だよ。
ナラチムではそこそこの料理店を経営してるんだ。
ひょっとしてツトム君はギルドの受付嬢は冒険者と結婚するとか思ってる?」
「え? 普通そうなる場合が多いのでは?」
美人受付嬢のところにはあからさまに行列ができるし、冒険者の誰それと受付嬢がくっついた的な噂は割と耳に入ってくるけどな……
「ふふふ。先輩冒険者としてツトム君に真実を教えてあげよう!」
なんかノリノリになってきた!
「受付嬢が狙ってるのは冒険者ではない!!」
「ナ、ナンダッテー?!」
「受付嬢の狙いは依頼をする側の商業関係の連中さ。やっぱり安定的な収入は最大の魅力よね~」
「でも冒険者だって上の等級の人達は金には困ってないとよく聞きますよ?」
「『お金には困ってない』3等級や4等級の人がよく言うけど、派手な暮らしができるぐらい稼げてるのか、地道に貯め込んでいるのか、どちらの意味かしらね~」
「冒険者だと前者でしょうか?」
「正解!
そもそも、地道に貯めるような人が『お金には困ってない』とか言い触らさないからね」
でも冒険者は命懸けの仕事なんだ。
あの世までお金は持って行けないのだから派手に使うのも俺はアリだと思う。
「普通は引退後の人生のほうが長いのをわかってないのかな?
現役時代の豪遊癖が忘れられずに身を持ち崩す人って結構いるのよ。
…………ツトム君は大丈夫?」
(ギクッ!?)
「じ、自分の引退はまだかなり先なので……」
大体まだ冒険者になってたった3ヵ月だぞ。
こんな若い時から引退後のことなんて考える必要なんて……
「あっという間に3人もの奴隷を買ったって……」
(ギクギクッ!?)
「そ、そこはほら、やむにやまれぬ事情というものが……」
そんな事情は一切ナッシングだけど!!
100%俺の好みです! 性癖です!
「その奴隷達に湯水の如くお金を注いでいるって……」
「そんなことはない…………こともありませんが…………」
これまでで1番の高額はディアだ。ルクに換算すると600万を超える額になる。
2番目に高額だったのは姫様に献上した王都で購入した首飾りだ。値段は500万ルク。
自分自身には悲しいほど金を使ってないな。
装備にもっと金を掛けるべきだろうか?
ただこの世界の武具はゲームなんかと違って、値段が高い=強い装備ってわけではないからなぁ。
高額な装備は華麗な装飾が施されて美術品だったり儀礼的な方向に向かってしまう。
あっ!?
ゲルテス男爵が持っていた魔剣ファルヴァールがあったか。
もちろん魔剣が欲しいわけではなく、魔法に関する魔道具でもあれば入手を目指してもいいかもしれない。
魔法の威力が上がる杖なんかがあれば最高なんだけとな。
「初日に言ったように魔術士は潰しが効くし、ツトム君のような魔術士は見たことも聞いたこともないから大丈夫だと思うけど……」
見たことも聞いたこともない……
当然だ。この世界にとっては俺が初めての異世界人なのだから。
「私としてはロザリナに幸せになって欲しいんだよね。
奴隷落ちした人に願うべきことではないのかもしれないけど。
でも、ツトム君ならなんとかしてくれそう……」
「ゼアータさんの望む通りになるかはわかりませんが、最大限そうできるように努力しますよ」
「ホントに?
どこかの受付嬢を狙ってるとかない?」
「……ないですよ」
俺の担当らしいミリスさん(バルーカ壁外区ギルド)は秘書風の外見をしてるものの残念美人さんだし。
隣街のメルクギルドのニナさんは年下は眼中にないらしく脈なしだ。もっとも仮に脈があったとしても逆にどうするんだという話でもあるけど……
「大体さっき受付嬢の狙いは冒険者ではないってゼアータさんが……」
「全員がそうって訳ではないし、そこは個人の好みもあるからね~」
俺が年上好きのように筋肉フェチとか?
「それに冒険者でもトップクラスは別だよ。
ツトム君もその若さで4等級に昇格なんだから目を付けられてもおかしくないかも」
おお!? 遂にモテ期到来か!!
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