第286話
昇格試験2日目。
早朝から東へ移動しつつ狩りを行う。
魔物との遭遇率も高くなり、遂には戦闘中に別の魔物に襲撃されるという事態も起こった。
6等級パーティー達が同時に相手できるのがオーク4体までという初日の方針は変えず、5体以上で襲ってきたら俺の魔法で4体まで減らした。
途中ロザリナからの提案で、6体までの2体は俺ではなくロザリナ達3人が倒すことになった。
昨日と比べて6等級へのアドバイスも極端に少なくなり手持無沙汰になったのだろう。
明け方前に収納魔法に関して相談に来たポニテ娘なメランダさんは、移動中に見つけた倒木を休憩時に出し入れしてるようだ。
この依頼中はとりあえず倒木で代用して、街に戻ったらもっと大きな物を探すのだろう。
この方法で収納の容量が増えると良いけどな…………この事に関しても検証項目に加えておくか。教えた側の責任というものがあるしな!
午後すぐにはウェルツパーティーがノルマである30体の討伐をクリアし、その日の終わり頃にはムドゥークパーティーもノルマを無事クリア、リュードパーティーもノルマ達成まで残り2体と上出来な2日目となった。
ここまで順調なのは上位種とほとんど遭遇しなかったからだろう。
今日の午後に1回だけオークリーダー率いる小隊が襲ってきた。が、ウェルツパーティーがオークリーダーを普通に倒していた。
高技量型ではなかったとはいえ、元々3つパーティーの中では頭一つ抜きん出ていたウェルツパーティーは、もうオークの3~4体を同時に相手できるかもしれない。
そして少し気になったのが戦闘で負傷する人が出始めたことだ。
もちろん戦闘後に回復魔法で治すのだが、2日目で慣れてきたことで油断したのか、それとも疲れの影響なのか……
初日+2日目のスコア
ウェルツパーティー …42体
ムドゥークパーティー…30体
リュードパーティー …28体
明日の最終日は、リュードパーティーが2体倒してノルマを達成したら北上して街道に出てバルーカに帰還することを宣言した。
こちらとしては課題がクリアできればいいのだし、6等級側としても初めての森での実戦(しかも長期の)で疲れていることを配慮してだ。
夜間見張りは5交代制なのもその順番も昨日と同じだ。
深夜ロザリナに起こされて1人で見張りを…………といったところで何故かロザリナ達がテントに戻らない。
「仮に眠れなくてもテントで横になって休んでいたほうが……」
「ツトム様、妹達がツトム様に話があるそうです」
ロザリナに促されてサリアさんとゼアータさんが俺の対面に座る。
それにしても昨日の2人といい、冒険者は見張り中に話し掛ける風習みたいなものがあるのだろうか?
俺からしたら退屈な見張りの時間を潰せるので歓迎ではあるけど……
「今回は私達を4等級への昇格試験に誘ってくださり本当にありがとうございます」
「ありがとね~」
「いえ、自分達も試験を受けるためのパーティーメンバーが必要でしたので礼には及びませんよ」
「それでも私達だけでは4等級への昇格は叶いませんでした」
「こうして依頼を達成するだけで昇格できるのはかなり珍しいよ、ツトム君のおかげだね!」
俺的には模擬戦で一発合格のほうが良かったけどな。
こうして3日間も拘束されたのだし。
でも模擬戦が苦手なパーティーは羨ましがるか。
「なのに大変申し上げにくいのですが……」
「そうなんだよね……」
なんだろう?
何か悪い申し出だろうか?
「実は…………私達はこの試験が終わったらゼアータの地元に拠点を移して、そこのギルドで指導員になるつもりなんです!」
「私がバルーカに戻ってくるのが遅くなったのも、現地でこの話を詰めていたからなんだよね」
「ゼアータさんの地元というのは?」
悪い話ではなさそうに思うけど……
「王都から北へ3日の距離にあるナラチムという街だよ」
「その街では今後10年以上に渡って女性冒険者が増えていくらしく、指導ができる現役の女性冒険者を探してたみたいで里帰りしたゼアータに……」
「話が来たってわけさ。
私らみたいに中堅クラスなのに熟練の女性冒険者って案外珍しいのよ?」
まったく見かけないということはないが、珍しいのは事実だ。
まぁほとんどの女性冒険者は30歳になる前に結婚して冒険者を引退するからなのだけど、ここでは敢えてそのことについて触れることはしない。
「ツトム様には理解し難い部分もあるかと思いますが、女性が冒険者として活動するには大変なことが多くて男性では適切な指導を行えないのです」
「同じ女性が指導しないと中々ね……」
「残りのパーティーメンバーを補充できる当てもありませんでしたので、中途半端にバルーカで冒険者を続けるよりは新たな道に進むことを決断しました」
「お話はわかりました」
拠点を移すとなるとロザリナはサリアさんと気軽に会えなくなるな。
あんなに妹のことを気に掛けていたのに大丈夫だろうか?
口を挟まず成り行きを見守っているロザリナの表情からは、特に気落ちしてる感じは見受けられないが……
「これだけの御恩を受けておきながら何も返せずにこの地を去るのは大変心苦しいのですが……」
「そのように考える必要はありませんよ。
自分は大したことをしたとは思ってないので」
「そんなっ!?」
「ロザリナ、例の件はサリアさんと話し合ったのか?」
例の件とは王都にいる母親に2人が会いに行くことについてだ。
「申し訳ありません、まだ…………です」
「??」
本来であれば家族間のことに口出しすべきではないのだけど、事情が事情だけに背中ぐらいは押すべきだろう。
「今2人で話し合って来るように」
今である必要はないが、こういうことは勢いも大事だ。
「!?!?
わ、わかりました。
サリア、ちょっと来て」
「?? 姉さん?」
ロザリナ姉妹がテントの中へと消えて行く。
この場には俺とゼアータさんが残った。
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