第280話

「ウェルツです。オークの討伐経験はあります。15体ほどです」


 討伐経験があるパーティーがいてとりあえず安堵する。


「ムドゥーク、討伐経験あり、討伐した数2体」


 2体だけだとほぼ初心者だろうな。


「リュードと言います。オークとの戦闘経験はありません」


 こちらは完全な初心者か……

 3人のリーダー共に18歳か19歳ぐらいだと思う。


「ウェルツさんのパーティーはオークを2体同時に相手にすることはできますか?」


「おそらく可能だと思います。

 自分が単独で1体を抑えられるので、その間に仲間がもう1体を倒してくれれば」


 周りにいるパーティーメンバーもうんうんと頷いている。

 リーダーが最も強いタイプのパーティーか。

 ひょっとしてこのウェルツは獣人かもしれない。見た目ではわからないのでただの勘だけど。


「では戦い方を指定します。

 敵と遭遇した際、オークが1体だけならリュードさんパーティーが倒してください。

 2体でしたらムドゥークさんパーティーが2体目を担当、3体とか4体だったらウェルツさんパーティーも参戦してください。

 5体以上だった場合には我々が介入して対処するか、そのままあなた方に任せるかは状況によって判断します」


 俺達が介入した場合、同行するギルド職員コーディスの判断次第だが討伐数がカウントされなくなる。

 だが初日は積極的に介入しようと思う。

 大概のケガは回復魔法で治せるが、重症を負ってトラウマになったり戦意が落ちるのは避けたいからだ。


「戦闘経験を積んでもらうことを基本的な方針としますが、連戦が続いたりした場合は戦う順番を組み替えますのでそのつもりで」


 それから倒した魔物は俺が収納に入れて最後に分配すること、移動する方向は自分が指示することを伝えた。最後に、


「何か質問はありますか?」


 ムドゥークパーティーから手が挙がった。


「他の魔物と遭遇した場合も同じ戦い方ですか?」


「いえ、他の魔物はこちらで倒しますので皆さんはオークとの戦闘に集中してください」


 オーガに関しては除外していいだろう。

 一般的なオーガは少数で動いてることはないようだし…………魔族が軍を形成した時や砦とかの拠点に配置されてるイメージだ。

 しかし単独で行動する黒オーガのような例外もいる。

 出来れば遭遇したくはないものだが……


 今度はウェルツパーティーの女の子が手を挙げてる。


「ツトム君は武闘大会で本選まで勝ち上がったと聞きましたが本当なの?」


「本当です。もっとも本選初戦で負けてしまいましたけど」


「本当だったんだ!」「おおぉぉ!?」「すげぇぇぇぇ」


 武闘大会が終了して3日が経過した。そろそろここ(=バルーカ)にも結果が伝わってくる頃合いか。

 こう素直に感動してもらえると気持ちいいものだな。

 もっともこの依頼とは何の関係もない質問だったけど……


「他に質問は…………ないようですので出発します!」




……


…………



 バルーカの東門からメルク方面に街道を進み、1時間ほど歩いたところで南に広がる森へと入った。

 隊形は俺を中心として前方にウェルツパーティー、左にムドゥークパーティー右にリュードパーティー、そして後方にロザリナ達3人とコーディスという布陣だ。


 ここの森は木々の間隔が広くて移動し易いのが特徴なんだが、中々魔物と遭遇できない。

 事前にどの辺りに魔物がいるか偵察しておくべきだったかと後悔の念に駆られる。


 いや、後悔するのはまだ早い。

 休憩時にでも地形を確認する為とかテキトーな理由を言って偵察に行けばいい。


 そのような予定を立てていると地図(強化型)スキルに反応が現れた。

 こちらへと向かってくる赤点が1つ、2つ…………最終的に7体の敵が向かって来ている。

 最初の戦闘にしてはちょっと数が多いか?

 移動する方向を変えて回避することも今ならまだ可能だが…………


 ここは戦闘を経験させることを優先しよう。

 各パーティーがどんな戦いをするのか知っておきたいし。

 最初に俺が3体倒して残り4体を6等級に任せる。

 ただ、注意しないといけないのはオークの種類だ。

 上位種はもちろんのこと、通常のオークでも武装の良い技オークが相手だと6等級では危ないかもしれない。

 敵を見極めてすばやく危険な個体を排除する。そのように方針を決めて会敵を待つ。


 しばらくして前方のウェルツパーティーの1人が手を挙げた。

 いち早く気付くとは斥候職か?

 全体で停止し警戒する。


 やがて敵の姿が見えて…………ゴブリンだった。


 ふざけるな! と悪態をつきたいところだが指揮官なので態度には出さず、前に出て風刃で一気にゴブリン達の首を落とした。


「移動を再開します」


「おおぉぉ!?」「すげぇぇぇ」「まとめてなんて……」


 ここでも素直に感動してくれている。

 ウチの連中も普段から俺のことを褒め称ええてくれても…………まぁ一緒に生活してると難しいか、俺から要望するとワザとらしい反応になって興醒めだし。



 これまでバルーカからやや東に移動して南下していた針路を東へと変更する。正確に言うと東南東の方向だ。

 バルーカと奪還した南砦を結ぶラインは重要な補給路だ。

 南砦の司令部に待機していた時に聞いた話では、軍としても補給路の安全を確保するために、定期的に森へ部隊を繰り出す計画が立てられていた。

 その計画が実行されているならバルーカと南砦のラインに近い区域は魔物が極端に減っているだろう。

 一方東にある街メルクでは魔物の集落に対する討伐を行っていないとのことなので、東へと向かえば魔物と遭遇する機会も増えるはずだ。


 と、早速反応が…………数は3体。

 真東にいるので方向的には少しズレているが、ウェルツパーティーの斥候職が気付くことに期待する。

 細かく針路変更を指示すると怪しまれるかもしれないからな。


 互いの距離が縮まるとこちらが気付くよりも早く魔物のほうが向かって来た。

 魔物の動きに遅れて斥候職が手を挙げ警戒態勢をとる。

 先ほどのゴブリンとは違い、遠くからでもオークの巨体が視認できた。

 念入りに観察するが上位種でもなければ特別装備が良いわけでもない。棍棒持ちの普通のオークだ。

 各6等級パーティーに任せることにする。


 最初に接敵したのは前方に位置していたウェルツパーティーだ。

 続いて左翼のムドゥークパーティーが前進して戦闘に入る。

 初めてオークと戦う緊張からか、やや動きの悪いリュードパーティーが最後にオークへと向かっていくが……

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