第277話

「私から君達が昇格試験を受けることができる方法を2つ提示したい」


 他に2つも方法があるのか。


「1つは他所のギルドに試験相手を求めるやり方だ。

 君達の情報は全て伝えた上で試験相手を募集するので、必ず相手が見つかると確約はできない」


 以前の3等級の対戦相手を求めていたグリードさん達と同じ状況なわけだ。

 結局グリードさん達の求めに応じたのは、隣町のメルクのギルドに所属する3等級パーティーの武烈で、俺も助っ人としてその昇格試験に参加した。1ヵ月前のことだ。


「君達にとって不利益になることが幾つかある。

 まず昇格試験の実施場所が相手方のギルドで行われることだ。

 依頼などで先方がたまたまこちら(=バルーカ)に来ているなんて幸運はまずないだろう」


 俺には飛行魔法があるので、移動に関するデメリットはそれほどない。

 アルタナ王国で開催された武闘大会の時と同じく、余分に1往復するだけで3人を運ぶことが可能だ。


「次は費用面だ。

 通常4等級の試験費用は4万ルクだ。

 これに相手方のギルドへ上乗せして依頼するのと、事務や配達代などの諸経費を加算すると20万ルクを超えてくることもあり得る」


 元々依頼料に上乗せしても良いと思っていたんだ。

 それぐらいの額なら問題ない。


「最後は時間だな。

 ギルド間でのやり取りにはどうしても時間が掛かる。

 最短でも1月以上先になることは覚悟して欲しい」


 これは痛い。

 時間が掛かる上に、必ずしも対戦相手が見つかるわけではないというのは、かなりリスキーだ。

 俺個人としても、王都の魔術研究所に行く期間と昇格試験が重なるのは、なるべくなら避けたいところ。


「もう1つ別の方法とは?」


「ギルドから出す特殊依頼を達成することで、4等級への昇格条件を満たしたこととする」


 もしその特殊依頼とやらが厄介な依頼なら、この一連の流れは俺に依頼を受けさせるようレドリッチが画策した結果…………ということも十分あり得るが、果たして……


「どのような内容の依頼ですか?」


「6等級の若いパーティーを複数率いて、バルーカ南東の森にて幾つかの課題をこなしてもらいたい。

 課題内容の詳細は後ほど担当官から聞いて欲しいが、オークを〇〇体討伐するとかそんな感じだ」


 昇格試験の代替えとしての依頼なのでどんなものか身構えてしまったが、意外に簡単な依頼なのか?

 俺だけでも十分こなせそうな感じだ。

 もうこの依頼を受けて4等級へ昇格すれば良くないか? という空気を出して他の3人を見る。

 するとゼアータさんが再び口を開いた。


「どちらか一方を選ばなくてはいけないのでしょうか?」


「そんなことはない。

 もし特殊依頼を失敗したら、その後に他のギルドに対戦相手を求めることは可能だ。

 ただし特殊依頼を後回し、あるいはどちらも同時進行で取り掛かるというのは禁止とする。

 もちろん、どちらも選ばないという決断をしてもこちらとしては一向に構わない」


 依頼を失敗した時のこともちゃんと考えるのか……

 ゼアータさんがパーティーリーダーだったりするのだろうか?

 後で聞いてみるとして、


「特殊依頼を受けるってことでいいかな?」


「ツトム様のお心のままに」

「ツトム様に従います」

「異論はないよ」


「決まったようだな」


 レドリッチが机の上に置いてある呼び鈴を鳴らすと、すぐに見覚えのある男性職員が入って来た。


「彼らに詳しい説明を頼む」


「わかりました。

 ついて来い」




 3階から2階の会議室のような部屋に移動した。


「何人か知ってる者もいるようだが、ここの職員のコーディスだ。

 今回は君達に同伴して依頼内容の査定を行う」


 この前のオーク集落討伐の際にグリードさんパーティーを担当していたギルド職員か!

 確か斥候職だったな。


「その依頼内容だが、期間は明日からの3日間。明日早朝にギルドで集合だ。

 君達には南東の森に行く6等級パーティーの護衛をしてもらう。

 死者や重傷者が出たら依頼は失敗となる」


 回復魔法もあるし余裕だろう。


「現時点では3つの6等級パーティーが参加予定となっている。

 南東の森で遂行すべき課題は、1つのパーティーにつき30体のオークもしくはオーガの討伐である。

 もちろん課題がクリアできない時も依頼は失敗だ」


 オークとオーガ合わせて90体倒せばクリアなんてヌルいヌルい!!


「当然だが君達が少しでも戦闘に参加した場合は、その戦闘での討伐数は全て無効になるので注意するように」


 えっ??


 ま、まさか……

 6等級パーティーが戦うのを見守るだけ……なのか?


「攻撃はなしで防御だけでの戦闘参加も?」


「ダメだ。ついでに囮だったり攪乱するのもダメだな。

 6等級パーティーに南東の森での実戦経験を積ませるのがこの依頼の目的だからだ」


「例えば魔物を誘引したり足止めしたりは?」


「もちろんそれらも戦闘に介入したと見なす」


 ヌルゲーだと思っていたのに一気に厳しくなってきた!?


「戦闘に介入しないでどのように護衛しろと?」


「戦闘に介入して討伐数がカウントされないのは痛いだろうが、死傷者が出ればそこで依頼失敗は確定する。

 どちらを優先すべきかは自ずから明らかだと思うが?」


 6等級パーティーは最優先で守らなくてはダメってことか。


「回復魔法に関してはどうなんだ?」


「回復魔法もカウント数無効の対象だ。

 が、戦闘終了後に回復魔法を使用することは認めることとする」


「事前に防御陣地を構築するのは?」


 せめて有利な地形で戦わせれば少しは援護が……


「6等級パーティーがそれを行うのなら問題ないが、君が魔法で作るのはナシだ」


 本当に戦ってるのをただ見てるしかないのか……

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