第276話

「やあ! 君がツトム君だね!

 初めまして。ゼアータと言います」


「初めまして、ツトムです」


 ルルカとディアを連れて城内のギルドへと行くと(当然2人にはアルタナ王都で購入させたコートを着させている)、既にロザリナ達3人がギルドの食堂で先に待っていた。

 その3人の中で1番の長身の女性が俺の手を握り自己紹介をしてきた。

 ゼアータと名乗った女性はディアにはちょっとだけ届かないものの身長が高く、全身を覆う鎧を着込んでいる。いわゆるフルプレートアーマーというやつだ。今は兜を脱いでおり、ショートカットな髪型の可愛い系の顔が露出している。

 そして椅子に立て掛けるようにして大きい盾も置かれていた。


「君のおかげで4等級になれるかもしれない。感謝するよ。

 それにロザリナのこともたくさん可愛がってくれてるみたいで、そのことも感謝する」


「昇格試験に関しては自分はソロなので、こちらこそ自分をパーティーに受け入れて頂き感謝します」


 ディアがいる今ならロザリナとペアを組むことも可能だが、それでも他のパーティーと合流するなりしないといけない。


「あと、ロザリナは自分が気に入って買いましたので、ゼアータさんに感謝される理由はないです。

 もちろん手放すつもりはありませんので、そちらのパーティーにお返しはできませんよ?」


「わかっているさ」


 妹のサリアさんをルルカとディアに紹介していたロザリナが、俺との挨拶を終えたゼアータさんを2人に紹介する。

 ディアはもちろんだが、ルルカもサリアさんとは初対面だったか。


 一通りの挨拶を終えた俺達はルルカとディアを残して受付へと向かう。


 午前中のギルドは閑散としていた。

 朝の時間帯であれば依頼票の取り合いでもっと混雑してるし、逆に遅ければ食堂目的の客が増えていただろう。

 目立ちたくないので空いてる時間帯に集合としたけど、肝心の対戦相手の4等級パーティーがいなければ昇格試験そのものが実施できない。

 それに賭けを行う業者も人がたくさんいないと商売としての旨みがないだろうし、冒険者達が帰ってくる夕方まで待つことも想定するべきだろう。


「まずはロザリナの冒険者復帰だ」


「かしこまりました」


 ロザリナが所定の手続きを行い冒険者カードを受け取る。

 これでロザリナは冒険者に無事復帰したわけだが、同時に緊急招集に応じる義務も発生することになる。


 次に昇格試験に申し込むのだが、ここで睨み合いが発生してしまった。

 当然先輩でもあり主体パーティーのサリアさんとゼアータさんのどちらかがリーダーかと思ったのだが、2人は俺に押し付けようとしていてロザリナもそのつもりのようだ。


「あ、あの~~……」


 受付嬢が困っている。

 ここで睨み合ってても仕方ないので、先に進めることにする。


「4等級への昇格試験を受けたい」


「承りま…………し、しばらくお待ちください!」


 受付嬢は急に席を立ち階段を上がっていった。


 あれ?

 後ろの棚にある鐘を、カラン♪ カラン♪ カラン♪ カラン♪ って鳴らすんじゃないの?



 しばらく待つと受付嬢が戻って来てギルドマスターと面会するよう求めてきた。

 嫌な予感が……




 このギルドの建物の最上階(=3階)奥の個室に4人で入る。


 バルーカギルドのマスター・レドリッチ……40代の痩せた男で鋭い眼光をしている以外、特に目立つ特徴はない普通のおっさんだ。

 しかしながら俺の所属を壁外ギルドから移そうとしたり、武闘大会に参加させようと仕向けたり、何を仕掛けてくるのかわからない油断のならない相手でもある。


「結論から言おう。

 君達は4等級への昇格試験を受けることはできない」


「えっ?」「!?」「なぜ?」


「理由は君達パーティーの魔術士が強過ぎるからだな。

 試験相手募集の依頼にどの4等級パーティーも応じないのはこちらで事前に確認済みなのだよ」


 俺のせいか。

 しかし本当かなぁ? 応じないようにレドリッチが仕向けてるのではないか?

 でも俺達の…………いや、俺の昇格を阻止する理由はレドリッチにはないはず。

 前に俺に対して『ギルドの戦力強化は急務である』と語った言葉に嘘は感じられなかった。


「試験相手には勝ち負けに関係なく依頼料は支払われるのでは?」


「もちろんだ。

 だが依頼料自体が安価なので、勝てない試合に出る理由にはならない」


「ではその依頼料に私達がいくらか上乗せするのはどうでしょう?」


 ゼアータさんの提案だが、案外良いかもしれない。

 10万ルクほど上乗せすれば美味しい依頼になるはずだ。


「よほど大金を積むのならともかく、10万20万程度では効果はないだろう。

 彼らは君達より…………も、稼ぎが上なのを念頭に置くように」


 言い淀んだのは俺より稼いでるわけではないからか。

 しかし俺としても昇格試験にそこまでの大金を積むつもりはない。


「彼らも4等級の看板を背負っているのだ。プライドというものがある。

 確実に負けるとわかっているのに大勢の前で試合をするわけにはいかないのだろう」


「試合では大幅に魔法を制限されますし、必ずしも自分達が勝てるとは思いませんが……」


 とは言え負けるつもりはないけどな。

 特にサリアさんとゼアータさんを巻き込んでいる以上確実に4等級になりたいところだ。


「私もそう思うが、問題は君や私がどう思うかではなく、彼らがどう判断するかなのだ」


 そりゃあそうだろうが……

 あっ!? そうだ!!


「3等級パーティーを相手にするのはどうです?

 グリードさんなら受けてくれそうですが」


「そのような昇格試験の形態はギルドとしては認められない。

 君には以前話しただろう? トップパーティーが負う責務を。

 彼らの代わりを君が担ってくれるのかね?」


「ぐっ…………」


 確か同じギルドのトップパーティーが目標や手本となり、特に若い冒険者にとっては憧れの存在だったな。

 そんな立ち居振る舞いを求められても俺には絶対無理だわ。


「つまり自分がこのパーティーにいる限りは、彼女達は昇格試験を受けれないということですか?」


 俺自身は等級を上げることにさほど拘りはないとはいえ、試験すらまともに受けられないのは納得し兼ねるところだ。

 レドリッチに対してはまだ貸しが1つ残っているが……、さすがに昇格関連には適用外だろうな。


「さすがにそれは酷なので、私から君達が昇格試験を受けることができる方法を2つ提示したい」






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1日遅くなってしまってすいませんでした。

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