第266話

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-アルタナ王城のレイシス姫自室にて-



「待たせましたね」


「いえ」

「……」


 返事をしたルルカは私よりいくつか歳が上のようだ。

 無言で頭を下げたのは…………この前名前を聞いたかしら? 私と同じ歳ぐらいだけど。


「話をする前にあなた達に一つ確認しておきたいことがあります」


「なんでしょうか?」

「……」


 かなり緊張しているようね。

 王族を前にした庶民のごく普通の反応だけど。

 割とズケズケとモノ申して来るツムリーソがおかしいのだけで……


「前回はツムリーソの考えは聞きましたが、あなた達自身は奴隷身分からの解放を望みますか?」


 今回の武闘大会でツムリーソが本選に進出したことで、若干ではあるが選定の儀を行い易くはなった。

 あとはこの2人の奴隷をなんとかすれば、ツムリーソとの縁組は一気に進行する可能性が出てきた。


「前にも申した通り、解放後の生活は我がアルタナ王国が保証します」


「申し訳ありません。私は解放を望みません」


「わ、私もツトム様から離れるつもりはありません!」


 ……説得を試みても無駄な感じね。


「あなた達の考えはわかりました」


 本人達が望まぬのであればどうしようもない。

 強引に解放することもできなくはないが、肝心のツムリーソがアルタナに反感を抱くようになっては本末転倒である。


「一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」


「どうぞ」


「私達の意向を聞いたところで主の許可がなければ解放されないのでは?」


「一般的にはそうですが国が介入すれば話は別です」


「「!?」」


「あなた達の身体にも刻まれている奴隷紋を施術する魔道具は、国から認可を受けた奴隷商に貸与されています。

 貸し出されている魔道具は劣化模造品であり、国が所有する高性能型なら奴隷紋を主人の許可なく消したり上書きすることが可能です」


 ちなみに奴隷紋の消去や上書きを奴隷商の劣化版で施術する場合は、奴隷の主人の新鮮な血液が必要になる。


「本来であれば奴隷の主が死亡したり賊徒となった際に施す処置なのですが、ツムリーソと縁を結ぶことは国の未来を左右する重要事項と私は思っています」


「ツトム様……あ、主からは結婚のお話は一旦白紙になったと聞いて、います……けど……」


「そのことは事実です。

 ただあなたも『一旦白紙に』と言ったように、急いで推し進めるのを止めたまでのこと。

 私がアルタナ王国とツムリーソとの縁組を望んでいることに変わりはありません」


 もっとも現状ではかなり厳しい。

 冒険者ということに関しては武闘大会本選出場という実績が加わり、選定の儀さえ済ましてしまえばアルタナ王国とベルガーナ王国、2国間の外交問題にすることが可能だ。

 こちらからそれなりの身分の女性を嫁入りさせるとなれば、ベルガーナ王国側としてもツムリーソを叙爵じょしゃくしてバランスを取らざるを得ないので何とかなるのだ。


 しかしながら、奴隷と肉体関係があることは大問題になる。

 奴隷を侍らせている男性に嫁入りしたいと考える貴族女性などいない。いや、貴族に限定しなくても庶民の婚姻でも同じことが言えるだろう。

 まして、その奴隷達とねやを共にし奉仕するなどと……


 まったく!

 どうしてツムリーソはあの若さでこうも性癖が歪んでいるのか。

 こちらが望んでいることとはいえ、嫁候補となる女性を探すのには大変な苦労を伴うだろう。


「固い話はここらで良いでしょう。

 今日2人を呼んだのは、ツムリーソとあなた達のことを聞きたいと思ったからです」


 嫁候補を探すにもまずは3人のことを知らなければならない。


「改めて自己紹介からしましょうか。

 私はレイシス・ル・アルタナ。アルタナ王国第3王女で歳は30になります。

 レイシスと呼んでもらって構いません」


「ルルカと申します。

 元商人で34歳です」


「元冒険者のロザリナです。32歳です」


 幸いにも2人と同じ年代ということであれば若い娘よりも受け入れ易いか?


「最初にツムリーソの奴隷となったのは……」


「私です、姫様」


「ルルカ、レイシスと呼びなさい」


「はい、レイシス様」


「それでいつツムリーソの奴隷に?」


「2ヶ月以上前に王都で……あ、ベルガーナ王国の王都でツトムさんに買われました」


「最初の印象はどうでしたか?」


「夜が凄く激し……朝も夜も凄く激しくて大変でした」


「は、激しく?!」


 この人、突然何を言い出すの!?


「ロザリナが来るまでは1人でツトムさんのお相手をしておりましたので」




……


…………



「私はルルカさんの少し後にバルーカでツトム様に買って頂きました」


「奴隷商ではもっと乱暴な話し方をしてたのよね」


「ル、ルルカさん?!」

「そうなの?」


「冒険者の時は女性だけのパーティーで人数も足りてませんでしたので、男性冒険者に隙を見せないようにと……」


「ツムリーソとはパーティーを組まないのですか?」


「先日2日間だけツトム様の冒険者活動にお供しました。

 しかし私の実力ではツトム様の足手まといにしかなりませんので……」


「そうですか」


 お姉様もツムリーソがパーティーを組まずに単独で動いてるのを気にしていらした。

 もっとも、もしパーティーを組んでいたら自由に動けず、あの日あの時のレグの街への救援もなかったかもしれない。

 私が今こうしていられるのもツムリーソが単独で動いてるおかげ、とも言えるのだけど……




……


…………



「夜中に悲鳴や戦闘音が聞こえたので、私達は慌ててツトムさんを起こしました」


「ツトム様は最初は寝ぼけてましたが、急に覚醒して階段を上がったところで防御するよう指示され、自身は1人で討って出られました」


「結局深夜遅くまで2階のところに2人でいたのよね」


「はい。ツトム様が戻られて皆でお風呂に入りました」


「魔物は家の中に侵入してきたのですか?」


「いえ、1体も入ってきませんでした」


「壁外区に侵入した魔物の数はそれほど多くなかったようです」


「そう……」


 この2人はツムリーソのことを過少評価してるのではないだろうか?

 元商人だというルルカは仕方ないにしても、元冒険者であるロザリナはもう少し……そう言えば先ほど自らを足手まといと評してたわね。


「2人の食事を用意させましょう。この後も引き続き話を聞かせなさい」


「あ、ありがとうございます」「ご馳走になります」


「遠慮は無用です。1人分用意させるのも3人分用意させるのも大した違いはありませんから」

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