第265話

「本日は先の両名との会談後にバルーカに戻りますのでそのご挨拶と、改めまして一昨日の自分の無茶な願いを聞いてくださり心から御礼申し上げます」


「よい。そなたには借りもありましたから」


「その……、昨日闘技場で王太子殿下ともお話しする機会がありまして……」


「兄上から聞きましたか。

 王家内のことです。そなたが気にするようなことではありません」


 そういう訳にはいかないからこそ、王太子殿下は俺に言ってきたのだと思うけど……


「それよりもその闘技場でそなた、初戦で負けましたね?」


 げげっ!?

 観戦してないのになぜ知ってる? って誰かを代わりに見に行かせれば済む話か。


「え、えっと、強い相手でしたので力及ばず……」


「確かにそなたに勝った者は決勝まで残りましたから強者だったのは疑いないこと」


 おぉ、頑張ってくれたセリュドゥクには感謝だな!


「しかし! どんな相手であってもツムリーソは負けてはなりません!!」


 えぇぇ……


「自分の実力がレイシス様のお眼鏡にかなわないのであれば、別の魔術士を探されたほうがよいかと」


 あ!? "眼鏡"って通じないかも?


「いえ、そなたの魔術士としての力量には満足しております」


 だったら模擬戦で負けてもよくない?

 そして眼鏡は通じるのか。いや、モノクルや拡大鏡みたいな物はあるのかもな。


「まぁ此度こたびは予選突破を果たしたということでそれなりには評価しましょう」


 ハードル高過ぎだよ……

 冊子の記者さんは快挙だって言ってくれたのに。


「次はもっと頑張らないといけませんよ?」


 えっ!? 次って、2年後も出場しろってか!?


「畏れながら、武闘大会への出場は今回で最後にしたく……」


「次の開催は他国ですから私も観戦できるやもしれません」


 俺の言うことわざと無視してるよね?!


「ところでツムリーソ、本日バルーカに帰るとのことでしたが」


「は、はぃ」


 話題変わったし!?


「そなたに用がある時は書状を出しますので速やかに…………」


 途中で話を止めたレイシス姫。

 口元に手を置き、何やら思案している様子だ。

 一昨日と比べて露出の少ない豪華ではあるが普通っぽい服装をしておられる。

 

 何やらバルーカに戻っても書状を送られて呼び出されるっぽいけど。

 どうせ断るという選択肢はないのだ。

 リアルプリンセスから手紙が届くという日本では考えられないイベント、と前向きに捉えるしかない。


「ツムリーソ、こちらに来なさい」


 一昨日と同じく謁見の間に隣接している衣装部屋のようなところに入室する。


「これより書状をしたためます。

 バルーカにおられるお姉様にお渡ししなさい」


「かしこまりました」


「ツムリーソのことはあらかじめお姉様の許可を得てからでないといけません」


 その通りなんだけど、その前に俺の意思も尊重して欲しい……



 レイシス姫がイリス殿下宛の書状を書いている。

 ルルカとロザリナは緊張しながら待っていることだろう。

 2人がレイシス姫の自室に案内されてから30分近く経過している。

 他人を待たせることになってもお姫様は何とも思ってないのだろうなぁ。

 自国の民ではなく他国の、まして平民ですらない奴隷相手であるなら尚更に。


「思い出しますね、ツムリーソ」


 なにを??


「そなたと初めて会った時も私はこのように書状をしたためました」


 あぁ、レグの街でのことか。


「あの時は要塞からの伝令としてレイシス様にお会いしました」


「随分と前のことのように感じますが、あれからまだ一月と少ししか経過していません」


「それだけレイシス様が充実した日々をお過ごしになられたということでしょう」


「クスクス……」


「えっと……」


「そなたは時々妙に大人びたことを言いますね」


「そうでしょうか」


 実際そうなんだろうな。

 若返った年齢を意識して話すことなんてほぼしてないし。

 なのにどうして『時々』なのかというと、こちらでは15歳で大人扱いになるので精神面で早熟な子供が多いからだろう。

 決して俺が精神的に幼いからではないはずだ。たぶん……


「書き終わりました。これを」


 レイシス姫から書状を受け取る。


「回復魔法が使えるからといって無理してはいけませんよ」


「心配して頂きありがとうございます」


「し、心配などしていません!

 ツムリーソに何かあれば我がアルタナが困るから言ったのです!!」


 これが噂のツンデレ……なのか? 微妙に違う気もするけど。




……


…………



「遅くなったな」


 ディアと合流する。


「こちらはもっと時間がかかると思っていたぞ」


 1時間ほど待たせているが。


「族長に用がある時はこれ以上待つことがあるからな。

 これほど大きな国の王族に会うのなら尚のことだろう」


 確かにそう考えると時間がかかるのも妥当なのか。

 イリス姫とレイシス姫、両姫と会う機会が増えて王族相手に慣れてしまうのは非常に問題がある。

 さっきも内心不満みたいなことを思ってしまったしな。

 両姫に関しては多少失礼なことをしても即無礼討ちにならないぐらいの関係性はあるとは思うが、それに甘んじることなくきっちり一線を引くよう心掛けないと。



「帰りは休憩なしで飛ばして行くからな。キツイぞ」


「問題ない」


 3人を運ぶのに一往復半しないといけない。

 1度で済ませることができるのなら大変楽なのだけど。

 1人背中に乗せる(背負う?)形で飛べないか試す必要があるな。



 ロープでディアと結ぶと、


「ツトムは今日送り迎えで大変だから私が抱こう」


「へ?」


 ディアに抱きかかえられる。

 いわゆる逆お姫様抱っこだ。


「ま、待て! ちょっと待て!

 こんな体勢だと飛べないだろ!!」


「そうなのか?」


 滞空魔法で浮くことはできる……いや、魔法の発動主体は抱かれている俺なのだ。ディアは俺にしがみ付いて浮く感じになる。

 これは飛行魔法でも同じことだ。


「ならばこうしよう」


 逆お姫様抱っこが解かれ、ほっと胸をなでおろす。

 こんな外で女性にお姫様抱っこされるなんてどんな羞恥プレイだよっ!!

 幸いにも広場の隅でのことなので目撃はされてないみたいだが。


 安心したのも束の間、今度は体が持ち上げられる。

 目線を同じに合わせると、当然ながら身長差分だけ俺の体は宙に浮く形になる。


「これもダメだ。

 さっきより体勢的にはマシだが、飛ぶのが俺である以上根本的な解決にはならないぞ」


「そうか……」


 結局は通常の俺が抱きかかえる形で飛ぶことにする。

 ただし『途中で短時間でも休むべきだ』というディアからの進言を入れ、休憩なしは撤回することにした。

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