第264話

 1回戦最後の試合が長引いて決着まで30分以上かかったことを除けば、武闘大会は順調に行われて観客も盛り上がっている。

 ただ、俺的には試合を見るのに徐々に飽きつつあった。

 自分が既に敗退しているので偵察的な目的で見る必要性がなくなったから、ということもある。

 でも1番は単純につまらないことだろう。エンタメ性が乏しいのだ。

 俺を除けば第1シードの達人級ばかりで構成されている本選出場者では、その傾向は一層強くなるばかりだ。

 

 一方で観客が盛り上がっているのは、一つには娯楽が発展していない世界だからだろう。楽しむ為のハードルが凄く低いのだ。

 もう一つは観客にとって俺以外の本選出場者は皆が有名人という理由だ。ランテスぐらいしか知らない俺と違って、有名芸能人を見るみたいな感じだろうからな。


 そのランテスは準決勝で敗退した。

 前の準々決勝で消耗したのが敗因だ。

 傷は回復魔法で癒せても失った血液や体力までは回復できない。



 再び関係者用の通用口から闘技場内部へと入る。

 敗退しても顔パスで入れるのは有り難い。


「よぉ、組み合わせに恵まれなかったな」


 待機所から出てきたランテスに声を掛けた。

 さっきのお返しという意味もあるが、このタイミングでないと会う機会がないという真面目な理由もあった。


「それを含めての実力だからな。仕方ないさ」


「俺は明日バルーカに帰るけど、ランテスはベルガーナの王都に戻るのか?」


「いや、ベルガーナ(の王都)には戻らない。

 こちらに来る時ギルドの指導員は辞めたからな」


 オイオイ、コイツ指導員になってまだ半年ぐらいじゃなかったっけ?


「そんな簡単に辞めて罰則とかなかったのか?」


「急に辞めたから多少違約金を払ったが、そこまで縛りのキツイ契約ではないさ。

 現場に復帰することはギルド側だって望んでいることだしな」


「冒険者活動を再開するのか!?」


「まぁな。

 武闘大会で冒険者が王都に集まっていたのがよかったのだろうな。

 新たに2等級パーティーを作ろうとしている冒険者に声を掛けられてな、現在3人であと1人は勧誘中で最後の1人を募集してるところだ」


「順調そうで何よりだ。おめでとうと先に言っておくよ」


「お、おぅ…………」


「身軽な身なら最後の1人が決まるまで手伝うとかできたけどなぁ」


「その気持ちはありがたいが、まずは等級を上げろよ……」


「近々4等級には上がることになるけど、等級なんて所詮飾りだろ」


 そろそろサリアさんのパーティーメンバーも帰ってくるだろう。


「まぁバルーカに来た時なら手伝うよ。借りもあるしな」


「どこで活動するかすら決まってないが、その時が来たら頼むかもな」


 右手を差し出す。


「死ぬなよ」


「お互いにな」


 ガッチリと握手してランテスと別れた。




 決勝戦は俺を破ったセリュドゥクとランテスに勝ったアウリウスの対戦となった。

 結局本予選第1組の第1シード同士の対決だ。

 試合は終始アウリウスがセリュドゥクを圧倒した。

 戦闘ランクの差はわずか7だが、実際はそれ以上の差があるように感じた。

 アウリウスがアルタナ出身なのでホームで観客の声援を一身に受けている有利さもあるかもしれない。

 セリュドゥクの動きもどこか精彩さを欠いていて、決勝戦はあっけなくアウリウスの勝ちで終了した。


 ちなみにアウリウスは『雷撃のアウリウス』との異名を持つが、雷撃の如き攻撃を行うというだけで雷魔法とは一切関係がないとのこと。残念。



 決勝戦が終わった後はきっちり表彰式と閉会式まで見る。

 俺としては途中で帰りたかったけど、お金を払ったからには最後まで見ろという3人からの圧力が凄かった。特にルルカ。


 表彰式と閉会式はレイシス姫のお兄さんである王太子殿下が大活躍なイベントだった。

 この武闘大会本選をレイシス姫が観戦しなかったのも、自分の立場をわきまえて王太子より目立たないように配慮したのだろう、と王太子の話を聞いた後だと推測できる。

 あの姫の気性なら俺を応援? 監視? 叱咤激励? するために当然見に来ただろうし。


 あとは明日、ルルカとロザリナがレイシス姫と会談すれば、アルタナ王国での用事は全て終わりだ。

 俺もレイシス姫に挨拶するべきだろうか?

 明日という機会を逃せば長期に渡って会えないかもしれない。

 改めて昨日の件のお礼と別れの挨拶をきちんとして後顧の憂いを断つべきだろう。




 翌日、8日間滞在した宿を後にする。

 大会期間中の割高価格は別にして、大変過ごしやすい宿だった。



「ディアは隅のほうで待っててくれ」


「わかった」


 ディアを王城の前にある広場みたいなとこで待たせることにした。

 衛兵が絶えず巡回しているので安全だろうと判断したのだ。


「近くでなら何か食べててもいいからな」


「さっき朝食を食べたばかりだぞ」


「そうか、王都のパンも置いておこうかと思っていたけど……」


「それはもらっておこう」


「食いしん坊めぇ」


 しかも1個渡したら2個目も要求されたし!?


「ルルカとロザリナもここで待ち合わせしよう。

 ディアをバルーカに送って昼過ぎぐらいに戻ってくるから、昼食を近くで済ませておくように」


「わかりました」「了解です」


 新品の衣服を着込んだ2人はいつもとは違う新鮮さに溢れている。

 地味な感じなのもOLみたいで大変よろしい。

 もっとも下がスカートではなくズボンなのが非常に惜しいが……

 別途スカートだけでも買うか! しかも丈の短いのがいいな!!


「(じぃーーーーーー)」


 ヤバっ!?

 どうしてもルルカの強調されている膨らみに目線が……


「そ、そろそろ行こうか」


「(じぃーーーーーー)」




……


…………



「お望みによりルルカ・ロザリナ両名を連れて参上致しました」


 謁見の間においてレイシス姫に拝謁する。

 ルルカもロザリナも意外に落ち着いているな。

 このような場は初めてだろうに。

 1度自宅でレイシス姫と対面してることが大きいのだろうか?

 俺なんて未だ緊張して訳わからんこと口走ることがあるのに……


「ツムリーソ、大儀でした。

 この2人を私の部屋へ」


「こちらへ」


 侍女が2人を連れて謁見の間から退室する。


 会談場所はレイシス姫の自室か。

 女性3人で何を話すことやら……

 おっと、きちんと挨拶しないと!


「本日は先の両名との会談後にバルーカに戻りますのでそのご挨拶と、改めまして一昨日の自分の無茶な願いを聞いてくださり心から御礼申し上げます」

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