第263話
それにしても、まさか1回戦で敗退するとはなぁ。
さすがに優勝できるとまでは考えてなかったけど、1つか2つぐらいは勝てるだろうと思っていた。
傲慢がほころびを生むというのか……
風槌とかでゴリ押しできる本予選中盤まではともかく、それ以降は如何にして不意打ちするかの戦い方になるからどうしても勝率は下がることになる。
戦い方としては模擬戦や試合という枠組みの中ではここらが限界な感じがした。
ルルカ達のいる観客席に行く為に一旦闘技場を出ることにする。
「魔術士のツトムだな?」
関係者用の通用口の手前で見知らぬ男に声をかけられた。
「そうだが……?」
「殿下がお呼びだ。ついて来るように」
殿下…………開会宣言を行ったレイシス姫のお兄さんである第一王子のことだ。
果たしてその王子様が俺に何の用だろう?
貴賓席の奥にある綺麗な一室に案内された。
「我がベルゴール・アルタナである」
「お目に掛かれて光栄でございます。5等級冒険者のツトムと申します」
30代後半のちょっと小太りな感じは相変わらずで、一見するととても王太子には見えない。
「1回戦で負けたのは残念だったが、実に見事な魔法だった。
褒めて遣わそう」
「ありがとうございます」
「ここへと呼んだのはそのほうの勇戦を称えて何か褒美でもと…………ふむ、そのほうの顔に見覚えがあるな、以前私とどこかで会ったか?」
「はい、10日ほど前に王城にて。妹君であらせられるレイシス姫を王都にお送りした際にお会い致しております」
「おぉ! あの時の冒険者か!!
そうか、レイシスを王都に…………
んんっ!? もしやそのほう、昨日の一件にも関わっておるのではあるまいな」
昨日の魔物の件だよな。報告するとか言ってたし。
「昨日の件ならば確かに自分がレイシス様に助力を願いました」
「むむぅ……、ちなみにそのほうはレイシスとはどのような関係なのだ?」
関係……?
貴国の魔法戦力として狙われている関係なんですけど……
こんなこと正直に言う訳にもいかないし……
「自分はベルガーナ王国のイリス殿下にお仕えしているのですが、一月近く前にイリス殿下から観戦武官としてバルーカに来られたレイシス様を紹介されたのです」
「ベルガーナの姫君か……」
新国王が即位したからイリス様はもう姫ではなく殿下だけどね。
「そのほうが無官であるのなら我が麾下に、とも思ったのだがな」
「そこまで評価して頂けるなんて大変光栄に存じます」
姫様バリアは大変ありがたいな!
「うむ。今後アルタナ国内で昨日のようなことがあった際にはレイシスではなく私に申し出るように」
「は……」
なぜだ?
レイシス姫から俺を遠ざけようとしてる?
「理由はわからぬか?」
「申し訳ありません。自分にはまるで…………」
「ふむ……、他国者であれば仕方あるまい。
以前に魔物が侵攻して来た際に、レグの街を自分の部隊と街の守備兵のみで守り切ったことでレイシスを英雄視する声が上がっている。いずれその声は国中に広がるであろう」
ランテスもレイシス姫のことをレグの街を守り抜いた英雄とか何とか言っていたな。
「既に次の国王の座は私に決まっている。
だが、そのことを面白く思わぬ者が名声を得ているレイシスを担ぎ出そうとするやもしれぬ。
レイシスは軍人でもあるので軍部からの呼応も期待できよう」
きな臭い話になってきた!
「この情勢下で内乱など言語道断だ。
故に少しでもその予兆を察知したらレイシスを討たねばならなくなる。
もちろん実の兄としては妹にそのようなことはしたくはない。
わかるな?」
「はい。
つまりレイシス様にこれ以上功績を立てる機会を与えないように、とのご配慮ですよね?」
「まぁな。
昨日の一件も私の指示でレイシスが現場に赴いたことになっている。
そのほうもそう理解するように」
「わかりました」
しかし姫様(=イリス殿下)も弟である現国王とそうだったが、当人達は仲が悪いわけではないのに王位を巡って争わなければならないとは、王族というのも決して楽な身分ではないなぁ。
「このことはレイシス様には?」
「別に話しても構わんぞ。
レイシスも己の立場は理解している。
私と話したことを聞けば察するであろう」
自分が微妙な立場に置かれているのに俺のお願いを聞いてくれたのか……
レイシス姫に借りができちゃったなぁ。
ところで俺への褒美の話はどうなったのでしょうか?
…
……
…………
観客用の正規の入り口から闘技場に入りルルカ達と合流した。
「お怪我がなくて良かったです」「お疲れさまでした」「惜しかったな!」
「負けても構わない試合だったけど実際に負けてみると結構悔しいもんだな」
「対戦なされたセリュドゥクはコートダール随一の幻影流の使い手ですよ。
魔術士であるツトム様が負けても不思議ではないかと思いますが……」
なんかロザリナも普通に知ってるぐらい有名な相手だったらしい。
宮本武蔵とか柳生十兵衛的な立ち位置なのだろうか?
「最後どうなったのか見てたか?」
「はい。ツトム様が魔法で棒を何本も出している間に歩いて近付いて剣を突き付けていましたね」
「ツトムは奴が近付いてくるのがわからなかったのか?」
「ああ。幻影流の影移動という移動術らしい」
対峙している俺だけが認識できない移動法ということか……
「2人は何か対処法とか知ってるか?」
ランテスが言っていた空気の流れを読むとか僅かな音を察知するとかの対処法は、鋭敏な感覚を持つ獣人用だろう。
ディアは首を横に振っている。
辺境部族の出身で帝都でもずっと奴隷商にいたディアが知らないのも当然か。
「私も幻影流と対戦したことがありませんので……」
ロザリナも知らないか。
まぁ宮本武蔵を知ってても『なら二刀流の対処法を教えてくれ』とか言われても困るわな。
「ルルカはセリュドゥクという名を聞いたことはあるか?」
専門外のルルカに話を振ったのはずっと蚊帳の外では気の毒に思っただけなんだけど、
「その名前は知りませんが、幻影流なら知っていますよ?」
「「えっ!?」」
まさかのルルカ情報?
ロザリナまでも驚いているし。
「商売していた時に依頼した護衛の中に幻影流の剣士がおりました」
「そ、それで?」
「その剣士が斥候職の代わりもできるとアピールしていたのを覚えています」
「確かに影移動は斥候職系の移動術らしいが…………」
「そして対処法ですが……」
ゴ、ゴクリ……
「……そこまでは聞いておりません♪」
溜めてまで言うべきことじゃないよね!?
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