第262話
火弾を撃つ。
まともに当たったらセリュドゥクの軽装備ではヤバイだろうが、まず当たらないだろうという前提での攻撃だ。
案の定セリュドゥクは剣を振って迎撃して来た。
射出する火弾の数を増やしてみる。
体を動かしての回避動作が加わっただけで当たる素振りはない。
「ひぃっ!?」「うわっ!?」「キャアアアア!!」
セリュドゥクが避けた火弾が観客席へと向かっていくのを、ヒョイヒョイとジャンプしながら何者かが剣で弾いている。
あの身体能力は獣人だと思うが、大会の運営員か?
これ以上火弾の威力やスピードを上げるのは危険か?
見れば闘技場の楕円形のフィールドの一定間隔ごとに運営員らしき人、獣人が立っている。
まさか俺の魔法から観客を守るために配置してるんじゃないだろうな!?
このままでは埒が明かないので他の攻撃に切り替えようとした時だった。
射出される火弾の数が減ったのを察知したのか、セリュドゥクが猛然と突進して来た!
「くっ……」
セリュドゥクの剣の腕はゲルテス男爵に匹敵するぐらいの達人級の腕だった。
一見軽やかに剣を振っているように見えて、受けてみると意外に重たい斬撃なのがわかる。
このまま防御に徹して本予選決勝のチャルグット戦の時のようにスタミナ切れを狙うか……
セリュドゥクはチャルグットより2歳若いとはいえ、30代半ばなのだから全盛期はとっくに過ぎているはず。
ガキン!!
「!?」
間一髪で魔盾で防御する。
防御に徹するのはいいとしても、剣術における彼我の実力差が大き過ぎる。
急所だけはなんとか守るつもりでもそれをいつまで続けることができるか……
「ぐふっ!?」
腹部に受けたダメージを回復魔法で癒しつつ、なんとか距離を取ろうとする。
このやり方はダメだ!!
本予選決勝でチャルグットがスタミナ切れに陥ったのは、重装備を身に纏っていたからという理由がある。手に持つランスも重量武器だしな。
対してセリュドゥクは軽装備だ。なんなら俺よりも軽装なのだ。
さらに、チャルグットは勝利を決めようとして全力で攻撃して来た。
しかしセリュドゥクは性格なのか何なのか、良く言えばかなり慎重な戦い方をしており動きも俺の出方を伺いつつなので激しくない。悪く言うなら舐められているのか手を抜かれている?!
このままでは単に剣術の差というだけで負けてしまう。
こちらから仕掛けなければ……
攻撃を受けた際の痛みやダメージをなんとか耐えて、回復魔法ではなく攻撃魔法で反撃する。これしかない!
もっと剣術の腕があるなら、自ら隙を作るなり誘ったりして被害を最小限に止めたりするのだろうけど、当然ながら俺にはそんなことはできないし!!
キタ!? 腕に……
「ぐっ!?」
至近距離だが構うもんか!!
火鳥を3羽放つ!
数が増えた事でセリュドゥクが何か勘ぐってくれれば……
この後範囲を限定した風槌の弾幕を放てば火鳥風撃になるが、今回は火弾を撃つことにする。
実体がある分なんとなくだが風槌よりも嫌そうに迎撃していたのだ。
至近で魔法攻撃されたのにも関わらずセリュドゥクは落ち着いて対処している。
俺はさらに火弾を撃ちながら距離を取り、冷静に様子を伺う。
が、なかなか隙らしい隙は生まれない。
さすがは第1シードで1組目に配置されるだけはある。
そのセリュドゥクの後方では相変わらず回避されて飛んでくる火弾を運営の獣人が迎撃している。
こちらから仕掛けると決意したんだ! 勝負に出なければ……
意図的に火弾の数を減らしていく……
当然セリュドゥクは先ほどと同じように突進して来る。
そこを、
風槌アッパー!
風槌アッパー!
風槌アッパー!
アッパー! アッパー! アッパー! アッパー! アッパー! アッパー!
何度撃ってもひょいひょいっと躱されてしまう。
だがまだだ!!
ここで切り札の土刺しを発動する。
セリュドゥクの周囲から20本近い土の棒を伸ばして攻撃を行う。
ガツッ! ガシッ! ゴンッ! ゴンッ!
セリュドゥクに当たっているのか、土の棒同士がぶつかっているのか、土刺しが発動する過程で生じたほこりや塵などで視界が少し悪くなる中、音だけがよく聞こえてくる。
変な当たり方をしなければ大ケガはしないはずだが……
打ち所が悪ければ重症で俺は失格ということもあるか。
だけど審判が判断する前に回復魔法で治してしまえば失格もなくなるか?
そんな算段をしてた時だった。
トンッ。
俺の肩に剣が置かれた。
「それまで! 勝者、セリュドゥク!!」
「えっ?!」
バ、バカな!
なぜ俺の斜め後ろにいる?
人間なのに獣化移動並みのスピードで動いたのか?
いや…………、獣化移動なら今まで防御できていた。まさか獣化移動すら超える速さで…………
ワァー!! ワァーワァー! ワァーワァー! ワァー!!
「(ニコッ)」
セリュドゥクは36歳とは思えない若々しい笑顔を残して戻って行った。
って、結局最後まで無言かよ!
俺も帰ろうとすると肩を掴まれた。
「ちゃんと後片付けはしてくれるのだろう?」
火弾や土刺しの残骸で酷いことになってる舞台を指差す審判の顔も良い笑顔だった。
…
……
…………
「1回戦なんかで負けやがって」
「ランテス……」
待機所へと戻る通路で待ち伏せされていた。
「あんなの無理だろう。
剣を突き付けられるまでまったく気付けなかった。獣化移動以上だったぞ」
「あれは獣化移動のような速く動く類のモノではない。
幻影流の影移動だ」
「影移動??」
まさか影の中を移動するとかのトンデモ性能とかか?
「相手の意識を逸らせて静かに移動する、どちらかと言えば斥候系の移動術だな」
「いくら静かに移動するとしても目の前でちゃんと見てたのに……」
「意識を逸らせるというのが曲者でな、相手にそこにいるよう錯覚させるらしい。
対処法としては空気の流れを読んだり僅かな音を察知するしかない」
そうか! だからあれだけの軽装備だったのか!
僅かな音も発さないように。
「幻影流って?」
「帝国にある剣術と斥候術を融合させた流派だ。結構有名だぞ」
そんなの知らんし?!
「どの道魔術士には分の悪い相手ってことか……」
ほとんどの魔法は音が出るからなぁ。攻撃魔法なんかは特に。
「だからあれほど剣を使えと言ったろう」
「だって俺魔術士だし」
コイツは俺に剣を握らせて一体どうしたいんだ?
「後はせいぜい俺が勝ち上がっていくのを客席でよく見てるんだな!」
「ああ、客席から思いっきり『キャー☆ランテス様ぁ!!』って野太い声援を送ってやるよ」
「貴様ぁ、気持ち悪いことをするなっ!!」
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