第267話

 昼食後に焼き菓子を食べていた時だった。


「そう言えばツトムさんはお菓子も作るんですよ」


「ツムリーソが?」


「はい。なんでもお姫様……これはイリス様のことですが、にお出ししたらしく好評だったらしいですよ」


「アイスクリームとプリンですね」


「アイス……ク?」


「アイスクリームは氷のように冷たくて甘く、口の中でとろけます。

 プリンは卵を使ったぷるぷるして滑らかな食感です」


「ほほぉ」


「バルーカでは既に商品化されて販売してますよ」


「ふむ……」


 ツムリーソも人が悪い!

 10日間も同じ砦にいたのだから私にも供すべきでしょうに!!


「1度試しに食べてみる必要がありますね」


 ルルカのことをジッと見つめる。


「ツトムさ……主に聞いてみませんとなんとも……」


「ツムリーソに、私がそなたの作った菓子を所望していた、と伝えなさい」


「わ、わかりました」


 ツムリーソのことだ、早ければ明日にでも持参するだろう♪


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 家にディアを置き全速飛行でアルタナ王都へと戻って来た。

 今までの最短時間を更新するぐらい早く着いたものの昼は大幅に過ぎていた。

 待ち合わせ場所に行ったら案の定2人はいない。

 遅めの昼食でも食べてるのだろうかとそこで待つことにする。


 20分ほど待っただろうか。


「お待たせしました」


 2人が城の方からやって来た。


「まずは移動しよう」


 ロープで2人と繋がりバルーカへと飛ぶ。

 今回はロザリナが飛行魔法が苦手なので全速飛行ができないし、休憩もある程度取らないといけない。


 40分ほど飛んで休憩にする。

 土魔法で休憩用の小屋を作る。


「それではレイシス姫とどのような話をしたのか聞こう。

 本来ならディアと一緒に聞けばいいのだが、俺は帰ったらすぐに城に行かないとならないから」


 姫様にアルタナから戻った報告とロイターのおっさんに伯爵の紹介状を貰わないと。

 あまり遅い時間だと姫様には失礼だし、ロイターのおっさんは帰宅してしまうだろう。


「ディアには2人から話しておいてくれ」


「わかりました。

 まず最初に、レイシス様はツトムさんにアルタナの貴族の女性を嫁がせるのを諦めてはいないと、はっきりと仰っておりました」


 俺もあの休憩中のやり取りだけで結婚話が白紙となった確信が持てなかったし、レイシス姫の性格と国家軍隊絡みということで簡単には引き下がらないだろうという予感もあった。


「ある意味想定内ではある。早急にどうこうする問題でなくなった分だけ良しとするべきだろう」


 ザ・先送りである。


 でもいいのだ。

 こちらは冒険者として命懸けで最前線で戦っているのだ。

 未来さきのことなんてどうなるかわからないのに、今問題をしょい込んで苦労するつもりなどない!


 だけど、どうなるかわからない、か……

 万が一ということもある。いや、この世界では千が一どころか、百が一、十が一という確率でも全然おかしくない。


「それから今までのツトム様と私達の日々を話しました」


 まぁこの2人に敢えて聞くことなんてそれぐらいか。


「レイシス姫はどんな感じで聞いてたんだ?」


「興味津々といった感じで聞いておられましたよ」


 俺に嫁入りさせる女性にはこの2人と仲良くなるという条件を満たさねばならない。

 もっと言うと2人とねやを共にし奉仕するという大変ハードな条件も追加で付けてある。

 なので、どのような女性が適格なのか探り出そうという肚だろう。


「レイシス様はご結婚はされているのでしょうか?」


「確かイリス姫様と同じく夫に先立たれてるはずだぞ」


「そうでしたか……」


「ルルカ、どうしたんだ?」


「いえ、30歳という年齢の割には夜の話をすると新鮮な反応が返ってきてましたので」


 一国の姫君に何を話してるんだよ!?


「貴族の場合は両極端になりやすいです。

 子作りのために数回しただけで、そのままそういった行為とは無縁の人生を送られる方や、」


 今風で言えばセックスレスだな。


「側室はおろか愛人や奴隷を増やしまくり淫習にふける者など。

 王族の方も似たような感じかと」


 俺は増やしまくってる訳ではないからセーフだ!



「まぁ概ね今回の会談は大過なくやり過ごせた、ということでいいな?」


「よろしいかと」「はい」



「そう言えばレイシス様よりツトムさん宛に御伝言があります」


 な、なんだ??


「『ツムリーソの作った菓子を所望しています』、とのことです」


 2度手間!?

 今朝会った時に言ってくれれば、バルーカに戻った際に買って持って来れたのに!!


 お、落ち着け……

 王族とは手間を掛けさせるもの。そういう存在なのだ。


「わかった。

 城からの帰りにでも買って明日お持ちしよう」


 ソワソワ……、ソワソワ……

 ルルカとロザリナがモジモジしている。


「…………君らの分もちゃんと買うから」


 互いに手を取り喜ぶ2人。

 俺からすればいい歳した大人が……と思うが、甘味に飢えてるこの世界だと通常なのだろう。砂糖の値が高過ぎるのだ。


「この機会にディアにも食べてもらおうか」


 まぁ敢えて食べさせなかった、という訳ではないのだが……


「それと食べたかったら自分達で買いに行ってもいいからな。

 城内に行くことも解禁したことだし」


「よ、よろしいのでしょうか?」


「もちろんだ。

 普段から言ってるように買いたい物があったら自由に買っていい」


「ありがとうございます!」「感謝致します!」


「お、おぉ。3人で仲良く食べるようにな」


 ぶっちゃけ菓子類の管理までやってられるか! という理由だったりする。


「ツトムさんの分は?」


「俺のは気にしなくていい」


 俺は別に甘いモノ好きというわけではないし、味も現代の物と比較するとどうしてもね。






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いつも『異世界ライフは山あり谷あり』をお読み頂きありがとうございます!

早いもので今年もあと僅かということで、今週は木曜日も投稿します!

今後もよろしくお願いします。

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