第204話

「思えば私もリーゼもそなたのことをよく知りません。

 この機会に色々と聞きたく思います」


 俺が姫様のことをよく知らないように、姫様も俺のことを知らないってことか。

 不穏な話でないことはよかったけど、俺にとっては引き続き警戒すべき事柄である。


「えっと、自分の身の上などお耳汚しかと存じまするが……」


「ツトム」


「は、はい」


「変に畏まらずともそなたの話し易いように言いなさい」


「わ、わかりました。それではお言葉に甘えまして…………」


 本当はこういうことは先ほど約束した姫様との2人の時間の時にでもじっくりねっとりと話したかったのだけど。

 まぁ仕方ない。ルルカとロザリナやナナイさんに話したのと同じ内容の説明をした。


「…………リーゼはその『ニホン』という国に心当たりは?」


「まったくありません。今まで一度も聞いたことの無い名です」


 金髪ねーちゃんの小首をかしげる仕草は可愛いを通り越して優美ですらある。

 もう7、8年もすれば俺のストライクゾーンへと入ってくるが、ややボリューム不足なのが非常に惜しいところだ。


「ツトム、その『ニホン』ではそなたのような魔法の使い手がたくさんいるのですか?」


「いえ、自分が魔法を使えるようになったのは超常現象に巻き込まれた後のことです。

 それまでは魔法を見たことすらありませんでした」


 そういえばナナイさんにも日本のことを話した数日後に同様のことを聞かれたな。

 もちろんその時も同じ回答をしたのだけど。


「確か数十年前の帝国における魔法学の権威が、魔素のない地域では魔法が一切使えない旨の研究論文を発表していたような……」


 魔素……また聞いたことのない単語が出てきた。

 この謁見の雰囲気では気軽に質問できないのが痛いところだ。


「そなたはその『ニホン』で何をしていたのですか?」


「商人の手伝いをしておりました」


 たぶんこの言い方で間違ってないはず……


「そしてバルーカに来てからは冒険者として活動を開始するのですね」


「はい。壁外区の冒険者ギルドで登録しました」


「壁外区と城内の冒険者ギルドから取り寄せたそなたの活動記録をリーゼに見せたいと思うのですが、構いませんね?」


「は、はい。どうぞ御随意に」


 活動記録? そんなの見れるの?


「ツトム、その地において一定の権限を持つ者ならば冒険者ギルドに対して情報提供を命じることができるのよ。

 本来は犯罪行為に走った冒険者を取り締まる為の法なのだけど、このように調査目的で活用されることも多いわ」


 金髪ねーちゃんのナイスな解説が入る。


「この記録を読むに、そなたは特定の時期を除いてほとんど依頼を受けていないのはどうしてですか?」


「えっと、自分の活動は狩りが主でして……、それに1人ですと中々依頼を受けれませんので」


「そこです!」


「は?」


「そなたはどうしてパーティーでの活動をしないのですか? 冒険者は数人でパーティーを組むのが一般的でしょう?」


 意外にも姫様のツッコミが鋭い?!

 まさか奴隷達とイチャイチャしたいからなんて理由を言う訳にもいかないし……

 困ったぞ、どうにかうまい理由を考えないと……


「イリス様、この者の強さでは致し方ないことです。戦闘能力の劣る者とパーティーを組む利点もあまりないでしょうし」


 返答に困っていたら金髪ねーちゃんがフォローしてくれた!

 今日は助けられてばかりだな。


「強者には強者なりの悩みや苦悩があるのですね。

 しかしいくらそなたでも一人では危ないでしょうに…………」


 どうやら姫様は俺のことを心配なさっているようだ。

 マズイな。さすがに申し訳なさ過ぎる。


「そうだわ! 1等級か2等級の冒険者を雇ってそなたを護衛させましょう!!」


 いいことを思い付いたとポンッと手を叩いた際に揺れるお山に目は釘付けである。

 い、いかん! 霊峰イリス様に目を奪われている場合ではない!

 俺に護衛を付けるだと?


「恐れながら、自ら望んで一人で活動しておりますので、ご心配は無用に願います。

 それに実力者に守られながらでは己が牙を研ぐこともできず、いざという時に姫様のお役に立つことができません」


「ツトム、そなたはまだ15歳ではありませんか。そのような覚悟を持たずともよいのですよ」


「いいえ、イリス様に忠誠を誓いましたからにはこのツトム、自身の年齢はもちろんいかな状況下であれ姫様の敵を屠るのみであります!」


 未だにどのような経緯で姫様に忠誠を誓ったのか全然わからないけどな!


「おぉ……ツトム……」


 姫様が椅子から立ち上がり俺のほうへ。

 懸命に目線を下げているものの、その圧倒的なまでの存在感に為す術がない。

 姫様は壇上を降りて片膝をついている俺の正面に座り手を添えてきた。


「王都を発つ際には全て失ったものと落ち込みもしましたが、このバルーカの地にてそなたのような忠臣と出会えましたこと凄く嬉しく思います」


「お、畏れ多いことでございます」


 目線を下げている俺の目の前には、乳白色な姫様のたわわなたわわが!?

 触れずともわかるその柔らかさ!

 全てを見れずともわかるその美しさ!

 そして世の全ての男性を魅了するであろうそのエロさ!

 これぞ三位一体が織りなす至高のハーモニー!!


「さぁツトム、こちらを向いて」


 顔に両手を添えられ上を向かされる。

 頬に伝わるひんやりとした手の感触が心地いい。

 が、姫様のたわわから視線を外され凄く残念でならない!


「私に仕えても何も得なことなどありませんよ?」


 得なことしかありませんが!!


「何があろうと自分の想いは変わりません!」


 至近で超絶美人に見つめられて思わず目を逸らしたくなるのを抑えるのに必死だ。

 そのコバルトブルーな瞳は俺の何を見抜こうとしているのか……

 その銀髪からは甘い香の匂いが漂い、姫様の吐息も感じることができる。

 ほんの少しでも顔を突き出せばキスできる距離だ。

 ああ、何もかもを捨てて己の欲望のままに突き進められたなら!


「そなたが帝国での立身出世を望むのであれば、此度の調査を機会として私から離れランドール侯爵家に仕えるのもやむなしと思っていたのですが…………リーゼ!」


「はい、イリス様」


 姫様は俺の顔から手を離して壇上の席へと戻られていく。

 ご褒美タイムは終了かぁ。またもや残念だ。


「この者が私イリス・ルガーナの股肱ここうの臣である旨、しかと書き記すように」


「承知致しました」


「先方も私の臣と承知の上でツトムを引き抜こうなどとは考えぬであろう」


 こういう誘いを断る際には姫様の臣下という立場は便利だという事例パート2だ。

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