第203話
南砦に滞在6日目。
この日も暇なので団長(=ゲルテス男爵)に砦からさらに南の魔族の領域へ偵察に行っていいか聞いてみたが、普通に却下されてしまった。
団長曰く、魔族の領域での偵察には熟練した技能と経験が必要であり、現在はこの砦が魔物に奪われる前まで偵察を担当していたベテラン達が引き続き偵察任務に就いているので素人の出る幕ではないと言う。
そのように言われてしまっては大人しく引き下がる他ない。どうせあと数日で砦を去る者に色々教えたところで意味ないということなんだろう。
南砦に滞在7日目。
昼に食堂に行く途中で2日目にひと悶着あったオグトパーティーの中年魔術士と会い少し話をした。
あの対戦の後パーティーメンバーの説得もあってオグトは3等級への昇格を諦め、今後は引退後に備えて金を稼ぐことを主眼として活動することを決心したのだそうだ。
この砦における依頼の後は長距離&長期間の護衛や警護依頼を受けて他の国にも積極的に行くことも検討しているとのこと。
『君のおかげだ。ありがとう』
と言われたが、すべてはこの人の掌の上だったような気がする。
夜には2回目の一時帰宅をした。
ロザリナと風呂と寝室でたっぷりとイチャイチャして砦に戻った。
サリアさんは2階の部屋からは出てこず、寝ていたのか聞き耳を立てていたのかは不明だ。
南砦に滞在8日目。
この日の昼、砦にほぼ毎日来るバルーカからの定期輸送便が俺に2通の報せを運んで来た。
1通はメルクの冒険者ギルドから団長宛で、2日目にメルク所属の合同パーティーを救援した礼状だった。
俺個人が助けた場合はこんな書状は届かないだろうが、今回は団長の指示で動いた=軍が助けたという形になるのでこのように感謝の意を表したということなんだろう。同様の礼状がバルーカの伯爵宛にも届けられているはず。
もう1通は姫様(=イリス・ルガーナ姫)からで登城せよとのこと。
なんだろう?
前回謁見した際には王都で手配した絵師が近々バルーカに来ると言っていたな。
もう肖像画ができたとか? さすがにこんなに早くは仕上がらないか。
あるいは描いてるところを見せてくれるとかじゃなかろうか?
確か姫様の衣装には薄手の露出の高いモノを要望したんだっけ……我ながら大胆なお願いというか無謀極まるというか……
なんにせよドキドキ☆見学会になりそうで楽しみだ!
さっそく団長の許可を得てバルーカへ。
飛行中に冷静になると、たかが描いてるところを見せるぐらいでわざわざ砦へ書状を送るなんてあり得ないだろう、と常識的な考えをするようになった。
それならどのような用件か余計に気になるけど……
受付での謁見手続きを済ませると即案内された。姫様側からの呼び出しだったからだろうと思ったのだが、待合室に人がいなかったことから単に空いてただけかも?
「命により参上仕りました。ツトムにございます」
「待っておりましたよ」
「ははぁ! 恐悦至極に存じ奉りまする」
相も変わらずお美しい姫様の今日のお召し物は、魅惑の胸元を大胆に露出させた際どい衣装だ。
さらには腰からお尻のむっちりとしたラインも最高で芸術的な曲線を描いている。
ハァ、後ろから抱き付いてモミモミできたらどんなにたまらないだろう!
は!? い、いかん。冷静にならねば…………
姫様の隣には金髪ねーちゃん(=エルカリーゼ・フォン・ビグラム子爵)が座っていて冷たいまなざしを送ってきている。
俺の姫様にデレデレな姿を見て呆れ返っているのではなかろうか?
「先日の城内の戦闘におけるそなたの働きは見事でした」
「畏れ入ります」
「片腕を失いながらの奮戦を称えて褒美を取らせましょう。
願い事を申しなさい」
やった! ご褒美だ!
「は、はい。それでは…………」
どうしようか……
せっかく王都から絵師を呼んでいるのだから、この際姫様のヌードデッサンでも……まぁ無理だよなぁ。
一緒にお風呂はどうだろう? 西の森の拠点に新たに作った空中露天風呂を口実にして……ワンチャンありそうな感じはするけど難しいだろうなぁ。
俺としてもただ一人の姫様派として良識ある行動をしないといけないというのが足枷となっていて、無謀なチャレンジはできなくなっている。もっともそんな枷が無くとも王族に無茶なことを言うなという話ではあるが。
「どうしました?
遠慮せずに何でも言いなさい」
本当に何でも言えたらなぁ。
姫様の左斜め前に立って控えている補佐官であるマイナさんの目が、『王族への敬意を忘れるなよ』と強く訴えてきている。
う~ん…………
姫様とデートとか? 無理とか以前にそもそもどこへお連れしていいのか全然わからん! それにどうせ護衛の人とかついてくるからデートにはならないだろうし!
食事なら……城内であれば可能だろう。ただこれは俺のほうが無理だ。お上品に食べることの何を楽しめと言うのか、胃の痛む時間を過ごすだけなのは目に見えているし。
手をつなぐ? 可能だとしてもこんなことに貴重なご褒美を使うのはもったいない。
仕方ないな。ここは無難に、
「お許し頂けるのであれば、姫様との2人の時間を設けて頂きたく……」
「そのようなことでよいのですか?」
「はい! 是非とも!!」
「いいでしょう。
後ほどマイナと日程の調整をしなさい」
「ははぁ! ありがたき幸せに存じまする!」
改めて思えば俺は姫様のことを何も知らないに等しいからな。
弟殿下(=現国王)との王位争いに敗れたことと、ご主人を亡くされて久しいこと、それとお子さんはいないことぐらいしか知らないし。
このようなお堅い雰囲気の謁見形式だとまともに話すらできないから、もう少しフランクな感じで話せるようになれれば。
もっとも『姫様との2人の時間』と言ったところで、衝立で仕切る向こうにマイナさんや侍女が待機しているぐらいは予め覚悟しておくべきだろう。
「それでは本題に入りましょうか」
え? ご褒美が本題ではなかったのか。
「リーゼ」
「承知しました」
金髪ねーちゃんが俺のほうを向き、
「ツトム、そなたは帝国のランドール侯爵家を知っていますか?」
「いえ、存じませんが……」
「ランドール家は帝国における保守派の重鎮であり、5つある侯爵家の中では最古参の貴族になります」
「はぁ……」
「2つの公爵家に5つの侯爵家、帝国はこの2公5侯体制を昔から維持することで国の安定を図ってきました」
いきなり帝国における貴族体制の講義が始まり戸惑う俺。
金髪ねーちゃんは子爵家だからそのなんとかって体制をぶっ壊して成り上りたいとかか?
そんな野心家的なイメージはないけどなぁ。
でも軍人だし、一軍を率いてるからには天下を望む的なことだろうか?
しかし他国の姫君の前で大胆な…………ま、待てよ、姫様も後継争いに敗れた身。失地挽回を図るために金髪ねーちゃんと手を組みまずは王国の実権から……
当然姫様派の俺も同じ旗を仰がねばならず……た、大変なことになってきたぞ!
今は人同士で争いをしている時では……
「そのランドール侯爵家から私の父を経由してそなたの身元を調べるよう依頼がありました」
あ、あれ?
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