第200話

「…………というのが今日の戦闘の詳細です。

 盛り上がる場面がないのでつまらなかったとは思いますが……」


「…………」


 今度はレイシス姫のほうが考え込んでいるみたいだ。


「(飛行魔法で現場まで短時間で赴き200体以上の魔物を殲滅。

 魔力量の多い魔術士でしたら同様のことも可能なのかもしれない。ただ……)」


 アゴに手を当ててうつむき加減で考え込むお姿はそれだけで美術品と言っていいだろう。


「(問題なのはそれを命じることができるのかという点にある。

 ベルガーナ王国軍でさえ魔術士のそのような運用はしていないと聞く。

 当たり前だ。優秀な魔術士を失うリスクを考えれば護衛部隊を同行させる労力や手間暇を惜しむべきではない。

 この者が特別なのだ。強い個体を単独で倒し切れるツムリーソだからこそこの砦の指揮官も気軽に命じられるのだろう)」


 俺の顔をじっと見つめているレイシス姫。

 このまま2人して見つめ合っていたら互いの唇が急接近してドキドキッ☆なんてことにならないだろうか?

 もっともそうなると俺のアルタナ王国お婿さんルートが確定してしまうのだろうけど。


「(現実的にはお姉さま(=イリス・ルガーナ姫)を説得してツムリーソをアルタナに迎え入れるのはまず不可能と見なければならない。

 父上に話を通して国家間の問題にしたほうがまだ事はスムーズに運ぶだろう。ただし、この場合は私がお姉さまの御不興を買ってしまうことになる。

 それに加えてツムリーソの冒険者といういざとなれば国を捨てられる立場もある。帝国にでも移住されたら我が国はもちろんベルガーナ王国だって軽々に手は出せなくなるわ)」


 なんだろう?

 俺を見つめるレイシス姫の瞳が段々と獲物を狙うような目付きに……


「(目的を一つに絞りましょう。ツムリーソにアルタナ王家所縁の女性を嫁入りさせることを最優先目標として、我が国に婿入りさせることについては断念する。

 まず最初にお姉さまの了解を得ること。お姉さまにとっても我が国との結びつきを深めることに何ら異存はないはず。お姉さまと2人で説得すれば如何にツムリーソといえど…………

 懸念があるとすれば個人的な事情とやらを断る際の理由に挙げていた点かしら。それが何なのかを調べないと……目の前にいる本人に問い質すのが一番早いのだけど、あまり無理強いをして私を通して我が国の印象を悪くされても困るのよね)」


 !?

 レイシス姫がいきなり立ち上がった!!


「帰ります」


 ええぇぇぇぇ?!

 この無言で見つめ合う時間は一体何だったのさ!!


 とりあえず昨日の失敗を繰り返す訳にもいかないので、


「お部屋までお送りしましょう」


 と言ってみたのだけど、


「不要です」


 の一言で却下されてしまった。残念! ……なのだろうか?




 南砦に滞在3日目。

 この日は前日にやり残したお風呂施設の内装工事を1日掛けて終わらせた。

 もちろん夜に魔法もきちんと練習する。

 特に何がある訳でもなくこの日は終了した。




 南砦に滞在4日目。

 本日は遂に一時帰宅できる日だ。

 もっとも3日間砦に詰めることにするというのは自分で勝手に決めたことなので、帰ろうと思えばいくらでも帰れる機会はあった。単にロザリナにそう言ってしまった手前引っ込みつかなくなっただけである。

 ナナイさんには既に話を通していて、夜まで何も異変がなければ一声かけて帰る手はずになっている。


 滞在4日目にして初めて朝から晩まで指揮所で待機することになったのだが、初日の水を打ったような静寂さの中で淡々と仕事をする様子と違い、雑談オッケーの割と緩い雰囲気の中での待機だったのでかなり居心地がよくて助かった。

 もちろん俺が話せる相手はナナイさんぐらいしかいないし、そのナナイさんも指揮官クラスや参謀連中の中では下っ端なので色々と雑用に使われて話せる機会はほとんどないのだけど、他人同士の雑談が聞こえてくる、それだけで気分的にも楽なのだ。

 この指揮所の運営方法の違いは現場指揮官であるゲルテス男爵と総司令官ポジションのグレドール伯爵との違いなのだろう。

 もっとも団長の場合は調練だ、訓練だ、模擬戦だと事あるごとに外に出ようとするのを参謀達にしょっちゅう止められているので、その人の気性的な問題も絡んでいるのかもしれない。


 午後に一度だけレイシス姫が指揮所に現れ何やら団長と話していた。

 特にこちらに話しかけてくることもなく、俺も皆と同じように頭を下げるのみだった。

 この2日間でレイシス姫を見たのはこの1回のみだった。



 夕食後にナナイさんに声をかけて帰宅できることになった。

 ナナイさんからは何かあったら伝令を飛ばすのでくれぐれも自宅以外には行かないようにと念を押された。

 もちろん了承する。


 砦を飛び立ち、まずはバルーカとの中間ぐらいで一旦降りて魔法の練習をした。

 こういう努力的なことは一度サボってしまうと際限なくサボってしまう自分をよく知っているので、短時間でもやり続けることが継続する秘訣なのだ。


 練習を終えて自宅まで飛んでドアをそぉーっと開ける。


「お帰りなさいませ。

 お待ちしておりました」


「ロザリナ、ただいま」


 お辞儀しているロザリナを抱き締めてキスをする。


「んっ……」


 この抱き心地! この柔らかさ! そして女体から漂うこの匂い!

 これだよ! これ! 

 砦ではまったくエロいことがなかったので辛かった!


 すぐに脱衣所に移動し、ロザリナに服を脱がされながら湯の準備をする。

 偶然なのかわざとなのか、ロザリナは俺のに触れるか触れないかのギリギリのラインでズボンとパンツを脱がすのでもう待ったなしの状態になってしまっている。

 そしてこれまた偶然なのかわざとなのか、ロザリナは次に俺の目の前で淫靡な仕草をしながら自らの服をゆっくりと脱ぎ出し…………ってこれ絶対わざとだろ! 狙っているだろ!

 もう我慢できん!!


「あっ、ツ、ツトム様、せめてお風呂場で……あんっ…………」


 あと10秒も我慢すればロザリナも全て脱ぎ終わったのに、そのたった10秒間すら待てずに脱衣所で始めてしまった。


「ツトム様、いつもより、んっ、は、激しいです……」


「あんなにも挑発するロザリナが悪い!」


「んっ、ワザとでは…………」


「本当に?」


「も、申し訳ありません。ツトム様に抱かれるのも3日ぶりですのでつい嬉しくてイジワルを……あっ、さ、さらに激しく!?」


 あんなイジワルなら大歓迎過ぎるぞ!!


「あっ、あぁっ、ツトム様ぁ……チュパ、レロ……んっ、んんっ、ああぁぁぁぁ!」




……


…………



「ずっと玄関で待っていたのか?」


「はい。今晩お帰りになると仰っていましたから……」


 2人で密着して湯に浸かる。

 背後からねっとりと両手で揉みながら、以前から疑問に思っていたことを聞いてみた。


「普段ルルカも俺の帰りをずっと玄関で待っているのか?」


「ルルカさんはいつもツトム様が帰られる少し前に『そろそろかしら』と仰って玄関に行かれますよ」


 え?


「えっと、ロザリナはそんなルルカを見て不思議には思わないのか?」


「特には。ルルカさんですし」


 意味がわからない……

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