第199話

 砦の中は冒険者もチラホラと見かけるようになって華やかさや明るさが増したように思える。

 やはり軍人だけ、軍服しか見かけないというのは重たい印象を抱いてしまうのだろう。


 オグトはひょっとしたらグリードさんと古い知り合いとかなのかもしれない。

 等級の低い頃とか、それ以前の冒険者になる前に同じ道場に通っていたとか、二人の実力差があまりない頃にライバル視していたのを引きずって……俺の妄想かもしれないけど。

 これからあのパーティーは引退に向けての予定なり目標なりを話し合っていくのだろうけど、知り合いでもないパーティーなのにそのような場面に立ち会ったことで、自分の気持ちまで沈み気味になってしまう。

 自分も30歳近くなると冒険者を引退することを考えるようになるのだろうか?

 15年後の話ではあるが……

 あっ!? でも魔術士なら冒険者寿命?はそこそこ長く活動できるか。


 晩飯までまだ時間があるので一旦自室に向かおうとした時、


「ツトムさん! こちらでしたか」


「ナナイさんどうしましたか?」


「どうもこうも、お風呂の準備をお願いします」


「でもまだ内装が終わってませんよ?」


「今晩から入れるってもう告知しちゃってるんですよぉ」


 あらら。またなんとも見切り発車な……


「内装は明日仕上げる形でいいので浴場と湯の準備をお願いします!!」


 これも仕事だし仕方ないか……

 ん? 仕事?

 確かお風呂を作っているのは、明後日(砦滞在4日目)俺が自宅で風呂に入る為(という名目でロザリナとxxxする為)なのでひょっとしたら報酬は無し?

 まぁそこまで報酬に拘ることはないだろうし、軍なら他の部分の報酬はきちんと出してくれるだろうから別にいいか。


「わかりました。すぐに取り掛かりましょう」


「ありがとうございます!!」




 一階の男湯、二階の女湯共に最終チェックをして浄化魔法で綺麗にしてから湯を満たす。

 夕食後に開店?するそうなのでそれまでに冷めるのを考慮して湯を高温にする。

 もっとも温度調整は軍の魔術士が行うとのことなので大丈夫らしい。


 未完成なトイレは土壁で塞いでしまい、脱衣所にはとりあえずとして下駄箱みたいな服を置く場所を適当に作った。

 そうそう、脱衣所といえば結局冷蔵庫は作らないことにした。

 中に入れる飲み物がないということもあるけど、冷蔵庫そのものが作れないことに気が付いた。

 土魔法ではどうしても冷蔵庫を密閉状態にするドアの部分が作れないのである。

 この辺りは職人さんの凄さがわかり易く差として出ている。



 風呂に入るだけなら最低限の機能はあるとして、この状態で湯浴み客を迎え入れることにした。別に利用料を徴収する訳ではないけど。

 夕食後に見に行ったら人だかりにはなっていたものの、思ったほどの人数はいなかった。砦での勤務は三交代制なので入浴する時間帯が分散しているからだそうだ。


 その後に砦の外で魔法の練習をしてから自室に戻る。

 自室のドアを開けると、ベッドにレイシス姫が腰掛けている幻想が見えたので、そのまま静かにドアを閉めた。


 俺は疲れているのだろうか?

 今日も結構忙しかったしなぁ、と現実逃避をしていると、


「ツムリーソ、何をしているのです?

 そなたの部屋でしょう?

 早くお入りなさい」


 中からドアを開けたレイシス姫が俺の手を引いて自室へと誘う。

 見方によってはかなりのドキドキなシチュエーションなのだが、そういった甘い雰囲気にならないのはどうしてなのだろう?

 もっともレイシス姫の格好も昨日部屋に来た時は普段着のような装いで距離感の近さみたいなのがあったのだけど、今日はなぜか鎧姿である。

 ひょっとして今日は1人で男の部屋に行くので俺を警戒して完全武装してるとか?

 あるいは部屋までの帰り道を警戒してとかか? もしそうなら昨日1人で帰らせてしまったのはマズかったかも……


「なにゆえそのように難しい顔をしているのかわかりませんが……

 とりあえずお座りなさい」


「は、はい……」


 まさかベッドに腰掛けているレイシス姫の隣に座る訳にもいかず、対面に椅子を置いて腰掛ける。

 昨日と同じように果汁水をお出しして様子を伺う。

 これで完全武装してなければなぁ、肌色部分が全くないので目で楽しむところが何もないのだ。

 …………いや、待てよ。見方を変えて金髪美女がコスプレをしていると捉えればなんとかならんか?…………ならんよなぁ。コスプレイヤーと違ってリアルプリンセスから発せられるロイヤルなオーラは圧倒的だ。


 う~~ん……、遂に俺も王家の威光に屈してしまう時が来たのだろうか?

 既存の妄想力では太刀打ちできないのであれば、発想を飛躍させなくてはならない。

 そうだよ! 逆に考えるんだ!!

 即ち、リアルプリンセスにコスプレをしてもらうのだ!!

 本物が着れば衣装もまた本物になる……フッ、世の中の真理に辿り着いてしまった。

 もっとも仮に鎧系統のエロエロなアイテムがあったとしても、どうやってそれをレイシス姫に着てもらうのかという難問が控えているけど……

 アルタナ王国の貴族に婿入りするからと言えば喜んで着てくれそうだけど、その為に支払う代償が余りにも大き過ぎる!!

 魔法の指導をするぐらいで何とか手を打ってもらえないかなぁ……かなり厳しいか。

 昨日の行軍中に俺に感謝していると言ってたぐらいだしお礼にという流れでなんとか……バレバレとはいえ散々自分ではないと言い張っておいてそれはないわなぁ。

 まぁ現状では八方塞がりな訳で…………、とりあえずは衣装作りから始めるか。もちろん作ってくれるところを探すとこから始めないといけないが、まずは契約しているバルーカの下着店に当たってみるべきだろう。

 試作品としてルルカとロザリナの分も作ってもらえば……レイシス姫だと着て頂くこと以外はなにも期待できないが、2人なら着たままでプレイ可能だ。むしろこちらを本命とすべきではないだろうか?

 しきりに独りでうん、うん、と頷いていると、


「ずっと黙ったままいきなり頷き始めて……一体なにを考えているのですか?」


 レイシス姫に不審な目で見られていた……

 あまりおかしな挙動をしていると姫様(=イリス姫)に迷惑を掛けてしまうかもしれない。

 ならば!


「人の欲について考えていました」


「欲ですか」


「はい。人は願いを叶えてもまたすぐに別の願いを抱きます。

 その終わりなき欲望の果てに行きつく先は一体どこなのか……

 そのようなことを考えていました」


「そうですか……(なぜ今そのようなことを??)」


「ところで今回の御用件は?」


「本日の午後にツムリーソが出撃したと聞き及びました。

 昨晩申した通りその詳細を聞かせなさい」


「えっと、今日の戦闘はお聞かせするような大したモノではなくてですね、特殊な個体もおりませんでしたし……」


 戦闘自体は特に盛り上がりも無く終わったからなぁ。

 わざわざ聞かせるほどのモノでもないと思うのだけど。


「我が軍にとってはむしろ通常戦闘のほうが参考にすべき点が多いでしょう。

 特殊個体との戦闘は個人の能力に頼る面が大きいですから」


 軍隊としてはそうなのかもしれないな。


「わかりました。えっとですね…………」

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